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大きく進化した動画性能、FUJIFILM X-T3

解説:鹿野宏

外観はX-T2と似ているが、動画性能は大幅にアップ

富士フイルムのデジタルカメラを取り上げるのはこれが3回目。2016年9月に発売されたX-T2は、動画撮影能力に関しては今一歩という感触でしたが、「PRO Neg.STD」という富士フイルムらしいカメラプロファイルを搭載し、「動画で人物を撮影するならこのカメラが一番」と感じました。2018年春に発表されたX-H1は、映画的な色再現の「ETERNA/シネマ」プロファイルを搭載。静止画のみだったダイナミックレンジ拡張を動画でも実現。そしてその半年後に発表されたこのX-T3。10bit記録とフレーム間NR(ノイズリダクション)を、いとも簡単にやってのける動画性能、早速検証させてもらいました。

FUJIFILM X-T3

img_products_dslr_nofear62_01.jpg X-T2と比較して、見た目にはあまり大きな変化はないが、4K、60pの10bit記録、4Kフレーム間NRなど動画性能は大幅アップした。EVFのファインダー倍率は0.75倍、369万ドット。ブーストモードにするとフレームレート100fpsで表示可能(通常モードでは60fps)。表示タイムラグが減少し、非常に滑らかな表示となる。

img_products_dslr_nofear62_02.jpgEVFの解像度のX-T2は236万ドットから、369万ドットにアップした。

まずはDCI 4Kの60p撮影、しかも10bit記録が可能になったこと(内部記録では4:2:0 10bit、HDMI出力外部記録では4:2:2 10bit。同時記録可能)。これは大きな進化です! 

8bitと10bitは比較すると64倍の色情報の差があり、単に広いダイナミックレンジで撮影できるだけでなく、「必要な部分のみトーンを強調して映像の説得力を高める」という使い方も視野に入ってきました。またルックアップテーブルで極端な補正カーブをかけるlog撮影では、10bitは必須。log撮影を多用する映像プロダクションでは諸手を挙げて歓迎されるでしょう。

img_products_dslr_nofear62_03.jpgX-H1と同様に自由度が上がったバリアングルファインダー。

ALL-Iの記録がDCI4K、29.97p/25p/24p/23.98p 400Mbpsで可能になったことも、個人的には非常にありがたいポイントです。正直に言って1時間、2時間の長編記録をこのモードで撮る気はさらさらないのですが、60秒程度の高品質の映像を撮影したい時は山ほどあります。

4K撮影では「4Kフレーム間NR」が新たに搭載され、高感度側がさらにノイズレスになりました。動画のISO感度の上限的にはあまり差がないのですが、ノイズの発生率が2ステップ分近く改善されています。人によって意見は分かれるでしょうが、筆者的には「ポートレイト的な撮影がISO6400オーバーでも可能になった」ことは、今回の目玉の一つだと感じました。夕焼けをバックにした動画ポートレイト、ぜひトライしていただきたいと思います。


ISO12800、400%ダイナミックレンジ拡張でもノイズはかなり少ない

X-T2でも装備されていたダイナミックレンジ拡張機能。X-T3では200%拡張がISO320以上~、400%拡張はISO640以上~と、動作する感度を下げたことでさらに使いやすくなっています。前述のフレーム間NRの効果もあり、ISO12800、400%拡張で11+1/3段ほどのダイナミックレンジが確保できています。ISO12800で動画撮影できること自体驚きですが、ノイズによるチラツキも少なく、クリアーな映像を取得します。


「PRO Neg.STD」モードでステップチャートを撮影(ISO12800)
ダイナミックレンジとノイズを検証してみた。図中3本の波線は下からダイナミックレンジ100%、200%拡張、400%拡張。

4Kフレーム間NR〈OFF〉
img_products_dslr_nofear62_04.jpg
img_products_dslr_nofear62_06.jpg拡大表示
4Kフレーム間NR〈ON〉
img_products_dslr_nofear62_05.jpg
img_products_dslr_nofear62_07.jpg拡大表示
400%拡張では11絞り以上階調が伸びている。4Kフレーム間NRの有無でカーブの形は変わらないが、さらに拡大してみると、ノイズリダクションOFFではラインが大きくぶれている。このぶれ具合の大きさがノイズの量を表す。特に8絞り前後は驚くほど顕著な差が現れた。フレーム間NRの効果は絶大だとわかる。これが高品質な画像を生み出している理由だろう。

