2015年01月20日
4K/60Pの映像は高精細で動きが滑らかな反面、データ量が膨大となり、制作には多くの困難を伴う。その4K/60Pに挑戦したパナソニック4Kプロモーション映像「リベラシオン」の制作舞台裏を2回に分けて詳しく紹介する。
パナソニック4Kプロモーション映像「リベラシオン」
4K/60Pの情報量は膨大でフルHDの8倍になる
4Kというキーワードは世の中に定着した感があるが、60Pについて知る人は少ないかもしれない。簡単に説明すると、現在のテレビ放送のフレームレートは30P=毎秒30フレームで、60Pはその2倍。カメラや被写体が素早く動いても滑らかに再現できる一方で、データ量は多くなり、4K/60PではフルHDの8倍にもなる。
2014年6月に開始された4K試験放送では4K/60Pが採用されているが、多くのコンテンツはスポーツ中継や紀行番組で占められており、映画やテレビCMのようにCGやVFXを駆使するタイプの作品はまだ少ない。電器店の店頭で流される4Kプロモーション映像も同様だ。4K/60Pでそういう作品を作るのは、データ量の膨大さから言って非常にハードルが高いのである。
井筒亮太 氏
プロデューサー
橋本大佑 氏
ディレクター
この4K/60Pに果敢に挑戦したのが、パナソニック4Kプロモーション映像「リベラシオン」である。制作にあたったのは、映画、ゲーム、テレビなどのCGやVFXを得意とするデジタル・フロンティアだ。
同社のプロデューサー井筒亮太氏は、本企画の意図をこう語る。「クライアントサイドからは、従来の4Kコンテンツにはないアーティスティックな映像を作ってほしいという要望がありました。パナソニックさんの4Kテレビは60P対応なので、解像感と描画性能の両方を高い次元で表現するために、ダンスの実写映像をベースに躍動感のあるCGを足そうと考えました」。
主役に起用されたのはフラメンコダンサーの工藤朋子氏。ディレクターの橋本大佑氏はその情熱的でストイックな踊りを見て、それを活かす形で演出プランを立てた。「フラメンコをきれいに踊れる人は他にいるかもしれないけれど、彼女にしか表現できないパッションを作品の核にしようと思いました。衣装やエフェクトはできるだけ余計な物を削ぎ落として、黒バックに赤い衣装、赤い糸のCGだけで構成して、彼女の世界観を表現しています」。
撮影、ポスプロ、色調整の各工程とも難題が山積み
こうして作品の方向性は固まったが、その実現には技術的に解決すべき事が多々あった。まず、ダンスがモチーフとなるのでハイスピード(HS)撮影は必須。ベースとなるフレームレートが60Pなので、通常のHSの倍の光量が必要となり、大量の照明機材を調達しなければならなかった。
渡辺伸次 氏
テクニカルディレクター
鈴木孝俊 氏
ディレクター・オブ・フォトグラフィー
また撮影データが非常に重たいので、ポスプロ用のPCとして超高速なマシンが必須となった。しかもCGやVFXも4K/60Pで作業するので、1台だけではとても済まない。そして、店頭の4Kテレビで見た時にもっとも見栄えが良くなるように色づくりをしなければならないのだが、通常のPCモニターやマスモニでは4Kテレビの色を確認することは難しかった。
このように難題が山積みのプロジェクトだったが、テクニカルディレクターの渡辺伸次氏があらかじめワークフロー全体の設計を行ない、フォトグラファーの鈴木孝俊氏をはじめ多くのスタッフと協力して課題を解決していくことで、状況は一歩ずつ前進していった。
また今回のプロジェクトには、4K作品に精通したパナソニック映像のプロデューサーおよびスタッフも参加しており、これまで多くの4K技術検証を重ね、培ってきた同社の4K技術ノウハウを基盤として制作されているという。
本特集ではこの「リベラシオン」を4K/60Pの先駆的な事例として取り上げ、4K/60Pの撮影、ポスプロ、カラーグレーディングの各工程でどのような課題があり、それをどう解決していったのかを紹介していくことにする。
巨大なグリーンバックで最大600コマのハイスピード撮影
