一眼ムービーなんて怖くない!

特別編:動画撮影ならこの機能に注目 4Kムービー時代のカメラ選びのポイント

解説:鹿野宏

各社から出揃った4K対応一眼カメラ。一口に4K対応と言っても、60Pで撮影できるもの、35mmフルサイズで撮影できるもの、動画向けAF設定が充実しているものなど様々な個性のカメラが揃っています。動画撮影に有効な機能、筆者が気になる機能を中心に今、動画撮影に求められるポイントを解説します。

イントロダクション

ここ1年ほどの間に、各社から4K撮影ができるカメラが相次いで登場しました。連載「一眼ムービーなんて怖くない!」でもその都度紹介をしてきましたが、今回は特別編として、それらの機種が「動画カメラとしてどう進化しているか」を紹介したいと思います。

言うまでももなく一瞬を切り取る静止画と、時間軸のある動画ではカメラとして要求される機能が違います。静止画で見て最適なシャープネスや解像感も、動画として見るとどうか? ノイズのノリ方に対する基準も全く異なります。素早いAF動作も動画では使いにくい。手ブレ補正に対する考え方も違う。単に4Kが撮れるというだけではなく、そうした動画を前提にした「絵作り」や、動画カメラとしての使い勝手が、今後さらに重要になってくると思われます。

機種名 img_products_dslr_nofear47_01.jpgNikon D500
フラットなカーブとハイライト重点測光は動画撮影で威力を発揮
img_products_dslr_nofear47_02.jpgCanon EOS 5D Mark IV
詳細な動画用AF設定など実践的な機能はさすが5Dシリーズ
img_products_dslr_nofear47_03.jpgSONY α6500
5軸手ブレ補正内蔵でα7シリーズのサブ機として活躍しそう
img_products_dslr_nofear47_04.jpgSONY α99II
Aマウントで4K対応フルサイズセンサーによる超高感度撮影
センサーサイズ
有効画素
ニコンDXフォーマット
2088万画素
35ミリフルサイズ
3040万画素
APS-C
2420万画素
35ミリフルサイズ
4240万画素
4Kモード 3840×2160 4096×2160 3840×2160 3840×2160
読み出し方式 ドットバイドット ドットバイドット オーバーサンプリング オーバーサンプリング
4K時の
フレームレート
30p/25p/
24p
30p/25p/
24p
30p/24p 30p/24p
ビットレート 144Mbps 約500Mbps 約100Mbps 約100Mbps
IPB/ALL-I IPB ALL-I IPB IPB
4K連続撮影
可能時間
約29分 約29分 約20分 約29分
実用ISO感度 100-12800 100-10000 100-10000 100-16000
5軸手ブレ補正
電子手ブレ補正
(FHD以下有効)
AF追従特性
コントロール
7段 標準/敏感 粘る/標準/敏感
AFスピード
コントロール
動画撮影時は自動で遅く(AF-F時) 10段 3段 動画撮影時は自動で遅く
HDMI出力

機種名 img_products_dslr_nofear47_05.jpgFUJIFILM X-T2
富士フイルム伝統の色作り。特に肌再現は特筆もの
img_products_dslr_nofear47_06.jpgPanasonic LUMIX GH5
4K、60p撮影、10bit内部記録の動画性能
img_products_dslr_nofear47_07.jpgOLYMPUS OM-D E-M1 MarkII
他機種にはない「スタビライザー感覚」の動画手ブレ補正
センサーサイズ
有効画素
APS-C
2430万画素
マイクロフォーサーズ
2033万画素
マイクロフォーサーズ
2037万画素
4Kモード 3840×2160 3840×2160
4096×2160
3840×2160
4096×2160
読み出し方式 オーバーサンプリング オーバーサンプリング オーバーサンプリング
4K時の
フレームレート
30p/25p/
24p
60p/50p/
30p/25p/
24p
C4K:24p
30p/25p/
24p
C4K:24p
ビットレート 100Mbps 150Mbps
400Mbps
約102Mbps
約237Mbps
IPB/ALL-I IPB IPB
ALL-I
IPB
IPB
4K連続撮影
可能時間
約10分 カードとバッテリー容量に依存 約29分
実用ISO感度 200-10000 100-12800 200-6400
5軸手ブレ補正
電子手ブレ補正
AF追従特性
コントロール
7段 5段
AFスピード
コントロール
11段 動画撮影時は自動で遅く
HDMI出力
*この表は4K及びC4K撮影時に使用可能な機能を比較しています。そのため4Kでは動作しなくてもFHDでは動作する機能も存在します。
*実用ISO感度はあくまで筆者のチャート撮影による判断なので、撮影内容によって変わってきます。あくまで参考値として見て下さい。
*HDMI出力は、HDMI端子から外部レコーダーにスルー画像が出力できるかどうか。



