4K入門 高精細映像の世界

4K/60Pの超高精細映像に挑戦したパナソニック4Kプロモーション映像<後編>

4K/60Pで制作された、パナソニック4Kプロモーション映像「リベラシオン」。その制作舞台裏に迫るレポートの後編をお届けする。

>>前編はこちら

img_products_4k_frontier2_19.jpg パナソニック4Kプロモーション映像「リベラシオン」

4K解像度の3DCGを制作して実写素材と合成

「リベラシオン」の見所はなんといってもダンサー工藤朋子の情熱的な踊りと、身に纏った真っ赤な衣装が舞うところ、そして彼女の周りでダイナミックに躍動する赤い糸のCGだ。

「僕の中のストーリーとしては、最初は何もない暗闇の中に妖精がいて、もがき苦しみながら生命をつかみ取っていき、そして最後に覚醒するというものです。この糸は彼女のエネルギーによって動き、命を宿しているように見せたかったので、糸のディテールや動きはできるだけリアルに、艶かしく魅惑的なものにしたいと思いました」(橋本氏)。

img_products_4k_frontier2_01a.jpg 3DCGとコンポジットの作業は、CINEMA 4DとAfter Effects CCの組合せで行なった。
img_products_hp_z800_dfx_08.jpg 津田晃暢
CGアーティスト
img_products_hp_z800_dfx_07.jpg 守屋雄介
CGディレクター

これを受けて実際に3DCGを制作したのが、デジタル・フロンティアのCGアーティスト津田晃暢氏とCGディレクター守屋雄介氏で、守屋氏はエディットとコンポジット周りも担当している。

3Dワークの流れとしては、まず実写の撮影素材をノーマル色にカラコレして、HQXという仮合成用の軽いデータと、本番用の16bit DPXの2種類を書き出して、これをもとに作業開始。

マッチムーブソフトのBoujouでカメラの動きを解析したデータを作り、Mayaで3D座標軸の動きに変換し、そのデータと実写素材をCINEMA 4Dに読み込む。それらを参考にしながら3DCGを制作し、After Effectsで本番のコンポジットというのが大まかな流れだ。

「4Kで糸を作って動かすのは思ったより大変で、フルHDだったらあまりディテールを細かくしなくても糸っぽく見えるんですが、4KだとフルHDの倍以上のディテールが必要。なおかつ本数も多くないとそれらしく見えないですし、しかも60Pだったので、どんどん作業データが重くなりました」(津田氏)。

また「糸の動きをリアルにしたい」という要望に応えるためには、かなり複雑な演算が必要となる。たとえば糸が腕にからみつく動きなどは、糸だけを動かすのではなく、腕のオブジェクトも作って糸の動きに干渉させるという工程を踏んでいる。

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糸がダンサーの腕にからみつく動きをリアルにするために、腕のオブジェクトを衝突判定用のモデルとして糸のエフェクトに干渉させている。
1/実写素材 2/ジオメトリトラッキング(3D座標軸のトラッキング)をとった腕のオブジェクト 3/実写素材と合わせた状態。ここから精度を上げていく 4/CINEMA 4D作業画面。衝突判定用モデルをエフェクトに干渉させる 5/最終的な画。
ポストプロダクションのワークフロー

img_products_4k_frontier2_02.png ※クリックして拡大表示

コンピュータのストレージやグラフィックは最高の環境に

img_products_4k_frontier2_08.jpg ポストプロダクションで使用したHP Z820。CPUはXeon 3.1GHz 8コア×2(16コア)、メモリ128 GB、ストレージはSSDを搭載している。

こうした作業を行なうために必要だったのがハイスペックのマシンだ。今回は日本HPとインテルの協力を得て、高速なSSDでRAIDを組んだHP Z820を使用できたので、作業効率がかなりアップしたという。もちろんデジタル・フロンティアでもかなり高性能なマシンを使っているのだが、4K/60Pで作業をするにはストレージやグラフィックを含めて最高の環境にする必要があったのだ。

3D周りの作業でもう一つ特筆すべきなのは、カメラワークの問題だ。今回の作品ではカメラとCGの動きが重要になるので、事前のシミュレーションとしてプリビズ映像を作り、それを参考にしながら撮影を進めたのだが、撮影現場ではどうしてもその通りにいかないことがある。

「プリビズ映像はCG的な発想で作っていたものですから、カメラの動きがかなり激しくなってしまいました。でも実際の撮影はHSということもあって、あまりカメラを自由に動かせなかった。そこで、大胆なカメラワークを使いたいカットに関しては、実写素材をスタビライズして、それを3Dソフト上で配置して、3Dソフトのカメラを動かすという手法をとりました。これによって、迫力のあるカメラワークを実現できたと思います」(守屋氏)。

