2020年10月06日
セコニック スペクトロマスターC-800
本文で触れたTM-30-18の他、映画芸術科学アカデミーが開発した演色評価指数SSI、テレビ照明一貫性指数TLCI、もう使わないかもしれないがCRIという4種の演色評価指数を測定する分光式カラーメーター。分光方式のため、自然光やフラッシュライトのみならずLEDや蛍光灯も正しく測定可能(RGB方式のカラーメーターでは不正確)。色温度変換フィルターや色補正フィルターの番号、および指数を表示させる機能も備えている。次世代の人工光源として普及が加速しているLED。動画撮影用の定常光としても注目されていますが、最近、「高演色のLEDを使っているにも関わらず、肌色がくすむ」という問題をよく耳にします。
動画を撮影する際の光源として、写真と同様、太陽光が最も理想的であることはご存知の通りです。しかし人工光源が必要なシーンは非常に多く、写真の場合は限りなく太陽光に近く、瞬間的に大光量を得られるフラッシュライトという素晴らしい光源が存在します。定常光を必要とする動画の場合はタングステンライトがあり、太陽光とは色温度が異なるだけで、黒体軌跡に沿った性質を持ち光としては扱いやすいのですが、現在ではほぼ製造が終了。高演色の蛍光灯もフリッカーの問題を解決すれば充分に実用的ですが、タングステンライト同様に近い将来、なくなっていく光源です。
では「LEDはどうなのか?」と言うと、筆者の経験でも平均演色評価数(CRI)でRa98という高い色評価指数を持つLEDライトでも、どうも肌色がくすみ、正しい色再現ができない機材が散見されるのです。
そもそも、これまで人工光源の色再現(演色性)の基準として使われてきた平均演色評価数(CRI)は、CIE(国際照明委員会)が1965年に定めたものです。当時、赤色、黄緑LEDは開発されていましたが、今のような白色LED(無色の光)は実現されていませんでした。白色LED光源が実用化されたのは1996年のことです。
1965年当時、人工光源のほとんどがタングステンライト(いわゆる電球)であり、これはスペクトルがなだらかで欠落がまったくないため、たった8種類のカラーパッチを基準とするCRIのRa評価で充分だったのでしょう。
現在、LEDで白色光を出す方法として「青色LED+蛍光体」方式が主流。中でも明るさを求めた場合、効率的な黄色蛍光体を採用したものが多いのですが、これが曲者なのです。分光分布図を見ると、シアンと肌色の波長にほとんどエネルギーがないために、肌色やシアンが黒ずんで写るのです。
中にはCRI Raの8色パッチの色だけはよく出るように波長をコントロールしているものも存在し、8色の試料に対しては出来がいいけれど、それ以外の色彩に関しては、かなり落ち込んでも構わないという設計姿勢が「高い色評価指数のわりに肌色がくすむ」という現象を引き起こしているのです。厄介なことに人間の目はそのギャップを補正して「正しい色彩」として認識してしまうので、見た目ではなかなか気づけないのです。
様々なライトの計測結果
撮影に向かないLED筆者の自宅洗面所のLED。青色ダイオードに黄色蛍光体を被せただけのタイプ。シアンを中心とした寒色と、レッドを中心としてオレンジを含む暖色の彩度がかなり低く、ブルーとイエローの彩度は飽和していることが、楕円形の赤いラインでよくわかる。色相もかなりねじれている。撮影には向いていない。 普通のLED
近頃、見かける蛍光体にグリーンとレッドを混ぜ合わせたタイプのLED。全体にやや暗くなるが、シアンとレッドの落ち込み、色偏差はかなり改善されている。ただしこれでも撮影用照明として使う場合、肌色がかなりくすむだろう。 撮影に適したLED
自作LEDライト。スペクトル分布が黒体軌跡に非常に近似したXicato社のLEDを使用。やや紫側が飽和しているがその演色性の高さはグラフを見ての通り。レッドからイエローの非常にあいまいな色相内に存在する色調を見事に分離する。
問題はこのXicato社のLEDの色温度が4000ケルビンしか選択肢がないこと。 色評価用蛍光灯
スタジオの照明として普段使用している6500ケルビンの色評価用蛍光灯。シアンブルーの彩度の落ち込みは気になるが、それ以外は色相の歪みも少ない。LEDに比較して見事に「滑らかにつながった色相と彩度」を実現。蛍光灯は人工光源としてはかなり高いレベルにあったと言える。
そこで従来の色評価指数の欠点を補正し「より頼れる指標」として登場したのが、北米照明学会(IES)が2015年5月18日に制定し、2018年に修正が加えられたTM-30-18という色評価の基準です。
サークルで演色性を示すTM-30-18モード
太陽光の測定結果。いずれも高い数値だが、太陽光だから当然と言えば当然の結果。Rf値は色相偏差を表しRf100で完全に一致。そこから外れると数値は小さくなる。赤いライン上の小さな矢印が小さければ小さいほど演色性が高いことを示す。Rg値は色飽和度(彩度)で、100を基準として100以下は飽和度が低く、100以上だと高い。黒い円ラインがRgの基準位置で、赤いラインがきれいに重なっていれば色飽和も色欠損もない。CCTは色温度。ΔUVは黒体放射軌跡の基準点からどれだけ離れているのかを表し、±0.02以内(一番外側と内側の白いライン)であれば、本来の色として認識可能だということ。IES TM-30-18は評価カラーパッチを99色使用しており、ほぼ全ての色相と彩度を網羅しています。さらに飽和度の変化を表すRg指標が追加され、彩度が足りない(マイナス側)だけでなく、色飽和が起こっている(プラス側)シーンも検出可能です。照明機材メーカーがTM-30-18でいい数値を出そうと努力をすると、結果的にその光源は肌色もシアングリーンもきちんと明るく再現される「いいLED光源である」ということになります。これは知っておいて損はないでしょう。
ではどうやってこのIES TM-30-18を測定するのかと言うと、セコニックから2018年末に発売された分光方式カラーメーター「スペクトロマスターC-800」があります。自分が動画撮影で使用している光源を測定して安心して撮影に臨むか、唖然となって改善するべきか、という判定を下せるのです。値段は結構しますが(市場価格で15万円程度から)、グループで1台持つということも視野に入れれば無茶な金額ではありません。
※この記事はコマーシャル・フォト2020年9月号から転載しています。
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鹿野宏 Hiroshi Shikano
デジタルカメラの黎明期からほとんどの一眼レフタイプのデジタルカメラを遍歴。電塾塾長としてデジタルフォトに関する数多くのセミナーを開催。カラーマネージメントセミナーも多い。写真撮影では2億画素の巨大な画像を扱い、2009年から動画撮影をスタート。WEB上の動画、デジタルサイネージ、社内教育用などの「ミニマル動画」を中心に活動している。
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