2020年06月15日
ニコンZ6はアップルが2007年に提唱した「ProResRAW」に対応(有償アップデート)、シグマfpはAdobeが2008年に発表した「CinemaDNG」を採用。パナソニックLumix S1Hも「ProResRAW」に対応する予定。一眼ムービーをRAWで撮影する時代が幕を開けました。
動画生成の仕組み
カメラ内部でのデータ生成の仕組み。RAWデータは内部の回路をほぼスルーして外部バスに書き出されるため、大量の情報が詰まっている。逆に言うとカメラのDSP(Digital Signal Processor)内で演算されるノイズ処理とコントラスト調整、肌色の仕上げ処理などの恩恵には預かれない。静止画のJPEGデータや動画のLogなどのデータは、カメラ内DSPでデモザイク処理されRGBデータとなる。
*オレンジ文字の数値は各ステージでの処理のbit数(メーカー、機種によって異なる)。
RAWデータとは「レンズを通してイメージセンサーに投影された明暗情報に少々の特性を付加する以外、ほとんど演算されずに作られた元データ」です。動画ではLog記録という方式もありますが、Logは一次記録のRAWデータから、演算処理回内でネガの特性に合わせた階調特性を持たせて、デモザイクと色調、彩度、階調を処理、圧縮記録された動画形式データになります。
動画RAWは静止画RAWと同様にそのままでは未完成ながら、12絞りオーバーのダイナミックレンジから使用する範囲を任意に設定可能で、ホワイトバランス、シャープネスも自在にあやつれる自由度が極めて高いデータです。静止画RAW現像に慣れているフォトグラファーならば、意外とすんなり入り込むことができると思います。
対して映像の世界でお馴染みのLogデータは、広いダイナミックレンジを得ることは可能ですが、「適正露光」は撮影時の設定に依存し、露出変更の可能幅は小さく、扱うにはそれなりの経験値やテクニック、LUT(ルックアップテーブル)の理解などが必要となります。
動画RAWの問題点はそのデータサイズでしょう。4:4:4 12bitというデータ量は凄まじいものがあり、例えばシグマfpの「CinemaDNG 12bit」の場合、4k、60分の撮影データが1.3TBにもなってしまいます。その情報量の多さは記録するメディア容量と転送スピードの問題となって跳ね返ってきます。筆者のようなワークフローでは、1〜2分のショートムービーであれば良い選択肢になりますが、2〜3時間という長時間撮影が必要なシーンでRAW撮影を選択するのは、現時点では無謀と言えます。
動画RAWの現像環境
ProResRAW:Final Cut Pro X
ニコンZ6の「ProResRAW」に対応するのはアップルFinal Cut Pro X、Edius、Adobe Premiere Proなど。比較的非力なマシンでも充分ハンドリングできたのはProResという動画フォーマットのおかげだろう。今一番現実的な RAWデータワークフローかもしれない。
Cinema DNG:DaVinci Resolve
現時点では、シグマfpの「CinemaDNG」に対応するのは、ブラックマジックのDaVinci Resolveのみ。RAW現像の使い勝手としては、色温度とマゼンタ/グリーン偏差をコントロールできるので、ホワイトバランスの追い込みは個人的には楽だと感じる。ただ、筆者の古いマックでは軽快に動くとは言い難い。最新のウィンドウズマシンでは、サクサクと動作してくれた。
Cinema DNG:Lightroom
また「CinemaDNG」は基本的に1フレーム1フレームが1枚の写真なので、Lightroomで全フレームを静止画として現像後、再び動画としてまとめるという荒技も可能。しかし2000カットの静止画から得られる尺は約66秒。使い慣れたLightroom を使えるのは嬉しいが、長尺の仕事では決してやりたくないワークフローだ。
動画RAWと言ってもシグマfpの「CinemaDNG」とニコンZ6の「ProResRAW」では、性格が異なります。
「CinemaDNG」は通常のRAWデータに近く、8bit/10bit/12bitの3通りの運用が選択可能。12絞りオーバーのダイナミックレンジが得られるのは12bit運用時で、10bit、8bitでは色補正の自由度が高いものの、ダイナミックレンジは10絞り程度と割り切っています。
「ProResRAW」の構造は、推測ですが「ProResRAW HQ」が4:4:4、「ProResRAW」は4:2:2のGOP(Group of Picture)で、GOPのキーフレームにRAWデータが格納されているようです。これにより10ビットに圧縮するときに失うデータを最小限にとどめつつ、全体の容量を小さくすることを実現しているのでしょう。事実「ProResRAW」の容量は「CinemaDNG 8bit」よりも小さくFinal Cut Pro Xのハンドリングも非常に軽やかです。
