2017年07月28日
世界初の中判ミラーレスとして注目を集めたハッセルブラッド「X1D-50c」。そして今年、新たに富士フイルム「GFX 50S」が発売された。ミラーレス構造と中判サイズの撮像素子によるアドバンテージを兼ね備えたハイエンドデジタルカメラ2機種を比較する。
中判ミラーレスは、プロの撮影をどう変えるのか
これからのプロ用デジタルカメラの主流はミラーレスになるのではないか。そう思わせるのに充分な性能のミラーレスカメラが、続々と登場してきました。中でも注目すべきは、中判サイズのミラーレスカメラ、富士フイルム「GFX 50S」とハッセルブラッド「X1D-50c」の2機種。ミラーレスカメラのハイエンドとも言えるこのカメラが、デジタルカメラの時代を大きく変えていきそうです。
そもそも、今までミラーレスカメラがプロのメイン機として選ばれにくかったのはなぜでしょうか。「オートフォーカスが遅い」、「ファインダーが見づらい」、「液晶ファインダーに遅延がある」などの理由が良く挙げられます。つまり、一番大きな理由は、プロユースに耐えるシステムを持ったミラーレスカメラがなかったということでしょう。
業務で使用するにはカメラ本体の性能はもちろんのことレンズシステム、アクセサリー、ソフトウェア等の充実は欠かせません。そして何よりメーカーのサポートがしっかりしていることが大切です。メーカーが本気でプロ用ミラーレスを作っていなかったと言えますが、ここしばらくの「GFX 50S」、「X1D-50c」、「α9」といった高性能ミラーレスの登場からみるに、これから色々な動きが出てくることは間違いありません。
ミラーレスの欠点とされる要素も自身の撮影環境をもう一度良く考えてみればそれほど大きな問題ではないのでは。コマーシャルや雑誌、カタログの撮影では秒間何十コマの連写や瞬時にフォーカスする必要があるでしょうか。それよりもミラーレスカメラの「レンズを含めたシステムの小型軽量化」「ファインダーは暗い所でも明るくて見やすい」「フォーカスの精度が高い」などのメリットは写真のクオリティに影響します。また、システム全体のコストを抑える効果も見逃せません。プロの実用に耐えると判断されれば、中判一眼レフからの乗り換えも一気に進むと見られます。
機種名 | 富士フイルム GFX 50S |
ハッセルブラッド X1D-50c |
---|---|---|
レンズマウント | FUJIFILM Gマウント | Xマウント |
有効画素数 | 約5140万画素 | 5000万画素 |
撮像素子 | 43.8mm×32.9mm(FUJIFILM G Format) ベイヤーCMOSセンサー |
43.8mm×32.9mm CMOSセンサー |
ISO感度 | 〈標準出力感度〉ISO100~12800(1/3ステップ) 〈拡張モード〉ISO50・25600・51200・102400 |
ISO100~25600 |
測光方式 | TTL256分割測光 | 中央部重点測光、中央スポット、スポット |
露出補正 | -5.0EV~+5.0EV・1/3EVステップ | -5~+5EV・1/3,1/2, もしくは1EVごとの増減が可能 |
シャッター形式 | 電磁制御式縦走りフォーカルプレーンシャッター | レンズシャッター |
シャッター速度 | 4秒~1/4000秒(メカニカルシャッター・Pモード時)・ バルブ(最長60分) |
XCDレンズにて1/2000秒~60分 |
連写 | 約3.0コマ/秒 | 1.7枚/秒 |
記録メディア | SD・SDHC・SDXCメモリーカード、 UHS-l・UHS-ll対応 |
SD・SDHC・SDXCメモリーカード、 UHS-l対応 |
液晶モニター | 3.2型タッチパネル式3方向チルトTFTカラー | タッチ機能付き3.0型TFT |
ファインダー | 0.5型有機ELファインダー・約369万ドット(視野率100%) | 2.4MP XGA 電子ビューファインダー |
動画 | FULL HD(1920×1080)・ HD(1280×720) |
FULL HD(1920×1080) |
外寸 | 147.5×94.2×91.4mm | 150.4×98.1×71.4mm |
質量 | 約920g(EVF、バッテリー、メモリーカードを含む) | 725g(バッテリー含む) |
各機種のおいたちからアプローチの違いが見える
センサーサイズなどカテゴリーとしては同じ分類になる両機種ですが、それぞれのボディやシステムの特徴、さらにはターゲットユーザーも大きく異なります。この違いは、ハッセルブラッドと富士フイルムの機種構成とユーザー層の違いからくるものです。
富士フイルムのXシリーズはAPS-Cサイズのミラーレスとしてプロにも評価の高いシリーズです。スナップ撮影や取材では「X-T2」を使用するフォトグラファーも見かけます。その上位機として誕生したのが「GFX 50S」です。35mmフルサイズを飛び越えて面積比約4倍の中判フォーマット。操作系はXシリーズを踏襲し「X-T2」ユーザーには違和感なく受け入れられるようになっています。