スチル撮影とは違う動画AF動作

通常、スチル写真のAF(オートフォーカス)は高速に、しかも正確にフォーカスを合わせる必要があります。フォーカス移動の最中は写真を撮りません。しかし動画では撮影中もフォーカス位置を変える(もしくは変えない)必要があるため、求められるAFの動作が違ってきます。高速なAF動作や、正確なピント位置を探してAFがあまり細かく前後しては、動画として使えません。また被写体とカメラの間に別の対象物が入った時、そちらに反応してフォーカスが動いてしまうのも問題です。つまり動画のAFでは「ゆっくり滑らかに動く」こと、あえて敏感に追従しない「鈍感さ」も必要なのです。

そのため最近の一眼カメラには、AF速度や被写体追従特性をより自由に設定できる機種が増えてきました。AF移動速度を遅くする設定なんて、静止画では考えられないことですが、これがないと動画のAFは使いものになりません。逆に、こうした設定ができるカメラが登場したことで、動画のAF撮影も実用段階に入ってきたと言えるでしょう。

Canon EOS 5D Mark IV

AF速度+2 被写体追従特性+3 レンズ:EF100mm F2.8L マクロ IS USM

AF速度-4 被写体追従特性-3 レンズ:EF100mm F2.8L マクロ IS USM

img_products_dslr_nofear47_08.jpg
img_products_dslr_nofear47_09.jpg
キヤノンEOS 5 D MarkIVではAFの設定が細かく調整できる(2009年以降発売レンズ対応)。作例は高速AF、追従特性敏感にした場合と、低速AFで反応が遅い(粘る)設定の撮り比べ。「敏感」設定は手前に別の対象が入った瞬間にピントが移動、また被写体を探してAFが大きく動いてしまうが、「粘る」設定では画面全体を別の対象が横切っても、元の被写体を追い続ける。


動画に最適なカメラプロファイル

メーカーによって呼び方は違いますが、基本的にデジタルカメラには彩度やコントラストを調整する「カメラプロファイル」がプリセットされていて、その設定は動画でも使用できます。しかしシャッターごとに確認/調整できるスチル撮影とは違い、光源や被写体が時間軸で移動する動画の場合は、光の状態が刻々と変化します。光源が安定しているポートレイトなどでも顔の向きを変えただけで、被写体に当たる光の角度が変化してオーバーになる場合も。そのため動画ではできるだけダイナミックレンジが広くハイライトやシャドウは寝たカーブで撮影し、後で調整する方が有利です。

ここでは各社の「カメラプロファイル」の中でもっともフラットな、動画で使いやすいと思われるカーブを挙げてみました。これ以上のダイナミックレンジを求めるならlog撮影になりますが、logの場合、カラーコレクションが必要なこと、また階調の圧縮、展開の際の画質劣化も想定すると、できれば12bit以上の記録が望ましいなど専門的な環境が必要になります。

FUJIFILM:PRO Neg.Std

 モデル:米田和子
img_products_dslr_nofear47_11.jpg
かってのポートレイト用のネガフィルム(映画のフィルムに似た)の特性を持ったカーブで、人肌の再現、シャドウの描写、ハイライトの伸びなど、とても使いやすいカーブ。人物が入る動画なら全てこのカーブを使用したいと思うくらい。
*赤のラインが7絞り、緑が8絞りの位置。各データはISO100ないし200の各カメラ最低感度で撮影。

Nikon:フラット

img_products_dslr_nofear47_12.jpg
ハイライトもシャドウも寝ていて、しかも均等に近いカーブ。感度800までは11絞りという広いダイナミックレンジを持つ。光量変化の激しい撮影などに向いている。

