2021年03月05日
M1チップ搭載の13インチMacBook ProとMacBook Air
ディスプレイを開いた状態だと、ほぼ見分けがつかない。内部もSSD:512GB以上のモデルでは、全く同じM1チップ(8コアCPU/8コアGPU)が搭載されている(ただしAir 258GBのモデルのみ8コアCPU/7コアGPU)。価格差は冷却ファンの有無、バッテリーの容量、Touch Barの有無、ディスプレイの最大輝度(100cd/㎡の差がある)に現れる。スピーカーやマイクの品質差は筆者にはあまり感じられなかった。ちなみに左がMacBook Air、右がMacBook Pro。
M1チップを搭載した新しいMacBook(2020)。ProもAirも13インチのみで、メモリ16GB、ストレージ(SSD)2TBという最大搭載量も同じです。価格差も2万5千円程度。実際に動画編集などのクリエイティブ作業でどれだけ使えるのか検証してみました。
まずM1という新しいチップについて調べてみると、アップル史上初の大掛かりな刷新がなされています。CPUは「高性能コアと高効率コア」が同居するiPhoneのような非対称コアのスタイルになり、必要に応じたパワー制御を可能にしました。
やや強引な説明になりますが、このCPUをはじめとしてGPU、メモリー、SSDまで、従来別の場所に置かれていたユニットを一つにまとめ、互いがメモリー情報を共有。高速な通信を可能にし、発熱も使用する電力もほぼ半分という驚きの性能を実現するのがM1チップです。
ProとAir、外見的な違いは?外見的な違いは厚さ。Airは手前に行くほど薄くなっていくフォルム。重さはAirが1.29 kg。Proが1.4Kg。どちらもThunderbolt3の出力が2個だけ。13インチなら我慢するけど、15インチや16インチでこれなら、きっと怒ると思う。 裏返すとProはファンの排気口が確認できる。Airの方の自然排気口は薄いスリット。もともと発熱が少ないCPUなのだが、それでもハードに使うとなるとファンは必要だろう。
現在販売されているMacBook Proの最高峰は、intelの i9チップを搭載する 16インチ MacBook Pro(最高スペックでSSD:8TB、メモリ:64GB / 2.4GHz 8コア intel i9 / グラフィック:AMD Radeon Pro 5600M)。
今回、リファレンスとして比較テストした16インチMacBook ProはSSD:2TBのものですが、さすが8コア16スレッド、高性能グラフィックボード搭載というだけあって最高速度を叩き出します(下の比較テスト参照)。
ディスプレイも充分に動画編集できる見やすさと広さですが、難点を言えばファンの音がうるさく、本体はかなり熱を持ってしまいます。
対してM1チップ搭載の新MacBook Proは、16インチMacBook Proにはかなわないものの「ほぼ置き換えることができる能力」を持っていました。発熱も少なくファンの動作音も気になりません。ただしディスプレイは13インチ、インターフェイスはM1の仕様でThunderbolt3が2系統しかないことは、覚悟しなくてはなりません。
同じM1チップ搭載のMacBook Airはどうでしょう。少し以前の型ですが筆者の事務所にあった2018年版13インチ MacBook Airと比較してみました。メモリーは同じ8GB。2018年版MacBook AirはSSDが256GBのため、可能な限り空き容量を確保してのテストですが、「プロキシ生成と最適化」に5倍、「ムービーの書き出し」に4倍の差が出てしまいました。たった2年でこの進化は驚愕。まさにM1チップの恩恵です。
M1搭載MacBookとIntel i9搭載MacBookの性能比較
Final Cut Pro XでFHD 30p 3分17秒のプロジェクトのデータに対し「プロキシ生成と最適化」および「書き出し(アップル標準)」の作業を4回行なった平均。また「内蔵SSD速度」測定はBlackmagic Disk Speed Testを使用。
SSDとメモリー容量に違いがあるため厳密な比較にはならないが、傾向はわかると思う。やはり16インチMacBook Proの処理速度は速いが、内蔵SSDへのアクセスは13インチMacBook Pro(M1)の方が高速だった。「書き出し」は16インチMacBook ProもM1搭載の2機種もほぼ同じ。
ちなみに13インチMacBook Air(M1)は「プロキシ生成と最適化」の1回目のテストでは5分10秒という数値で、MacBook Pro13インチ(M1)の平均と同じだったが、テストを繰り返すうちに遅くなり、4回目では7分45秒。急遽、即席の冷却装置を付けてみると平均5分28秒となった。
おまけでテストした13インチMacBook Air(2018/intel)は、同じ作業に4〜5倍の時間が掛かったため、見限って平均値ではなく1回の計測。
M1の8コアとIntel i9の8コア16スレッド
CPUのコアの動きを視覚化するため、Final Cut Pro Xを動かし、Macのユーティリティ「アクティビティモニタ」でCPU占有率(画面左上の青いメーター)とCPU履歴(画面右の緑のメーター)を表示してみた。16インチMacBook Pro(intel i9)では16のコア(スレッド)が動作しているのに対し、13インチMacBook Pro(M1)は8つのコアがバリバリ働いているが、CPU占有率は16インチよりは余裕を持っているのがわかる。
16インチMacBook Pro(intel i9) 13インチMacBook Pro(M1)さて実際の所、新しいMacBook ProとAir、どちらも同じM1チップ、メモリーもSSDの上限も同じ。Touch Bar搭載(MacBook Pro)といった仕様の差はありますが、能力は同等と考えていいでしょう。
しかし処理能力を左右するポイントとして、MacBook Proは冷却装置を内蔵しています。ファンレスのMacBook Airはテストを繰り返して熱がたまると、パフォーマンスが低下しました。つまり放熱対策の冷却台などを用意すれば、Airでもかなり「使えるマシン」だと言えます。
現在のラインナップではあまり差のないM1チップ搭載の13インチMacBook ProとMacBook Airですが、今後アップルがProとAirを性能面でどのように差別化をしていくか楽しみなところでもあります。
すでに極限近くまで微細化されているため、倍のパフォーマンスを実現するためにはさらなる集積度の向上という難題に立ち向かうか、M1×2という荒技を繰り出すか。より現実的な路線としては、M1をマイナーアップデートしてThunderbolt 3のチャンネルを倍に、DRAMの容量増加、SSDコントローラーの拡張という手も考えられます。
M1の性能は10年分の進化に匹敵します。ほぼ全てのWindowsメーカーは「汎用品を組み合わせ目的に応じた製品を作る」ことが基本なので、すぐに真似できるというものではなく、4〜5年はアップル社だけが可能なシステムだと予想します。
※この記事はコマーシャル・フォト2021年3月号から転載しています。
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鹿野宏 Hiroshi Shikano
デジタルカメラの黎明期からほとんどの一眼レフタイプのデジタルカメラを遍歴。電塾塾長としてデジタルフォトに関する数多くのセミナーを開催。カラーマネージメントセミナーも多い。写真撮影では2億画素の巨大な画像を扱い、2009年から動画撮影をスタート。WEB上の動画、デジタルサイネージ、社内教育用などの「ミニマル動画」を中心に活動している。
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