ハッセルブラッドはHシリーズの最上位モデルである1億画素センサーの「H6D-100c」、5000万画素の「H6D-50c」をラインナップしています。Hシリーズは「H1」というフィルムカメラをベースに進化してきました。フィルムでは6×4.5mmサイズのなので有効画面は41.5×56mmです。これを100%とすると「H6D-100c」は、92%とまずまず良いサイズですが、「H6D-50c」では62%とずいぶん小さくなります。センサーサイズだけで考えると「H6D-100c」の方がベストで「H6D-50c」はカメラシステムの性能を活かし切っているとはいえません。
そこで、「H6D-50c」と同じセンサーに合わせて設計された「X1D-50c」の登場です。専用のレンズとボディでシステム全体のコストをおさえつつ「H6D-50c」と同等の画質を実現しています。また、ミラーレス化されたボディはスマートで上質な仕上がりとなっていて、上位モデルとしての違いを明確にしています。
「X1D-50c」の主なターゲットはプロからハイアマチュアではないでしょうか。もちろんプロユースにも耐えられるように作られていますが、スマートに徹しているデザインは使用シーンを選びます。「GFX 50S」が想定しているユーザーは営業写真館だと思います。スナップ用途のAPS-Cと中判があれば35mmフルサイズは中途半端になると判断したのでしょう。このようにそれぞれ、異なったアプローチからカメラを作っています。
大きさの比較。左から「GFX 50S」、「X1D-50c」、
グレー枠の35mmフルサイズ一眼上位機種と比べて一回り小さくなっているのがわかる。
ミラーレス構造による小型軽量化にも差があった
これらのカメラはミラーレスを採用することで中判フォーマットでありながらコンパクトで軽量に仕上がっています。正面から見ると35mmフルサイズ一眼の上級機と比較しても小さいくらいです。両機のサイズ差はファインダー分程度に見えますが、奥行きは「X1D-50c」が「GFX 50S」のほぼ半分くらいしかありません。そのため重量は、「GFX 50S」の方が少し重く920g(バッテリー、EVF含む)です。それでも主要な35mmフルサイズ一眼の上級機(約1400g)と比較しても2/3程度の重さです。
一方の「X1D-50c」はアルミの削り出しボディを採用していて持った感もずっしりとしていますが、それでも725gしかなく、やはり軽量さが目立ちます。
想定するターゲットの違いが外観と操作性に表れる
外観の方向性は、全く異なります。「GFX50S」は、あらゆる層のプロフォトグラファーを想定しているのか、ボタンやダイヤルの多い無骨なデザインで好みが分かれるでしょう。多くが単機能で簡単に操作ができるように配慮されています。面白いのは交換レンズ全てに絞りリングがありながら「C」に設定することでリヤコマンドダイヤルに操作を割り当てられるところです。「やっぱり絞り環だよね」というフォトグラファーまでカバーする作り。3方向チルトタッチパネルや豊富なメニューなど搭載可能な機能は全て用意したという仕上がりです。
対する「X1D-50c」は非常にシンプルなデザインです。ダイヤルは、メイン&サブダイヤルにモード選択ダイヤルのみです。ボタンも最小限に。背面によくある十字キーもありません。操作のためにはもう少しボタンがあっても良さそうですが、操作性よりスマートなデザインを優先しています。アルミ削り出しボディは金属そのままの感触が残る梨地加工で手で触れるまでもなく高級感が伝わります。このボディは、スウェーデンで手づくりされているとのことで、軍艦部に彫り込まれた「HANDMADE IN SWEDEN」の文字にもこだわりが感じられます。
ポート類はどちらも左側で、ボディの厚みがある「GFX 50S」は配置に余裕があり、「X1D-50c」にはない外部電源とリモートレリーズのポートが用意されています。またポート類の中ほどには、付属のケーブルホルダーを固定するためのネジ穴があります。がっちり留まる大きめのホルダーでHDMIやUSBポートを事故から守ります。決してスタイリッシュではありませんが、業務用としての割り切りを感じる部分です。
自分にあったカスタマイズをすれば「GFX 50S」の方が使いやすそうですが、多めのボタンの配置に慣れる時間が必要です。「X1D-50c」は、多くの操作を背面のタッチパネルで行なうので、どうしてもアクションが多くなりスムーズさに欠けます。特に、フォーカスポイントの切り替えは上面のAF/MFボタンを長押しする必要があり、良く使う機能だけに改善してほしい部分です。
※この記事はコマーシャル・フォト2017年7月号から転載しています。
BOCO塚本 BOCO Tsukamoto
1961年生まれ。1994年フリーランス、2004年ニューヨークSOHOにてART GALA出展、2007年個展「融和」、ほかグループ展、執筆多数。公益社団法人日本広告写真家協会(APA)理事、京都光華女子大学非常勤講師。
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