Canon:ニュートラル

img_products_dslr_nofear47_13.jpg
キヤノンの中でLogを除くと最も寝たカーブだが、それでもシャドウを締めて中間調も立っている。シャドウ部の階調も見せる場合は照明比のコントロールが必要だろう。

SONY:PP5(Cine1)

img_products_dslr_nofear47_14.jpg
ニコンの「フラット」と良く似た特性を持つカーブ。センサーのダイナミックレンジが広いからこそ可能なカーブ。シャドウ側のノイズ感がやや残るが、どの階調も滑らか。

Panasonic:シネライクD

img_products_dslr_nofear47_15.jpg
最新機「GH5」の実機テストが間に合わなかったため、DMC-FZH 1で撮影。1inchセンサーのためダイナミックレンジは狭いが、中間調も無理なく使いやすいカーブ。

OLYMPUS:Flat

img_products_dslr_nofear47_16.jpg
名前がニコンと同じだが、よりハイライトとシャドウを寝かせて中間調は立てている。E-M1 Mark II になってからシャドウ部の耐久性が増し、このカーブの意味が高まった。

ちなみにlogは

img_products_dslr_nofear47_17.jpg
こちらがlogカーブ(Panasonic V-log)。ハイライト側に3段~4段の余裕を持ち、それ以外は思い切り圧縮。展開には専用ルックアップテーブルが用意されている。

オーバーサンプリングとドットバイドット

動画の生成方式として、今回紹介した機種ではニコンとキヤノンが「ドットバイドット」、その他は「オーバーサンプリング」となっています。「ドットバイドット」はセンサーの4K分のエリアだけを使い撮影する方式ですが、ベイヤー配列のセンサーではどうしてもベイヤー演算が必要となり、いまいち解像感がすっきりしないという問題があります。それを補うために大きいエリア(画素数)で撮影、縮小して4K画像を生成することで、シャープネスを与え解像感のあるデータを得るのが「オーバーサンプリング」です。

4Kで撮影、パンやズームで一部をトリミングをしてフルHDで仕上げる場合などは、解像感のある「オーバーサンプリング」を推します。しかし4Kのまま使用する場合、あまりにシャープな画像だと「ちらつき」が多くなり見づらく、「ドットバイドット」の柔らかい再現の方が見ていて気持ちが良いと感じることもあります。撮影のビットレートが高くなるとまた話が異なるのでしょうが、現時点ではどちらも長所、短所があるというところです。

SONY α6500

img_products_dslr_nofear47_18.jpg
α6500はスーパー35mmフォーマット全画素読み出しの「オーバーサンプリング」。解像感がありシャープが強くかかっている。

FUJIFILM X-T2

img_products_dslr_nofear47_19.jpg
XT-2は、通常の2×2のベイヤー配列ではなく独自のX Trance CMOS。「オーバーサンプリング」だが、シャープネスを追加していないようで、ほどよい解像感と滑らかさを感じた。

Nikon D500

img_products_dslr_nofear47_20.jpg
D500は「ドットバイドット」で柔らかめ。

SONY α6500

 モデル:矢崎希菜

Nikon D500

「オーバーサンプリング」(α6500)の方が細部の解像感はあるが、動画として見た場合「ドットバイドット」(D500)の柔らかさもありだろう。


動画撮影に向く「ハイライト重点測光」

最近、ニコン、ソニーのカメラには「ハイライト重点測光」が搭載されています。これは画面の中で、最も明るい部分に対してトーンが残るように露出を決める測光モード。このモードと先に紹介したフラットなカーブを組み合わせることで、動画撮影の自由度は広がるはずです。後でコントラストなどを調整する必要がありますが、撮影では常に白飛びしない状態を維持できるため、「いきなり画面内の光量が変化するシーン」などでも、安心して露出はカメラ任せで撮影可能です。

SONY α99 II(左) Nikon D500(右) 比較画像

img_products_dslr_nofear47_21.jpg ソニーα99 II(左)とニコンD500(右)のハイライト重点測光での撮影結果。左がそれぞれのルミナンス。同じハイライト基準でも、α99IIは2.3絞り、D500は約1.5絞りほど暗めに記録されている。この差はメーカースタンスだと考えて良いだろう。いずれも、光の状況が変化してもハイライトが飛ばない露出で記録されるので、舞台撮影で無人のセンターカメラなどにも応用可能だ。


