一眼ムービーなんて怖くない!

パナソニックのフルサイズミラーレスLUMIX S1/S1R

解説:鹿野宏

高解像度タイプのS1R、高感度タイプのS1

パナソニックからフルサイズミラーレス機のLUMIX S1(2420万画素)とS1R(4730万画素)の2機種が、同時にリリースされました。フルサイズミラーレスとしては最後発機、しかもマイクロフォーサーズ陣営のパナソニックはこれまでフルサイズレンズがなかったのですが、ライカLマウントを採用し、ライカやシグマと協調することで豊富なレンズラインナップを実現しました。

マウントサイズは直径51.6mmでソニーEマウントよりも大きく、ニコンZマウントやキヤノンRFマウントよりは小さい。フランジバックは20mmで、キヤノンと並びフルサイズミラーレス機中、最も長いというものです。

img_products_dslr_nofear67_01.jpg左がS1R。4730万画素、最高感度はISO25600(拡張ISO51200)。右がS1。2420万画素、最高感度はISO51200(拡張感度ISO102400/204800)。
ボディサイズはW148.9×H110×D96.7mmでミラーレス機としては大きいが、GH5、GH5Sがそうであったように、4K60pというハイスペック動画撮影の熱対策が主な要因だろうか。写真撮影だけを考える向きには、このサイズは邪魔かもしれない。写真専用ボディというものが出てくる可能性があると感じた。

動画撮影メインでの使用も視野に入れたS1は、昨年発売の「高感度モンスター」と呼ばれた同社のGH5Sの性能を引き継ぎ、なおかつ(ほとんどの状況で必要充分な)写真も撮れるという仕上がり。

「4K 60p 4:2:0 8bit 内部記録」(S1、S1R)、「フルHDでは30分以上のノーカット撮影可能」(S1、S1R)「4K Hybrid Log Gamma 記録対応」(S1のみ)とそのままでも高い動画性能ですが、さらにS1では有償アップグレードにより「4K 60p 4:2:2 10bit HDMI出力」「4K 30p 4:2:2 10bit 内部記録」「V-Log撮影」が可能になります。

「高感度が必要で動画も撮る」という大多数のスポーツ、ドキュメンタリー系を中心としたフォトグラファー向けには必要最小限の機能を、「カラコレが前提、もっと高精細な動画を」という向きには、追加アップグレードで最高峰のムービー環境を提供するというスタンスです。

S1、S1R共通の機能ですが動画撮影の際、「FULL」「APS-C」「PIXEL/PIXEL」のクロップ範囲を選べます。クロップ範囲を変えることで、1本のレンズを三種類の焦点距離で使用できるのですが、残念ながらS1の4K60p撮影は「APS-C」クロップのみ、4K30pでは「FULL」か「APS-C」のクロップに限定されます。

S1Rでは4K60pでも4K30pでも3つのクロップモードを切り替えて使えるので、S1でもノドから手が出るくらい欲しい機能なのですが、ムービーの画質や撮影用途を考え、あえてS1の4K撮影はクロップ範囲を限定したのかもしれません。


「FULL」「APS-C」「PIXEL/PIXEL」のクロップ

S1R 4K30p クロップでの画質、画角の違いを検証してみた。

<画質>(左) <画角>(右) S1R 4K30pで撮影

左はピクセル単位の解像力を見るチャート(部分拡大)。囲み部分は実際のチャートでは白地に縦横の黒のラインが描かれている。
「APSーC」では縦横のラインが判別できるが、「FULL」は白黒が分離せずグレー1色で再現。「PIXEL/PIXEL」では偽色が出ている。画質的には4Kサイズに対し大幅なダウンコンバートをする「FULL」よりも、ダウンコンバートの割合いが少ない「APS-C」クロップがもっとも良いという結果になった。

FULL
img_products_dslr_nofear67_07.jpg
 
img_products_dslr_nofear67_10.jpg

APS-C
img_products_dslr_nofear67_08.jpg
 
img_products_dslr_nofear67_11.jpg

PIXEL/PIXEL
img_products_dslr_nofear67_09.jpg
 
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S1R 4K30p クロップ


後発機ということもあり、機能面でも充実しています。ニコンやソニーが搭載していた「フラット」のカーブや「ハイライト重点測光」、「カメラ内で動画の不要部分をカット編集」などにも対応。そしてついにUSB給電が可能になり、電力の心配が一気に減りました。

レンズに関しては、他社に先駆けて多くのレンズでフォーカスブリージングの対策をしていましたが、今回はさらにズーム時のピント移動もほぼなくなりました。

さてS1とS1R、筆者ならどちらを選ぶかというと難しいところ。S1Rも通常動画撮影ならば感度不足というほどのこともなく、最高感度ISO25600でもS1に及ばないものの、それなりの画質。かなりの底力を秘めています。


