2021年03月15日
X-S10 / XF50mmF1.0 R W / XC15-45mm F3.5-5.6 OIS PZ
X-S10は小型軽量ながらX-T4に肉薄するスペック。動画性能ではカメラ内記録4K/30p 4:2:0 8bit、HDMI 出力で4K/30p 4:2:2 10bitに対応している。またFULL HDでは240Pのハイスピード撮影が可能。上写真のカメラに装着しているレンズがXF 50mmF1.0 R WR。X-S10とはなかなかのベストマッチ。右のレンズはキットレンズのXC15-45mm F3.5-5.6 OIS PZ。広角側が35mm換算22.5mmというのが嬉しい。
富士フイルムのX-S10(2020年11月発売)をテストしてみました。Xシリーズとしては中堅クラス、機能的に飛び抜けて新しいものはないのですが、X-T4、X-H1と同様にボディ内手ブレ補正機能を備え、富士フイルムのカメラ最大の魅力とも言えるフィルムシミュレーションはX-T4と同等の全18モード。本体価格が132,000円(*税込/フジフイルムモール価格/2021年1月現在)というハイコストパフォーマンス機です。
18種のフィルムシミュレーション
X-T4と同等の全18モードのフィルムシミュレーションを装備。上作例はその中から代表的なカラーフィルムモードの比較。明瞭度、トーン調整などを自分好みにチューニングできるようになっている。動画をRAWデータで撮影することはまだ一般的ではないため、撮影時にある程度までは目的にかなった色の方向性を持たせることはありがたいし、それを自分の好みに追い込むことが可能なのはもっとありがたい。 モデル:米田和子
ボディは約465g。キットレンズのXC15-45mm F3.5-5.6 OIS PZをつけて歩くとウキウキするような軽さです。X-T4などと比べると機械式ダイヤル類は少なめで、シャッターダイヤルやISOダイヤルがありません。
値段が値段だけに仕方がないのは重々承知しているのですが、操作性の点では少し残念です。なんと内蔵ポップアップストロボもついていて驚きましたが、気軽に使えるエントリー層もターゲットにしているのでしょう。
SDカードの格納はバッテリーと同室。バッテリーも予想通りあっという間になくなってしまいますが、USB Type-C端子経由での給電が可能なので、モバイルバッテリーを用意したら全く問題なく撮影できました。
キットレンズのXC15-45mm F3.5-5.6 OIS PZは、XシリーズのAPS-Cセンサーでは35mm換算で22.5mm -67mm。望遠側はやや短い。でも広角側に振ってくれたのは個人的にとても嬉しい。X-S10につけてみると触感もよく、各部品の動きもガタツキ感がほぼありません。パワーズームもついています。
X-S10とXC15-45mm がセットになったレンズキットの価格は143,000円(*同)。1万円弱の追加で手にはいるなら、このカメラの活躍の場が広がると感じました。
今回はXC15-45mm に加えて、X-S10の少し前(2020年9月)に発売された単焦点レンズ、XF50mmF1.0 R WR(198,000円/*同)も使ってみました。コンパクトでハイコストパフォーマンスのX-S10と大口径レンズXF50mmF1.0 R WRの組み合わせは一見、バランスが悪いようにも思えますが、使ってみると意外とベストマッチ。
というのもフルサイズセンサーと比較してサイズの小さいAPS-Cセンサーは高感度に少々弱い。f1.0というレンズの選択肢は大きな意味を持ちます。
ISO6400での人物撮影
UHD4K/30fps レンズ:XF50mmF1.0 R WR 絞り:f5.6 シャッター速度:1/50s ISO6400 三脚使用 マニュアルフォーカス
動画でもISO6400でポートレイトが撮れるくらいの品質が欲しい。現在、フルサイズセンサーではほぼその要求を満たす高感度撮影に優れた機種が出てきたが、APS-Cサイズのセンサーでは今ひとつの感があった。X-S10は低感度側をISO160と高めにして、かなり高感度側のセッティングにしてきたようだ。そのおかげでISO6400でも常用可能と感じた。
X-S10場合、高感度側ISO6400までは充分に使えそうですが(上のテスト結果参照)、ISO200〜6400が常用感度だとしたら約5段の許容範囲です。f1.0レンズは例えばf2.8のレンズに比べて3段分の余裕がありますから、計8段。つまりISO感度6400が実用限界でも、F値であと3絞り分稼げるので、ISO51200が使えるのと同等になるのです。
また明るいレンズということは、当然APS-Cセンサーであってもちょっとの距離でボケる。XF50mm F1.0 R WRはボケもきれいで、合焦している部分は解像感がありシャープでも、カリカリというわけではなく、そこからボケていくグラデーションが素直です。