60Pの10倍の600fpsでハイスピード撮影するため、通常の撮影の20倍もの光量が必要となる。ステージ上はかなりのまぶしさとなった。
「リベラシオン」の撮影は2014年2月下旬、黒澤フィルムスタジオ横浜で行なわれた。HS用として朋栄FT-ONEを、さらにソニーF65も用意して、こちらをノーマルスピード(60P)撮影用とする2カメ体制だ。
「監督との打ち合わせで10倍のHSが必要だとわかっていたので、秒間600フレーム以上撮れるカメラとしてFT-ONEを選びました。2月の時点ではこの選択肢しかなかったのですが、4KのHSカメラは過渡期ということもあって、F65と色を合わせるのに苦労しました。とはいえ解像度的な情報量は豊富ですし、撮ってすぐ4K再生ができるところはよかったですね」 (テクニカルディレクター渡辺伸次氏)。
「照明も苦労しました。HSはただでさえ光量が必要なのに、今回は60Pに加えて、FT-ONEの特性で1/1500秒でシャッターを切らねばならず、さらに動きに対するフォーカス等の問題で絞り込む必要もあったので、大量の照明機材を用意しなければなりませんでした。照明の東田さんに相談して、18キロのHMI4灯をまとめてメインライトとし、返しにも12キロ4灯を使用しました。この大光量を正面から当ててしまうと目が開けられないので、いかに演者の支障にならないように美しいライティングをするかがポイントでした」(DP鈴木孝俊氏)。
その場でグリーンを抜いて照明のバランスを決めた
そして、さらに照明を難しくしたのが、全篇グリーンバックでの撮影となったこと。今回はパナソニックの4Kテレビで見た時の黒の締まりや階調の美しさが求められたのだが、現状ではどのカメラであっても暗部のノイズは避けられない。そこでグリーンバックで撮って、後処理できれいな黒を作ることになったのだ。
モニターの前に集まって映像をチェックするメインスタッフ。
撮影したらその場でグリーンを抜く。キーイングの状態を確認して照明の調整を行なうためだ。
「強い影が付きすぎたり、グリーンが抜けないと後処理で困るので、今回は現場でPCモニターを見ながら、これだったら後で調整できるだろうというギリギリのところを、渡辺さんにチェックしてもらいました」(鈴木氏)。
照明の問題と並行してスタッフを悩ませたのがフォーカスの問題で、ダンサーの激しい動きにフォーカスを合わせるのはかなり難易度が高かった。現場では1〜2秒の出来事でもHSでは何倍にも引き伸されるので、フォーカスはいつも以上に厳密さが必要。そしてなによりも、完成作品が大画面の4Kテレビで上映されるので、微妙なピントのズレでも禁物だったのだ。カメラ自体もレールを引いて移動していたので、二重三重に大変だったという。
井筒氏によると「各分野のスペシャリストが集まっていても、初めてのことばかりで、技術的なハードルが高かった」そうだが、それでも、一つ一つ丁寧に撮影を進めたことで様々な問題点を解消できた。
現場にはハイスペックのワークステーションHP Z820が持ち込まれ、渡辺氏がその場でRAW現像と仮のカラーグレーディングを行ない、グリーンバックを抜いた状態の絵をメインスタッフ全員でチェックしていった。このような確認を要所で行なったおかげで、時間はかかったものの、適切な照明のバランスを目で見て決めることができたし、最終的なイメージをスタッフ間で共有できるようになった。
またパナソニック映像でも、フォーカスを厳密にチェックするためパナソニックの4Kテレビを現場に持ち込んだ。FT-ONEはリアルタイムに4Kを再生できるので、その映像でフォーカスや暗部ノイズを確認。F65はHDのモニターアウトしかないので、Davinci Resolveで現像したデータを4K再生機BlueFish4:4:4に転送して、問題がないか繰り返し確認したという。
写真:坂上俊彦
※この記事はコマーシャル・フォト2014年11月号から転載しています。
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