高感度撮影比較

S1 S1R 高感度撮影比較
S1Rの最高感度ISO25600、S1の最高感度はISO51200、それ以上では拡張ISOでの撮影となる。
S1Rの最高感度であるISO25600時ではシャドー部が平坦になりノイズが浮いてくるが、S1はまだまだ行ける。
S1の最高感度であるISO51200時ではS1Rは拡張ISOでの比較となっている。
S1はさらに拡張ISOでISO102400/204800もあるが、筆者はISO102400であっても許容範囲だと認識した。S1の100~51200のネイティブISOは伊達ではない。


S1とS1Rのステップチャート撮影比較(ISO12800)
img_products_dslr_nofear67_06.jpg S1が黒のカーブ。緑色が S1R。S1Rでは暗部にノイズが乗ってくるが、S1はほとんどノイズがない。

スチル撮影機能ですが、S1Rのハイレゾモードも魅力です。センサーをずらしながら計8回の撮影を行ない、カメラ内で自動合成処理をして通常解像度の4倍の画像を出力する方法は、筆者がこれまで高解像度が必要な時にやってきたマルチショット撮影そのもの。S1にもこの機能はありますが、4730万画素のS1Rのハイレゾモードでは187M相当の画像になります。

オールマイティかつ「高感度モンスター」のS1は動画でも写真でも悪条件の撮影でパフォーマンスを発揮し、有償アップグレードをすれば「ビットレートモンスター」の動画機になります。一方、S1Rはポスターや8Kタイムラプスなどの撮影にも対応する「解像度モンスター」。パナソニック初のフルサイズミラーレス、同社はプロの多様な仕事に対し、この3つの「モンスター」で対応してきたと言えそうです。

ズーミング中のピント移動 (LUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S.)
ルミックスは以前からフォーカスブリージング が少なく、ズーミングのピント移動もうまく抑えている印象があったが、今回の Lマウントレンズは(どこのレンズもそうでしたが)さらに上をいく素晴らしい仕上がり。105mmから24mmまでズーミングを行なっても開放のピント位置に全く変化はない。


顔・瞳認証と肌色のチェック
顔・瞳認証を動作の際の液晶表示をONにしてそのまま外部出力した動画。伏し目でも目の位置をきちんと捉えているし、顔の向きが変わるたびに手前の瞳に合焦している様子がよくわかる。元々は肌色のチェックのために撮影したもので、ポートレイトモードで撮影。直前の機種GH5Sと比較してさらに肌色の癖が減り、素直で好ましい肌色になった。 顔の向きを変えた時のハイライト側のトビやトーンジャンプ、シャドウ側の濁りが実に少ないことがよくわかる。


AFの追従性能、手ブレ補正などを色々と試してみた
AF駆動速度高速、追随感度最高に設定すると画面内を横切る通行人に引っ張られやすくなり、AF駆動速度遅い、追随感度最底に設定した場合は、左右に別の顔が出現しても、ゆっくりメイン被写体の前を横切っても、ピントはメインの被写体を捉え続け、被写界深度から外れた他の通行人はきちんとボケてくれた。

画面内で顔のサイズが小さくなっても「顔・瞳認証」はきちんと動作し、ちょっとくらいなら向こうを向いてしまっても問題なく補足し続ける。撮影中にちょうど大きな人物の顔がプリントされたラッピング車がモデルの後ろに出現してくれた。最初はモデルの後ろに存在していたため被写界深度の中に入っていたが、モデルが前に歩いてくると一時フォローできなくなり、1秒ほどでモデルを捉え直した。AF駆動速度遅い、追随感度最底だったが、このようなシーンでは AF駆動速度をやや早めて、追随感度を通常とすることで、もっと確実にメインの被写体を捉えてくれるのだろう。

レンズ手ぶれ補正とボディ内手ぶれ補正を合わせた能力もフルサイズということを忘れるくらい精度が高く、カメラマンが移動しながらの撮影であっても違和感が少ないのには驚いた。手ぶれ補正なし、レンズ手ぶれ補正のみ、レンズ手ぶれ補正+ボディ内手ぶれ補正の順で撮影しているので、その効果は一目瞭然に感じていただけるだろう。




※この記事はコマーシャル・フォト2019年6月号から転載しています。


鹿野宏 Hiroshi Shikano

デジタルカメラの黎明期からほとんどの一眼レフタイプのデジタルカメラを遍歴。電塾塾長としてデジタルフォトに関する数多くのセミナーを開催。カラーマネージメントセミナーも多い。写真撮影では2億画素の巨大な画像を扱い、2009年から動画撮影をスタート。WEB上の動画、デジタルサイネージ、社内教育用などの「ミニマル動画」を中心に活動している。

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