一眼ムービーなんて怖くない!

動画機能も確実に進化させてきたニコンD850

解説:鹿野宏

裏面照射型CMOSを搭載したFXフォーマット機

9月に発売されたニコンの最新機D850。一見、「これといって尖った新機能が見当たらない」と思っていたのですが、実際に細部を見てみると、裏面照射型CMOSセンサー採用、FX / DXフォーマット切り替えなど、多くの点で改良、チューニングがされてることがわかりました。

Nikon D850

img_products_dslr_nofear52_01.jpg有効約4575万画素の裏面照射型CMOSを搭載したFXフォーマット機。
動画撮影ではFXベースでの4K撮影と、スーパー35mm相当のDXベースでの4K撮影が可能。感度はISO64~256000。
スローモーション撮影はフルHDモードまでだが、4倍スロー(120 / 100pで画像読み出し、30 / 25pで記録・再生)、5倍スロー(120pで画像読み出し、24pで記録・再生)の撮影が可能。フルHD動画撮影では電子手ブレ補正も使える。

ISO6400まではダイナミックレンジ10絞りを確保

裏面照射CMOSのおかげで、ISO感度6400での動画撮影を軽々とサポート。さらにISO200以下の低感度も充実し、ISO64まで設定できるのは大きなメリットです(静止画ではISO32まで拡張可能)。いつものチャートテストではISO64からISO800までは、36ステップ、12段ものダイナミックレンジを確保! ISO1000から徐々にダイナミックレンジは減少しますが、ISO6400でも10絞りを維持しているのが驚きです。ISO8000以降、ややノイズが目立ち始めてもISO16000までは7ステップを維持しているので、シャドー部を潰して構わない絵柄であれば、問題なく使用可能なノイズ量だと判断できます。

D850 ISOとダイナミックレンジ

21ステップ

ISO64
30ステップ
img_products_dslr_nofear52_04.jpg
ISO6400
img_products_dslr_nofear52_05.jpg
ISO16000

img_products_dslr_nofear52_06.jpg

1/3段刻みのステップチャートを動画撮影して、シャド-部を拡大したもの。緑三角が21ステップ(絞り7段)、赤が30ステップ(絞り10段)。
映像をモニターで確認すると、ISO64では10段以上、12段あたりまで再現。当然ながらノイズもない。ISO6400ではノイズが出てくるが、それでも10段は確保している。さすがにISO16000だとかなりノイズが乗ってくるが、7段程度のダイナミックレンジは確保している。

低感度のメリットとしては、動画の日中撮影で1/30秒のシャッタースピードを維持し、絞りを開けたいとなるとNDフィルターを使わざるを得ないケースも多いのですが、ISO64までの設定があれば、NDフィルターなしで撮影できる幅が広がります。

またシャッタースピードと絞りをマニュアルに固定して、感度のみをオートで変えて適正露出を得る「感度自動制御」も便利。前述した通り、広い感度域で安定した仕上がりが得られるので、明度差があるシーンをワンカットで撮影する際や、タイムラプスにも威力を発揮します。

FXフォーマットとDXフォーマットを選べる

FXフォーマット4KとDXフォーマット4Kを切り替えられる機能は、歓声をあげる方も多いのではないでしょうか。D850は35ミリフルサイズセンサーを持つFXフォーマットのカメラですが、フルフレームを使いオーバーサンプリングで4K動画を撮影するFXモードは解像感の高い仕上がり。一方、センサーの中央部、DXエリアを使うDXモードでは、ほとんど同様の品質を維持しながら、同じレンズで1.5倍の焦点距離を稼げるのです。

D850 電塾CCD解析能力評価用チャート

※YouTubeプレーヤーをなるべく高解像度に設定してご覧ください。

img_products_dslr_nofear52_02.jpgFXフォーマット
img_products_dslr_nofear52_03.jpgDXフォーマット

FXフォーマット4KとDXフォーマット4Kで同心円チャートを撮り比べてみた(拡大)。
FXフォーマットはセンサーの広い範囲からのオーバーサンプリングによって、解像感の高い仕上がり。シャープネスも自然だ。DXモードでもオーバーサンプリングされているが、その範囲は狭く、ややシャープネスが強い印象。ただしFX/DXとも大きな違いはなく、実際の撮影では仕上がりにほとんど差のない画像が得られる。モードを切り変えて撮影して、タイムライン上に2種類のモードが混在しても違和感はないだろう。

自然光オートも(筆者的には)待ちに待った機能です。通常のオートの場合、オレンジやベージュに塗られた壁などが画面の中で支配的な時、ホワイトバランスが大きく狂うことがよくありますが、太陽光に条件を限定することで、高い精度のホワイトバランスを期待できます。動画の外ロケは、このモードのみでいけると感じました。

ホワイトバランス=自然光オート、測光モード=ハイライト重点、ピクチャーコントロール=フラットという3種の設定を組み合わせると、直射日光の強い屋外から日陰、窓から光が入る室内などの撮影、あるいはタングステン光のスポットライトが踊る舞台撮影もオートホワイトバランス、自動露出のままで苦もなく撮影できるでしょう。

フルHD限定ではありますが、120 / 100pで画像読み出し、30 / 25pで記録・再生のスローモーションが可能。また電子手ブレ補整も搭載してきました。どちらも4K撮影には未対応なのは残念ですが、あるとないとでは大違いです。冒頭に「一見、これといって尖った新機能がない」書いてしまいましたが、万遍ない方面に進化しているせいで逆に特徴が見えない。けれども使ってしまうと手放せなくなる。D850はそんなバランスで完成されたデジタルカメラでしょう。

D850 スローモーション


モデル:米田和子

D850 手振れ補正


ポートレイトモードがきれい

最後にピクチャーコントロールについて。これまで動画撮影の設定は「フラット」モードばかり使ってきたのですが、ニコンさん、「ポートレート」モードの画質も進化していませんか? 今回、この設定を使ってみてびっくり。シャドー部の濁りがなく、色相のつながりがとても綺麗です。充分な質感、立体感を損なわずに維持している。動画撮影時に肌色に対して、明るさとコントラストのみの調整でかなり綺麗に仕上げることができました。これは「フラット」と併せて使っていけるモードだと感じました。

D850 ポートレイト


作例

 ISO160、F2.8、1 / 30s、FXフォーマット4Kで撮影 img_products_dslr_nofear52_07.jpg img_products_dslr_nofear52_08.jpg これまでニコンカメラの動画撮影では、ピクチャーコントール設定はカーブにクセがなく使いやすい「フラット」を推してきたが、人物メインなら適正露出に気を使う必要はあるものの「ポートレート」モードもかなり使える。シャドーの濁りがなく、驚くほど肌色再現性が高い。



※この記事はコマーシャル・フォト2017年11月号から転載しています。


鹿野宏 Hiroshi Shikano

デジタルカメラの黎明期からほとんどの一眼レフタイプのデジタルカメラを遍歴。電塾塾長としてデジタルフォトに関する数多くのセミナーを開催。カラーマネージメントセミナーも多い。写真撮影では2億画素の巨大な画像を扱い、2009年から動画撮影をスタート。WEB上の動画、デジタルサイネージ、社内教育用などの「ミニマル動画」を中心に活動している。

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