動画手持ち撮影ができる…ボディ内5軸手ブレ補正

手ブレを補正するための方法としては現在、3つの方法があります。ひとつは従来からある「レンズ手ブレ補正」。そして最近搭載する機種が増えてきた「ボディ内5軸手ブレ補正」。これはセンサーを「上下」「左右」「ピッチ」「ヨー」「ロール」の5軸方向に動かすことでカメラ揺れに対処。動画手持ち撮影でも、自分が立ち止まった状態で撮るのであれば、「ボディ内5軸手ブレ補正」で充分にブレのない映像が撮れます。さらに撮影データを演算する「電子手ブレ補正」があります。あらかじめ広めに撮影してカメラの揺れによる各コマごとのズレを検知し、コマを移動することで揺れのない画面を作る方式です。

今回紹介したカメラの中では、特にE-M1 MarkIIは、センサーがマイクロフォーサーズのため、5軸手ブレ補正時のセンサー可動域が大きく、現在、もっともブレに強いカメラと言ってよいでしょう。また最新レンズと電子手ブレ補正を組み合わせて使用した時の連携も滑らかで、カメラが動き回る動画撮影でも、スタビライザーなしで、かなり使えます。

OLYMPUS OM-D E-M1 MarkII

手ブレ補正 手持ち固定 5軸手ブレ補正、最新レンズ(現時点ではM.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO)、そして電子手ブレ補正を組み合わせ。手持ち固定で撮影。ブレもほとんどなく簡単なインタビュー映像など、三脚なしでいけそう。

OLYMPUS OM-D E-M1 MarkII

 手ブレ補正 手持ち移動 カメラ手持ちで被写体に合わせて移動しながら撮影。


高感度性能はISO3200がひとつの基準

最近、高感度特性の優れたカメラが増え、照明機材が充分に用意できなくても、動画撮影が可能になりました。そこでひとつの基準としてISO3200で、ダイナミックレンジ9絞りを確保し、シャドウノイズが気にならないレベルで撮影できることがポイントと考えています。その理由はISO3200で撮影可能であれば、ほとんどの常識的な範囲の自然光で撮影可能となるためで、たとえば曇りの日の室内では、感度3200ならシャッタースピード1/30でf5.6の絞りを得ることができ、夜の室内も通常の照明であれば同様の数値で撮影可能です。小さな補助光さえあれば、美しい仕上がりを期待できるのです。

高感度ではシャドウにノイズがのってきますが、そのカメラがどこまで高感度の動画で使えるかの判断は、単純にノイズの量で決めるのはなく、ノイズの動きも見る必要があります。1コマ1コマのノイズが少なく静止画では気にならなくても、それがちらつくと非常に見にくい映像になります。その辺の「動画的ノイズ処理」も、今後さらに進化していくと思われます。

SONY α99 II

 ISO100

SONY α99 II

 ISO12800

SONY α99 II

 ISO25600 高感度に優れたカメラというと現在ソニーα7S IIが挙がるが、同社α99 IIも高感度撮影の性能は高い。ISO 3200あたりからシャドウ側がややブルーミングしはじめるが、 ISO 12800でも7絞り強のダイナミックレンジ。

img_products_dslr_nofear47_22.jpg
ISO25600作例の撮影風景。人物の輪郭が見える程度の暗い室内でα99 IIの背面液晶だけが光っている。ISO25600ではさすがにブローチの白、ショールのシャドウは分離せず、彩度は失われ、背景はノイジーだが、それでも見られないことはない。むしろこの低光量でここまで撮れることに驚きだ。

※この記事はコマーシャル・フォト2017年5月号から転載しています。


鹿野宏 Hiroshi Shikano

デジタルカメラの黎明期からほとんどの一眼レフタイプのデジタルカメラを遍歴。電塾塾長としてデジタルフォトに関する数多くのセミナーを開催。カラーマネージメントセミナーも多い。写真撮影では2億画素の巨大な画像を扱い、2009年から動画撮影をスタート。WEB上の動画、デジタルサイネージ、社内教育用などの「ミニマル動画」を中心に活動している。

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