ダイナミックレンジ(DR)拡張とノイズリダクション(NR)のテスト
ステップチャートを使い、各感度でDR拡張とNRの状態をテストしてみた。各ステップの分離感、シャドーのノイズ感を見て欲しい。ISO25600はDR拡張がないので通常モード(DR100)での撮影のみだが、ノイズリダクションの効果でかなりノイズが軽減されているのがわかる。


センサー読み出し速度は17msと、マイクロフォーサーズ機、パナソニックLumix GH5の13msには敵わないものの、非常に優れたローリングシャッター耐性を備えています。現時点で動体歪みが少ないトップ3に入る一眼デジカメだと感じます。作例ではなんとか歪ませるために時速130キロのスピードでテストしていますが、通常の撮影であればほとんど問題がない範囲に収まるでしょう。

その他、機械的な部分をいくつか。X-T2ではパワーブースターグリップ装着時のみ可能な音声出力やブーストモードですが、X-T3では音声出力端子をボディに備え、ブーストモードもボディ単体で可能になりました。ブーストモードではEVFのフレームレートが100fpsとなり、とても滑らかな表示が可能。バッテリーを消費するので注意が必要ですが、一度経験するとこのモードでしかEVFを使いたくなくなります。またダイアルなど、形やクリック感がよく馴染み、ガタつきが減ったことも、地味な進化ですが重要なポイントです。

パッと見た感じではX-T2からそれほど大きな進化はないように見えます。しかし実は大小いっぱいの目玉があり、特にこの2年間の堰を切ったような怒涛の動画機能進化、開発速度に圧倒される思いがしました。

X-T3での実写

1/60 f5 ISO5000 DR400 ベルビアモード H.265 DCI4K 60p 4:2:0 10bit 200Mbps

時刻は夜8時頃。周囲は大分暗かったのでISO5000での撮影。ダイナミックレンジ400%拡張。炎と黒い背景の人物のトーンが見事に同居している。実はこれ、ベルビアモードで撮影。階調よりも鮮やかさ重視のモードだが、これだけの階調再現がなされ、かつノイズがほとんど見えないのが驚き。


1/125s f8 ISO200 DR100 ProNeg.Stdモード H.265 DCI4K 60p 4:2:0 10bit 200Mbps

時速130キロで走行中の特急列車の車窓からの風景(画面左が進行方向)。シャッタースピードは1/125。画面右側のブレて半透明になっている電柱までは目測で約5メートル。ローリングシャッター現象で斜めに映っているが、130キロでこの程度なら充分許容範囲。


1/100s f5.6 ISO400 DR100 ベルビアモード H.265 DCI4K 60p 4:2:0 10bit 200Mbps

夕景をベルビアモードで撮影してみた。記憶にある色彩よりはるかに焼けて見える。上手く使えば印象的なカットを労せずして仕上がることが可能だろう。


1/60s f4.5 ISO6400 DR100 スタンダードモード H.265 DCI4K 60p 4:2:0 10bit 60p 200Mbps

ISO6400を高感度というのはすでに時代遅れかもしれない。どこをつつけば「アラ」が見つかるのかわからない。「高感度特性」をみるのであれば12800以上の感度で試すべきだったかも。オートで撮影していたため、フリッカーが出やすいシャッタースピードになってしまったようで、本来はここは1/50と指定するべきカメラマンのミス。


1/60s f8 ISO100 ProNeg.Stdモード H.264 DCI4K 4:2:0 8bit 30p 100MMbps

カッパ橋祭りで撮影した和太鼓の映像。バチのインパクトの瞬間のスピードは実際どれほどかわからないが、これがゆがまなければほとんど問題ないのではないかと。手持で4Kの揺れがここまで抑えられていることも評価したい。見た目とほとんど同じ色彩に仕上がっている。


1/125s f8 ISO100 ProNeg.Stdモード H.264 DCI4K 4:2:0 8bit 30p 100MMbps

実はこのカット、わざとアウトフォーカスから開始したのだが、カメラが勝手に途中で「顔と瞳」を検知して、それがアウトするまで見事に追い続けた。私にはできない芸当だと感じた。




※この記事はコマーシャル・フォト2018年12月号から転載しています。


鹿野宏 Hiroshi Shikano

デジタルカメラの黎明期からほとんどの一眼レフタイプのデジタルカメラを遍歴。電塾塾長としてデジタルフォトに関する数多くのセミナーを開催。カラーマネージメントセミナーも多い。写真撮影では2億画素の巨大な画像を扱い、2009年から動画撮影をスタート。WEB上の動画、デジタルサイネージ、社内教育用などの「ミニマル動画」を中心に活動している。

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