運用面でもまだ過渡期で「CinemaDNG」はDaVinci Resolveのみで現像、編集が可能。Adobe提唱のフォーマットなのにPremierePro CCで現像できないのが腑に落ちません。「ProResRAW」はデータの大きさからZ6ではカメラ内部記録ができず、HDMI経由でNINJA Vに記録する方法。fpも高解像度、高フレームレートのRAW撮影では、USB 3.1を通してM.2デバイスに書き込む仕様になっています。
とは言っても技術の進歩は大容量データのハンドリングを容易にしてくれるでしょうし、画質重視の動画に限って言えば、今後RAW撮影は標準化されていくでしょう。願わくば動画もAdobe Light roomの静止画現像のように、スポットホワイトバランスや「風景」「人物コントラスト抑えめ」などのプリセットが搭載されると、さらに敷居が低くなるのですが 。
CinemaDNGの現像と補正
デモザイク処理前
動画RAWも静止画同様、現像前はセンサーの素子が取り込んだままの色のない明暗のみのモザイク画像となる。
左図はシグマfpの「Cinema DNG」RAW データに格納されているデモザイク処理前のオリジナルのTIFFデータ。元々の背景にあたった太陽光はこの時点でオーバーになっている。拡大すると濃度の異なるピクセルが4個単位(RGGB)で並んでいるのがよくわかる。
デモザイク処理のみ
そしてそのまま現像(デモザイク処理のみ)をすると、コントラストが低く眠いデータになる。
コントラスト調整
こちらが、背景の「陽が当たっている部分」のトーンを残しつつコントラストをつけて調整したもの。静止画のRAWデータ同様、広いダイナミックレンジを活かし、コントラスト、明暗を追い込んでいける。
※この記事はコマーシャル・フォト2020年5月号から転載しています。
追記 2020年7月
記事中「動画RAWの現像環境」の部分で、ニコンZ6の「ProResRAW」と「CinemaDNG」の解説が逆になっていたため、修正いたしました。またProResRAWに関してEdius Pro、Adobe Premiere Proも対応しています。こちらも合わせて訂正させていただきました。
ご指摘頂いた読者の方、ありがとうございます。
また、Adobe Premiere Proについては、ProRes RAW対応アップデート版を使ってみましたので、追記します。
Macの場合
macOS バージョン 10.14.5 (Mojave)以降が必要です。Apple Pro Video Formats 2.1.1をダウンロードしてインストールする必要があります。
Apple Pro Video Formats 2.1.1
https://support.apple.com/kb/DL2020?locale=ja_JP
Adobe Premiere Prのプロジェクト設定の「レンダラー」でMercury GPU 高速処理(Metal)を選択しておく必要があります。
Windowsの場合
NVIDIA ディスプレイカードと最新のドライバー。4GB 以上のビデオメモリが推奨されます。Apple ProRes RAW デコーダーをユーザーがインストールする必要があります。
Apple ProRes RAW for Windows 1.1
https://support.apple.com/kb/DL2033
Adobe Premiere Proのプロジェクト設定の「レンダラー」で「Mercury Playback Engine GPU アクセラレーション(CUDA)- 推奨」が選択されている必要があります。
実際に使用してみましたが筆者のDAIV-NG7510E(32GBメモリー、NVIDIA GeForce GTX 1070、Corei7−8750H CPU 2.20GHz 2.21GHz、M.2 SSD SUMSUNG 1TBというちょっといいスペック)のノートブックでとても快適に動いてくれました。驚いたことに筆者のMacBookPro 2013 LateもMojaveにアップグレードしてみたところ、そこそこ快適でした。これなら「一眼動画でRAW撮影」は、かなり現実味を帯びてきたと思います。LUTなど使わなくとも、RAWになれたカメラマンであれば基本設定とトーンカーブでほぼ決めることが可能だと感じました。さらにハイスペックを謳うCINEMA DNGも対応が待たれます。
※Mojaveは32 ビット版のAppの最後のサポート機種ではありましたが、アップしたのちにいくつかの旧タイプのアプリが動かないという問題がやはりありましたので、お試しの時にはタイムマシーンの設定をお忘れなく。
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鹿野宏 Hiroshi Shikano
デジタルカメラの黎明期からほとんどの一眼レフタイプのデジタルカメラを遍歴。電塾塾長としてデジタルフォトに関する数多くのセミナーを開催。カラーマネージメントセミナーも多い。写真撮影では2億画素の巨大な画像を扱い、2009年から動画撮影をスタート。WEB上の動画、デジタルサイネージ、社内教育用などの「ミニマル動画」を中心に活動している。
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