このように撮影とポスプロとの距離が近いのも今回の特長だろう。あらかじめポスプロ作業を計算に入れてワークフローデザインを行なっているからこそ、このような作業が可能になるのである。

ColorEdgeとi1 Pro 2で4Kテレビの色を疑似再現しながら色調整

img_products_4k_frontier2_11.jpg デジタルフロンティアの社内に設置された簡易的なグレーディングルーム。「最終グレーディング」の一歩手前では、この部屋で実際に4Kテレビで見ながら、4Kテレビで一番きれいに見えるように、「調整グレーディング」を行なった(写真は作業風景イメージ)。

「リベラシオン」制作の最終工程はカラーグレーディングだ。この作品はパナソニックの4Kプロモーション用に作られた映像なので、店頭の4Kテレビで見た時に他社のテレビを圧倒するような映像に仕上げる必要があり、そのために最終グレーディングを行なったパナソニック映像のスタジオでは、4Kテレビで表示しながら映像完パケを仕上げている。

しかし実際には、カメラの色合わせ等も含めると4〜5回は色作りを行なっているという。それぐらい色作りの工程は難しい問題を含んでいたのだ。

「今回のプロジェクトは、最終のターゲットであるパナソニックさんの4Kテレビで表示したときに、最もきれいに見えるように色調整するという大命題がありました。しかし4Kテレビの表示とPCモニターで見る絵が違う結果になってしまうので、両者の表示をどう合わせ込んでPCで色作りをすればいいのか、いろいろと試行錯誤を重ねました」(井筒氏)。

img_products_4k_frontier2_12.jpg i1 Pro 2センサーで家庭用テレビ(写真奥側)の色を測定しているところ。手前のモニターはCG277。

この難題を理想的な形で解消したのが、EIZOのモニターColorEdge CG277と、X-Rite社のi1 Pro 2センサーだった。現行のColorEdge CGシリーズにはデバイスエミュレーションという機能があり、専用ソフトColorNavigator 6を使うことで、他のPCモニターや家庭用テレビ、放送用マスモニ、タブレット端末など、様々なデバイスの色を疑似的に再現できるのだ。

この機能を実行するには、業界標準の分光測色器であるX-Rite社の i1 Pro 2センサーが必須で、下の図にあるように各デバイスの特性を測定し、その結果をもとにColorEdgeの色みを各デバイスに近づける。この機能によって、ようやくPCモニターと4Kテレビの表示の違いを解消できるようになったのだ。

ColorEdge のデバイスエミュレーション機能
 
4Kテレビ
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ColorEdge CG277
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4Kテレビの色を疑似再現
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3DCGやコンポジット用のPCモニターはColorEdge CG277を使用。デバイスエミュレーション機能を使って、4Kテレビの色を疑似再現しながら作業した。

マスモニの色も再現できるデバイスエミュレーション

img_products_4k_frontier2_17.jpg ColorEdge CG277で、4Kテレビの色を疑似再現しながら各種の作業を行なった。

「リベラシオン」のカラーグレーディングについてもう少し掘り下げると、前述の「最終グレーディング」よりも手前の工程で、「調整グレーディング」と「各カット毎のグレーディング」が行なわれている。

「各カット毎のグレーディング」というのは、撮影時のグリーンバックや赤い衣装の影響で色が写り込んでいる部分に対して、個別に補正する作業のこと。衣装だけ、肌だけのマスクを切って、コンポジットと並行しながら調整するという念入りな作業が行なわれている。ColorEdgeのデバイスエミュレーションはここで大いに役立ったという。

一方「調整グレーディング」というのは、色補正と合成が済んだ各カットを一本にまとめた上で、全体のバランスを見ながら色を整える作業だ。この時はColorEdgeと4Kテレビを併用しながら、4Kテレビで表示してもバンディングが出ないように微調整を行なっている。

「デバイスエミュレーションについては正直なところ半信半疑だったのですが、実際にやってみたら、4Kテレビの表示とColorEdgeがほぼ一致したので本当に驚かされました。今回の仕事はデバイスエミュレーションなしでは成立しなかった。それぐらいすごい機能だと思います。この機能があればマスモニの色もエミュレーションできるので、今後映像業界に普及していけば、ワークフローが劇的に変わると思います」(渡辺氏)。

今回の「リベラシオン」のように4K仕上げの作品でなくても、4Kカメラで撮影する事例は増えているというから、PCでカラーグレーディングを行なう機会も多くなるだろう。家庭用テレビやマスモニをエミュレーションできるColorEdgeは、映像制作の現場で歓迎されるに違いない。

カラーグレーディングのワークフロー

img_products_4k_frontier2_18.png ※クリックして拡大表示


写真:坂上俊彦

※この記事はコマーシャル・フォト2014年11月号から転載しています。

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