2019年11月06日
3つのレンズが特徴的なXperia 1
ソニーの最新スマートフォンXperia 1。今年6月に同社スマホのフラグシップモデルとして発売された機種ですが、デジタル一眼のコントロールデバイスとしてα7R IIIと組み合わせたら、同じソニー製同士なので「相性が良いのでは」と思い、早速、ソニーさんから借りてみました。
ソニー Xperia 13つ並んだレンズは16mm、 26mm、52mmで、ズーム機能は採用されず、広角、標準、望遠を切り替えて使用するスタイル。これは他の撮影パラメータも同様で「なんでもできるお節介さ」が微塵もないプロ仕様。ISO感度は40~800(26mmレンズ設定時は64~800)。スマホ用のイメージセンサーながら、充分に頑張っている。 フォーカスはAF、MFを備える(実際のところ、16mmはパンフォーカスなので、26mm、52mmでフォーカス調整が可能)。カメラとしての最大の問題点(?)は、スタイリッシュすぎて、確実なホールドがあまりにも難しいこと。スマホとしてのデザインの良さか、カメラとしての操作性か、と言えば、そもそもスマホなのでしかたのないところではある。
α7R IIIとWi-Fiで連動
まず驚いたのは表示能力の高さ。HLG(ハイブリッドログガンマ)映像の再生も可能です。α7R IIIで撮影したHLG動画データをXperia 1に転送すると、HLGプロファイルを認識し、同時にXperia 1の表示設定をプロフェッショナルモードにしておけば、マスターモニターに近似した色味で確認できます(筆者には、これまで撮影したHLG映像を表示できるモニター環境がなかったのです)。
Wi-Fiでα7R IIIに接続してXperia 1でモニターしながらのHLG撮影。本文にも記したが、その場合、Xperia 1の表示はHLG本来の色再現ではないのだが、それでもカメラの背面モニターよりも再現度が高く、赤い瓶などの階調が飛ばずに表示されているのがわかる。
調べてみると、ダイナミックレンジこそ足りないものの、ソニーのあの超高価マスターモニターとほぼ同じ色域を持っているとのこと。素晴らしいことに、基準となる色彩再現が可能なディスプレイだったのです(Xperia 1の表示モードをプロフェッショナルモードに設定した時に高色域、高ダイナミックレンジのモードになります)。
ソニーから聞いた話では、デジタルシネマカメラやマスターモニターを作っているエンジニアと共同で仕上げたものだそうです。スマホの値段としてはやや高めではあるけれども、普通では手が出ないHDRディスaプレイ(マスモニ)を手に入れられるのは、ちょっとしたニュースです。
ただ残念なことに、αシリーズとWi-Fiで接続して、撮影中の映像をXperia 1で表示する場合、Wi-Fiで飛ばされるデータがBT.2020/HLG出力ではないため、HLG映像本来の姿を見ることができません。それでもディスプレイの色域とダイナミックレンジが広いので、そこそこHLG的な絵を見ることができます。
ちなみにAction Camや、RX-0ではBT.2020/HLGのデータをXperia 1にWi-Fiで送信したり、「複数のカメラのWi-Fiを受けて、1台のXperia 1で最大5台までの表示、コントロール」をサポートしているようです。
また、ソニーのCineAltaカメラVENICEで撮影した映像をWi-Fiで飛ばして、複数のXperia 1で受信、映像の確認に使用するという実験も行なわれています。1台のマスターモニターの周りにスタッフが集まって確認にする時代は終わり。「スタッフそれぞれにXperia 1をわたされ、自分が担当している部分を自由に拡大して見ることができる」という夢のような状況も、いずれは実現するのだろうと思います。これらは筆者も待ち望んでいたもの。αシリーズでも是非、実現してほしい機能です。
Xperia 1でHLG映像を表示する
HLGでも撮影後のデータをXperia 1に転送すれば、BT.2020/HLGでの映像表示が可能。以前撮影した映像を表示してみた。上がα7R IIIの映像、下が先月号で紹介したAX700の映像。印刷やWebページではこの色再現、色域をお見せできないのが残念。非常に広い階調を示し、高彩度部分でも色飽和はほとんど起こっていなかったことをお伝えしておきたい。筆者のディスプレイでもやっと白トビしないと思った水しぶきが、余裕のトーンで再現されていた。
そしてさらに興味を惹かれたのが、Xperia 1自体の動画撮影機能。16mm/f2.4、26mm/f1.6、52mm/f2.4の3つのレンズを装備して、4K(3840×1644)と2K(2520×1080)の撮影が可能。特に筆者が注目したのは、本機に搭載されている動画アプリケーションにシネスコサイズの動画を撮影できる専用アプリ「Cinema Pro」があることでした。CineAltaカメラVENICE開発チーム監修で制作され、ほぼ同じインターフェースでシネマスコープ撮影できるシステムを搭載しているのです。その内容は10bit、HEVC、HLGガンマ固定、色空間はBT.2020という本格的なものです。
スタイリッシュなインターフェース
Cinema Pro のインターフェース。確かにスタイリッシュだが、ホワイトバランスで画面のグレーを拾う機能がないのが残念なことと、開口角でシャッタースピードが表記されるのは、すでにクラッシックなローリングシャッターが消えてしまった現在では、どうもそぐわない気もするが、こだわりと割り切りで作られたそのコンセプトは嫌いではない。
このスマホを使って、若いクリエイターが素晴らしい映像作品を作り出してくれる日は、そう遠くないのかもしれません。
※この記事はコマーシャル・フォト2019年10月号から転載しています。
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鹿野宏 Hiroshi Shikano
デジタルカメラの黎明期からほとんどの一眼レフタイプのデジタルカメラを遍歴。電塾塾長としてデジタルフォトに関する数多くのセミナーを開催。カラーマネージメントセミナーも多い。写真撮影では2億画素の巨大な画像を扱い、2009年から動画撮影をスタート。WEB上の動画、デジタルサイネージ、社内教育用などの「ミニマル動画」を中心に活動している。
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