小型軽量ボディと明るいレンズを活かした手持ち撮影
UHD4K/30fps レンズ:XF50mmF1.0 R WR 絞り:f1.0 シャッター速度:1/1000s ISO160
X-S10にXF50mmF1.0 R WRを付けて手持ち撮影。カメラを構え階段を降りながら撮っている。絞りはf1.0。明るい場所でのf1.0動画撮影なので、通常ならばNDフィルターを付けるところだが、今回は画質を確認するため、NDフィルターは使わず(多少映像はカタカタするが)シャッター速度を1/1000sとした。
会社の屋上で撮影したのだが、あまり綺麗ではない場所でも、これだけボケてくれれば問題ない。オートフォーカスに対する追随性能も素晴らしく、ほぼ瞳にピントが合っていた(設定はAF-C/顔検出瞳検出/被写体保持特性:4/AF速度:5)。そして何より驚いたのがボディ内手ブレ補正と電子手ブレ補正の効果(ページ掲載のカットではわからないけれど)。この小さく軽いボディに物理的なボディ内防振ユニットIBISが搭載されているのは驚きだ。
XF50mmF1.0 R WRの描写
UHD4K/30fps レンズ:XF50mmF1.0 R WR 絞り:f1.0〜f8 シャッター速度:1/50s〜 ISO160〜 三脚使用 AF-C(顔検出瞳検出/被写体保持特性:4/AF速度:5)
カメラとモデルの距離2.5m モデルと背景の青い壁の一番近い継ぎ目までが30センチ、モデルとベージュとの壁までの距離が1.5メートルほど。この条件でf8からf1.0まで絞り値を変化させてみた。F1.0開放でこれだけボケるというのは怖いくらいだ。またf8の画像を見ると、モデルの後ろ1mくらいからボケ始めているが、このボケ方の質がすばらしい。
さらにモデルとカメラの距離を1mとしたf1.0の画像では、モデルと背景の30センチの距離を画面に向かって右側に出てくる私の手が移動する様子を見て欲しい。30センチでこれだけボケていくのだ。
レンズ重量は845g。X-S10に装着してもカメラ自体が軽量なので、手持ち動画撮影で辛いと感じる一歩手前。動画撮影では5軸6段のボディ内手ブレ補正(IBIS)と電子式の手ブレ補正機能(DIS)が同時使用可能です。
夕暮れの手持ち移動撮影
UHD4K/30fps レンズ:XC15-45mm F3.5-5.6 OIS PZ 絞り:f3.5 シャッター速度:1/50s ISOオート
セットレンズXC15-45mm F3.5-5.6 OIS PZをつけて手持ち撮影。最初の頃こそ大きな揺れがあるが、腕を伸ばしてカメラを高く上げて歩き出してすぐに、手ぶれ補正がうまく効きだしている。DIS (digital imageStabilization デジタルシフト方式)の能力は思ったよりもかなり高い。ISO感度は軽く3200を越していたが12800は超していなかったと記憶している。
X-S10のコストパフォーマンスの良さは最高でしょう。 XF50mmF1.0 R WRもこの性能でこのサイズ感。カメラとレンズあわせて30万円強。生臭いお話ですが筆者の仕事の内容から考えて80万円を超える焦点距離50mmレンズは費用対効果をほぼ出せません。しかしこの組み合わせなら購入可能範囲に入ります。それで最強のポートレイト撮影キットが組める! 両者の発売日が近いのは偶然じゃない? これが富士フイルムの戦略では? その戦略にハマってしまいそうなくらいX-S10とXF 50mmF1.0 R WRの組み合わせは魅力的です。
瞳AFの追従
UHD4K/30fps レンズ:XC15-45mm F3.5-5.6 OIS PZ 絞り:f3.5 シャッター速度:1/50s ISOオート 三脚使用 AF-C(瞳AF)
動画前半、モデルが左腕を振っている画像は、被写体保持特性を一番粘る4に設定している。バストショットでは時々ピントを探しにいくが、アップになった状態では目からピントがずれていない。
動画後半の右腕を回している場面は、被写体保持特性をフォーカスが移りやすい1に設定。腕が瞳を遮った次の瞬間に、フォーカスを探してボケているのがわかる。ただ、復帰もかなり早いので、これはこれで優秀だと言える。
※この記事はコマーシャル・フォト2021年2月号から転載しています。
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鹿野宏 Hiroshi Shikano
デジタルカメラの黎明期からほとんどの一眼レフタイプのデジタルカメラを遍歴。電塾塾長としてデジタルフォトに関する数多くのセミナーを開催。カラーマネージメントセミナーも多い。写真撮影では2億画素の巨大な画像を扱い、2009年から動画撮影をスタート。WEB上の動画、デジタルサイネージ、社内教育用などの「ミニマル動画」を中心に活動している。
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