2018年10月17日
筆者が現在使用するメインPCは「MacBook Pro 15inch Retina 2013 Late」。撮影現場に持って行き、事務所でも自宅でも編集作業をします。しかしたとえば3カメ(4Kを含む)で1時間ほど収録し、Premiere Pro CCで17分程の動画を編集していると、未レンダリングで滑らかに再生してくれるのはわずか10秒程度。「FHD/mp4/1Pass/ターゲットビットレート12Mbps 最大ビットレート24Mbps」の書き出しに、1時間半も掛かるのです。「一眼ムービーカメラの画質がどんどん良くなる=扱うデータ量が倍々で増えていく=これまでのコンピュータでは間に合わない」という図式は、一様に動画を扱うフォトグラファーが直面している問題でしょう。そこでマシンを抱えて通勤ができて、ストレスのない書き出しができるノートブック探しが始まりました。そして行き着いたのがBTO可能なマウスコンピューターのマシンです。
今回は同社製品から15.6型ノートPC「MousePro NB9シリーズ」の「MousePro-NB991Z-M2-1806」と17.3型4Kディスプレイ搭載ノートPC「DAIV NG7620シリーズ」からM.2接続のSSDを2機内蔵する「DAIV-NG7620U2-M2SS」を比較検討することにしました。
MousePro NB9シリーズ/MousePro-NB991Z-M2-1806
15インチタイプのノートPC。実際のところあまり期待していなかったが、レンダリング処理(下表参照)では、「DAIV NG7620シリーズ」と数分の差しか出なかった。M.2の転送速度の速さが表れている。今回テストしたのは、M.2 SSDが512GB、SATA SSDが1TBのモデルだが、システムやアプリケーションを納める作業用M.2 SSDは1TB程度、作業前後のデータを保存する倉庫は比較的安価で高速なSATA SSDを2TB用意すれば、複数のプロジェクトを同時に走らせるのでないかぎり、充分なスペック。グラフィックボード「Quadro P3000 6GB」で、4Kを含むマルチディスプレイ環境も構築できる。
DAIV NG7620シリーズ/DAIV-NG7620U2-M2SS
ほとんどデスクトップ機と言ってもよいDAIV NG7620シリーズ。何しろハイエンドデスクトップ機と同じのグラフィックボードGTX 1080 8GB搭載。64GBものメモリを積める。4Kを含む17分の動画を未レンダリング状態で走らせてみたら、最後まで確認できてしまった。ディスプレイは4K対応。その上、 HDMI×1、ミニディスプレイポート×2の外部出力で、計4面の4K環境を構築することもできる。ストレージもM.2 SSD×2、SATA SSD×2の合計4機を内蔵可能、巨大なストレージ容量を活かして、複数プロジェクトを本体内に格納して、いつでもどこでもデスクトップPC同様の作業環境を実現する。
検証した2機種のスペック
ストレージ、グラフィックボード、メモリー
動画PCに必要な要素はストレージ、グラフィックボード、メモリーの3点に集約されます。
現在、高速ストレージと言えばSSDですが、SSDを語る時に外せないのがNVMeプロトコルで動作するM.2 SSDです。SATA(シリアルATA)接続の転送限界値600MB/secを軽く超え、PCIe Gen3(各レーン最大1000mbps)を4レーンを使用して、今やハードディスクとは比較にならない別次元の転送速度を実現しています。今回、ピックアップした機種は、いずれもNVMe M.2のSSDを搭載。OS、アプリケーション、動画素材を高速にドライブできます。
M.2 NVMe対応のSSDの実力はいかに
高速ストレージとして話題の「NVMe M.2」規格のSSD。従来のSATA 規格ではSSDでも転送限界値が600MB/secだが、M.2 NVMeなら、軽く読み出し1427MB/secを叩き出す。上のベンチマークはDAIV-NG7620のもの。「MousePro-NB991」でもほぼ同じような数値だった。
書き出しスピードの比較 上の表は、本文にも書いた「3カメ(4Kを含む)で1時間ほど収録」した動画を17分に編集、「FHD/mp4/1Pass/ターゲットビットレート12Mbps 最大ビットレート24Mbps」の書き出しに要した時間。Premiere Pro CCの使用可能メモリを8GBに制限し、ハードウェアアクセラレーターOFFの状態とONの状態の比較をしてみた。ハードウェアアクセラレーターOFFの状態は、そのマシンの「素」の基本的な性能を表すと言ってもいいが、SSD、グラフィックボードの差でここまで差がつくとは思わなかった。これまで1時間半掛かっていた作業が、30分以内で終了。 MousePro-NB991ZがDAIV-NG7620と比較してハードウェアアクセラレーターOFFで遅いのは 、第7世代と第8世代のCPUの差が出たものだろう。素の状態のMacBook ProがMousePro-NB991Zよりやや速いのが興味深い。
動画ではグラフィックボードも重要です。グラフィックボード自体に4GB以上のビデオ専用メモリーを持ち、多くのスレッドで演算してくれるもので、できればゲーミングマシン用ではなく動画編集に適したボードが理想です。
Adobe Premiere Pro CCを使うのであれば、レンダリングされていないシーケンスを走らせる時、滑らかに動いてくれる時間はメインメモリー空間に依存します。様々なエフェクトなども同様です。また、筆者はPhotoshopも同時に使用することが多いので、システムとPhotoshop用に最低でも8GBは確保しておきたいです。
筆者の使用環境に最適なマシンは...
2台のマシンを実際検証した結論。ショートムービーが中心で、可搬性を重視する筆者の使用環境では「MousePro NB9シリーズ」が最適のように思えます。
実は当初、17インチ「DAIV NG7620シリーズ」が本命でした。ノートPCとは言え、グラフィックボードはGTX 1080 8GB搭載。64GBものメモリーを積めます。さらにストレージもM.2 SSD×2とSATA SSD×2の合計4機を内蔵可能。まさに理想のノートPCなのですが、4kgという重量。これを持って自宅と事務所の往復はかなり厳しい。
また今回テストをして、メインメモリーを32GB搭載したマシンであれば、Media Encoderの書き出し中に別のシーケンスを編集、超高精細画像でなければPhotoshopとの共存も可能だということがわかりました。さらにストレージに関しても、M.2のような高速規格の場合、複数のストレージにアプリケーション領域と書き出し領域を分けても速度的にはあまり変わらないようです。
それならば「MousePro NB9シリーズ」のBTOで「M.2接続SSDを1TB、SATA接続SSDを2TB」選択することで充分なストレージ容量となり、書き出し速度が「DAIV-NG7620U2-M2SS」に及ばなかった部分もM.2 SSDの大容量化でかなり解消するでしょう。40万円程度で必要充分なスペックになります。どうやら私が選ぶマシンの答えが出たようです。
※この記事はコマーシャル・フォト2018年8月号から転載しています。
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鹿野宏 Hiroshi Shikano
デジタルカメラの黎明期からほとんどの一眼レフタイプのデジタルカメラを遍歴。電塾塾長としてデジタルフォトに関する数多くのセミナーを開催。カラーマネージメントセミナーも多い。写真撮影では2億画素の巨大な画像を扱い、2009年から動画撮影をスタート。WEB上の動画、デジタルサイネージ、社内教育用などの「ミニマル動画」を中心に活動している。
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