一眼ムービーなんて怖くない!

動画撮影でも富士フイルムの「色」への思想を感じさせるX-H1

解説:鹿野宏

フジの一眼ミラーレスX-T2の上位機種といえるX-H1が発売されました。Hとは「ハイパー」ということらしいですが、ボディ内5軸手ブレ補正搭載の他、フルHD120pハイスピード撮影、F-log撮影の内部記録など動画機能も向上しています。中でも筆者が注目したのは、カメラプロファイル(フジの場合「フィルムシミュレーション」という言い方ですが)として、映画用ネガフィルム「ETERNA」をシミュレーションするモードが追加されたこと、X-T2では写真でしかできなかったダイナミックレンジ拡張モードが、動画でも使用可能になったことです。


X-H1 + XF56mm F1.2 APDレンズ

img_products_dslr_nofear56_01.jpgセンサーはX-T2と同じ約2,430万画素のX-Trans CMOS IIIだが、ボディサイズは大きくなっている。これは5軸手ブレ補正内蔵のためだろうか。グリップ部も大きくなっているが、グリップ上の軍艦部には、中判ミラーレスGFX-50S同様のサブモニターが配置されている。液晶ビューファインダーは約369万ドットで、X-T2の約236万ドットから約160%アップ、かなり見やすくなった。


今回、プロファイルとして追加された「ETERNA」は、もともとが2004年に発売された映画用ネガフィルムで、そのフィルム自体、シャドーからハイライトまでの階調性や色再現性の繋がりを重視/暗部の再現性を向上/アンダー側のラチチュード拡大によるディテール向上が特徴でした。X-H1のプロファイルもそれに準じて、撮影現場が暗く高感度が必要で、かつダイナミックレンジを広く取りたいシーンに注力したカメラプロファイルだと受け取っていいようです。

またダイナミックレンジ拡張モードは、ISO400以上で200%、ISO800以上で400%のダイナミックレンジの拡張ができ、すべてのカメラプロファイルで適用することが可能です。突発的に入った光や、同一シーンの中で被写体が動いた時に、照明との角度でハイライトが飛ぶ問題も解決してくれるので、動画でこそ便利に使えそうです。もちろん、やや彩度が下がるという問題は発生しますし、ISO3200以上ではさすがに推奨できないのですが、編集時にややコントラストをつけて、彩度を上げるだけでチューニング可能です。


ダイナミックレンジ拡張

img_products_dslr_nofear56_06.jpgダイナミックレンジ拡張機能は高感度撮影においてレンジを広げることで、白飛びやシャドーのつぶれを軽減する。ISO400では200%拡張、ISO800からは400%拡張ができるが、撮影中、光の状況が変わる動画撮影では便利な機能だ。上写真はいずれも「ETERNA」モード、ISO800でダイナミックレンジ100%拡張と400%拡張の比較。400%ではコントラストと彩度は下がるが、木立の向こうの建物や空の青さも再現している。

ダイナミックレンジ拡張をチャートで見る

ETERNAとPro Neg.Std、ISO800でのダイナミックレンジ拡張をチャート撮影でみてみた。ムービー前半が、通常モード(ダイナミックレンジ拡張なし)。後半がダイナミックレンジ拡張(400%)。


筆者はこれまで「1:動画撮影時はできるだけレンジ拡張し、ハイライトは飛ばさない。シャドーも極力確保する」「2:その上で、色味は最終的にタイムライン上に並べた時に、ターゲットの彩度を上げて色相を修正する」を基本スタンスに撮影してきました。4.2.0./8bitの撮影では補正幅の大きいlogは画像劣化があるために使わないのですが、それに準じたフラットなカーブのカメラプロファイル(ニコンの「Flat」、ソニーの「PP5」など)を好んで使用してきました。しかし「ETERNA」モードや、X-T2からある「PRO Neg.Std」、「PRO Neg.Hi」の仕上がりと、これまで自分で調整して仕上げてきた動画を比べると、結果的にそれほど大きな差がなかったことに気がつきました。それどころか肌色のシャドー部に関しては、自分がチューニングしたよりもはるかに出来がいいのです。


ETERNAとPRO Negのカーブ

グレースケールチャートをISO800で撮影。上から順に「ETERNA」、「PRO Neg.Std」、「PRO Neg.Hi」。カーブを重ねてみると、中央部分はほとんど相似で、シャドーの足の部分がやや異なる。シーンに応じてカメラプロファイルを切り替えても違和感が非常に少ない理由の一つだ。動画だけでなく写真用のモードでもほぼ同じ結果だった。


私が目指した肌色は、結局フジがフィルム時代から長年かけて作り上げてきた肌色だったのでしょうか?「目指す肌色を仕上げるために、素材性の高いフラットで均一なデータを取得する」こと自体、無駄な作業だったような気もしてきました。ミニマムな仕事を大量に素早くこなすためには、このフィルムシミュレーションを使い分けることが特効薬かもしれません。他のカメラでは不可能ですが、クラシッククローム以外、ほとんどのモードがほぼ同じコントラスト特性、色相なので、1本の動画の中でこれらを切り替えて使用しても、色的な処理が不要で、そのまま仕上げることが可能なのです。


ETERNAとPRO Neg.Std、ISO6400で人物撮影

モデル:米田和子

「ETERNA」の方が、顔のハイライト部分などは抑えめで、シャドー部も柔らかく、安全圏を確保しているのが見て取れるが、ふたつのモードのコントラスト特性、色相はほぼ同じ。しかしISO6400でここまでポートレイトが撮れるとは思ってもいなかった。どちらの画像も大きな破綻は見られない。


ある程度露出が安定していて、確実にホワイトバランスが取れているという条件がつきますが、人物やコントラストの強い風景の場合は「PRO Neg.Std」、曇りの風景、室内、静物のシーンでは「PRO Neg.Hi」を使い、夜景や暗い室内、照明が不足しがちな場合はシャドー側の特性を持ち上げた「ETERNA」を使用して、ほとんど色調整をしない動画編集という図式が見えてきました。4Kハイスピード撮影ができないなど動画用カメラとしてはまだ発展途上ですが、動画データの仕上げ方に関しては一歩先を行くカメラだと感じた次第です。


大口径単焦点中望遠レンズ XF56mm F1.2 APDを使う

XF56mmF1.2APDを初めて使わせてもらった。開放からF2.8は見事と言う他ないボケ味。F4以上は切れ味の強い表現に変化するので、それなりに使いこなす必要ありそう。なめらかなボケは動画の中でメインの被写体を邪魔しない魅力的なレンズ。ただしピントはかなりシビアなので心して使いたい。
F1.2 1/125s ISO200 ND400フィルター使用 Pro Neg.Stdモードで撮影
モデル:米田和子




※この記事はコマーシャル・フォト2018年5月号から転載しています。


鹿野宏 Hiroshi Shikano

デジタルカメラの黎明期からほとんどの一眼レフタイプのデジタルカメラを遍歴。電塾塾長としてデジタルフォトに関する数多くのセミナーを開催。カラーマネージメントセミナーも多い。写真撮影では2億画素の巨大な画像を扱い、2009年から動画撮影をスタート。WEB上の動画、デジタルサイネージ、社内教育用などの「ミニマル動画」を中心に活動している。

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