一眼ムービーなんて怖くない!

ローリングシャッター歪みを計測する

解説:鹿野宏

一眼動画のウィークポイントとも言える「ローリングシャッター歪み(ゆがみ)」。高速で動くものを撮影すると形が歪むという現象です。最新のカメラは以前と比べて大分改善されてきましたが、「ダイナミックレンジ」「高感度特性」と同様に、自分が使っているカメラや新たに購入するカメラが「どのくらいの速度から被写体が歪むのか」「どのくらいまでの速度なら動画として我慢できるか」は、知っておきたいところです。

ところが「ローリングシャッター歪み」に関して、各メーカーからは比較できるような定量化された情報がほとんど出ていません。規格化された条項が存在しないのかもしれないし、あえて話題にしたくないのかもしれません。

そこで、今回は夏休みの工作として「ローリングシャッター歪み」を計測 / 定量化するための装置を、個人的に制作することにしました。

ローリングシャッター測定器 v1.0

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本来は横走りの高速移動するスリットがよいのだが、1秒に10m以上の高速で移動するスリット装置を制作する手立てがみつからないため、換気扇がベース。モーターもステッピングモーターとインバーターの組み合わせが理想だが、そうなると夏休みの工作としては予算オーバーで断念。速度コントローラー(電圧レギュレーター)を使いインバーターと電圧制御で、秒100回転の低速から900回転の高速回転まで、必要な情報を得ることができた。

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DROK 速度コントローラー マイクロAC 110V 4000W 電圧レギュレータSCR

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レーザーデジタル回転計
AF-0115

「ローリングシャッター歪み」について説明しておくと、一眼カメラの動画撮影のシャッターは電子シャッターで、基本的にCOMSセンサーの上から1列ずつ、縦方向に順次スキャンをする方式(ローリングシャッター)です。そのため被写体がイメージセンサーの読み出し速度以上のスピードで運動した場合、次の列の読み出し時にはすでに移動してしまい、1枚のカットの中で記録位置がずれ、撮影対象が歪んで記録される現象のことです。

デジタルシネマ業界で使われているムービー専用機材の多くは、グローバルシャッター(センサー全範囲を一度に読み込む)を採用するため、歪みのような現象は起きないのですが、それがシネマカメラが高価となる理由の1つにもなっています。

ローリングシャッターを採用する一眼ムービーで「ローリングシャッター歪み」を解決するには、転送速度を思い切り早くして、歪みが発生する限界点を引き上げる(たとえばソニーα9 II)などの方法が知られています。

テスト撮影の様子

img_products_dslr_nofear80_04.jpg スタジオの隅に計測ブースを設置した。カメラと「ローリングシャッター測定器 v1.0」の距離は0.9m。測定器の回転部分がほぼ画角一杯になるようにして、回転速度を変えながら撮影。カメラにマイクをつけ、回転数とシャッタースピードをメモとして音声で記録している。ちなみにシャッター速度は1/25sから1/6400sまで細かくテストしたが、シャッター速度が遅いとブレて高速だとブレないだけなので、変形の様子を確認するのであれば、高速シャッターで充分という結論を得た。

筆者の制作した測定器は換気扇をベースにしています。1/50sという関東圏で多く使用するシャッタースピードを基準に5枚羽とし、羽を黒いテープでマスク。そこに放射状に伸びる目盛を貼り付け、回転数をカウントできるように1本だけ色を変えています。回転数はやや強引ですが、インバーターと電圧制御。レーザーデジタル回転計で回転速度を計り、調整するという方法です。

換気扇の羽部分の直径は250mmなので、円周は約785mm。1分間に100回転(100rpm)するとしたら、羽に貼り付けた目盛りの先端は分速78.5m、時速約4.7kmで動いていることになります。これは成人男性の歩く速度です。

テスト撮影の結果

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100rpm(毎分100回転)から徐々に回転数を上げていった。240rpm(毎分240回転)ぐらいまでは気にならないレベル。300rpmで少し歪みが目立ちはじめ、900rpmだとかなり変形してしまう。900rpm時の目盛り先端速度は、時速約42km、おおよそ総武線快速の新小岩-東京間の速度。 img_products_dslr_nofear80_05.jpg img_products_dslr_nofear80_06.jpg

今回はテストとしてソニーα7R IVで撮影したのですが、240rpm(時速8.5km)でやや歪みが見られるものの使用可能な画像だと感じ、300rpm (時速14km)では、許容範囲と感じる方もいれば、許せない方もいらっしゃるでしょう。600rpm(時速約28km)では明らかに歪みが発生し、900rmpでは異様な変形を認めることができました。

測定器とカメラの距離は900mm、つまり今回測定したα7R IVは0.9m前を時速14km程度で移動するものならほぼ問題がなく撮影ができ、それ以上の速度では徐々に変形していくという認識で良さそうです。もちろん撮影距離が遠くなれば(広角側を使用すれば)、変形はどんどん弱くなることも頭に入れておきましょう。

上の動画は600rpmと900rpmで、シャッター速度を徐々に速くしていったテスト結果。シャッター速度が遅いと目盛りがついた5本のラインはブレますが、歪みは観察できます。また動画後半は300rpm、シャッター速度1/2000秒のテスト結果です。

いずれセンサー読み出し速度の高速化、あるいは歪みを電気的に元に戻す処理機能の搭載、グローバルシャッターが(値段がこなれて)一眼カメラにも搭載されるなどの進化で解消されていく問題であることを期待して、今しばらくはこの歪みの問題も新機種テストに組み入れていきたいと考えています。機会があればα9 IIはもちろん、処理速度が大幅に向上したというα7s IIIが、どれだけ歪みを解消しているのかも気になるところです。


※この記事はコマーシャル・フォト2020年10月号から転載しています。


鹿野宏 Hiroshi Shikano

デジタルカメラの黎明期からほとんどの一眼レフタイプのデジタルカメラを遍歴。電塾塾長としてデジタルフォトに関する数多くのセミナーを開催。カラーマネージメントセミナーも多い。写真撮影では2億画素の巨大な画像を扱い、2009年から動画撮影をスタート。WEB上の動画、デジタルサイネージ、社内教育用などの「ミニマル動画」を中心に活動している。

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