2020年02月04日
パナソニックのフルサイズミラーレスLUMIX Sシリーズの中で、特に動画撮影を重視したLUMIX S1H。有効2,420万画素フルサイズセンサーのほぼ全域を使って6K動画の撮影可能。カラコレを前提としたV-log撮影も標準搭載された「動画制作プロダクション向きのカメラ」です。そのS1Hを今回は約1ヵ月にわたりお借りしてテストすることができました。
LUMIX S1H+LUMIX S PRO 24-70mm F2.8
有効画素数2,420万画素のCMOSセンサーを搭載したフルサイズミラーレス機。6K(3:2)/23.98p、5.4K(3:2)/29.97p、5.9K(16:9)/29.97pの動画撮影が可能。LUMIX S1、S1Rと比較しボディサイズはやや大きくなり重量も150gほど重くなったが、6K撮影のための放熱対策だと思われる。熱源であるイメージセンサーと背面液晶の間を風が通る設計で、ファンは振動とノイズが極めて小さいものを採用している。セットでテストしたLUMIX S PRO 24-70mmは、「CertifiedbyLEICA」のS PROレンズ。6Kで撮影した動画を見ると、周辺まで確実に解像し、フリンジもない。ズーミング中のAFトラッキングもなめらかで、フォーカスブリージングもほとんど見られなかった。
ミニマル動画(小人数撮影、機動力重視)をメインとする筆者にとっては、そもそも動画撮影重視のカメラにフルサイズセンサーは必要か?4K動画を撮影するために必要な画素数だけで考えれば6K/24.3Mはオーバースペック、APS-Cサイズのセンサーで充分なのでは?という疑問を持ちながら使い始めたのですが、撮影をしていくうちにフルサイズ、6Kの恩恵がわかってきました。
センサーのほぼ全域を使った6K(アスペクト比3:2、5952×3968)のフレームレートは23.98p。これは映画撮影を見据えているのでしょう。29.97pが欲しければ5.4K(3:2、5376×3584)という一回り小さなクロップサイズを選択可能です。5.9K(16:9、5888×3312)も選択できて、こちらも29.97pです。
上記のモードはすべて4.2.0ですが、10bitの高品質な撮影が可能です。H.265を採用していることもあり、思ったよりも小さい容量で記録できて、UHS Speed Class3のSDカードで問題なく記録できました。
実際に撮影してみると、6K動画は圧倒的に巨大です。この大きなサイズがもたらすメリットは、編集時の柔軟性です。4K動画に仕上げるとしてもトリミング、パンニング、ズーミングが可能。色ノイズの処理も画素数が多い方が精度が上がり、もちろん適切なオーバーサンプリングが可能になります。
巨大な6K動画
S1Hの6K動画。青い枠が4K、グリーンの枠がフルHD。これだけ余裕があれば4K仕上げでも編集でパンニングやズームが可能。6Kで撮影した風景の中に小さく写っている子供達をフルHDで見ると、洋服の模様、目鼻立ち、背景の草むらなどきちんと解像していることがわかる。
センサー全域を使用するS1Hでは、撮影時のモアレの発現率を下げるためローパスフィルターを採用しています。静止画の世界ではローパスフィルターを外すのが近年の傾向ですが、「失敗しない動画撮影」という考え方は、プロが使う動画カメラとして重要なことだと感じます。
SH1のダイナミックレンジ
いつものチャートで各感度のダイナミックレンジをチェックしました。モードは「フラット」。筆者の印象ではISO100~3200は10ステップオーバーで画質も全く問題なし。ISO6400でも10ステップを確保。ISO12800も9ステップで充分使えるという結果。ISO51200の画質は「少し悩ましい」という感じですが、それでも7ステップはあります。6Kでありながら、これだけのダイナミックレンジを確保することが、フルサイズセンサーにこだわった最大の理由だと感じました。
これがV-log、あるいは将来的にRAW撮影(※)となると、14ステップオーバーという途方もないダイナミックレンジを10bitで記録できるのです。
その他、長時間録画可能を実現したヒートシンクと静音ファン、1分ごとにファイルを分割する動画分割記録、チルトフリーアングル、ボディ前後に配置されたタリーランプ、リグ撮影では重宝するサブ録画ボタンなど、動画に限れば以前に検証したS1を凌駕する完成度で、撮影するほどに「各所に配置された動画を撮影するために必要な機能」に感心し、動画を編集してみれば「玄人仕様」の品質にチューニングされたデータに驚かされました。
タリーランプとチルトフリーアングル
タリーランプ(収録状況を示す表示灯)をボディの前面と背面に搭載。録画がスタートしていることを自分で確認できるだけでなく、演者にもそれを告知することができ、シーンに応じてそれぞれを個別に消灯することも可能。
ボディ前面のタリーランプ。
背面の液晶は新開発のチルトフリーアングル機構。フリーアングルにチルトを組み合わせることで、接続したHDMIケーブルなどに干渉せず液晶を回転可能。
HDMIケーブルなどと干渉せずに動かせる背面液晶。
これまで筆者は「一眼動画にとって解像度やダイナミックレンジは必要最低限の能力があればいい」という判定をしてきたのですが、S1Hは全てにおいて一段高いレベルの解像度やダイナミックレンジを実現してきたのです。
実売50万円を切る一眼デジタルカメラですが、ARRIやREDなどの映像制作向けのカメラと「対等に渡り合う」ことを目指して開発されたのではないかと思うくらい、S1Hは「動画撮影を本気で考えた一眼カメラだ」と言えそうです。
人肌モード、GH5S vs S1H
夕日のタイムラプス
高感度、高ダイナミックレンジのおかげで幅広い輝度比の撮影もいい感じでこなせる。撮影が「無理そうな環境」でも綺麗に仕上がられるカメラを選択するのもカメラマンの腕!
※この記事はコマーシャル・フォト2020年1月号から転載しています。
この1冊で「ジンバルのすべて」が奥の奥までわかる一眼&ジンバル スピードマスター
ビデオSALON編集部 編集
2,000円+税
あのクリエイターが使っているレンズと作例を大公開ムービーのためのレンズ選びGUIDE BOOK
ビデオSALON編集部 編集
2,200円+税
ドローン空撮に関する各種情報を完全網羅! ドローン空撮GUIDEBOOK 改訂版2019年
2,000円+税(電子書籍版1,900円+税)
鹿野宏 Hiroshi Shikano
デジタルカメラの黎明期からほとんどの一眼レフタイプのデジタルカメラを遍歴。電塾塾長としてデジタルフォトに関する数多くのセミナーを開催。カラーマネージメントセミナーも多い。写真撮影では2億画素の巨大な画像を扱い、2009年から動画撮影をスタート。WEB上の動画、デジタルサイネージ、社内教育用などの「ミニマル動画」を中心に活動している。
- クイックモーション設定で一味違う魅力的な映像を
- フジX-S10とXF50mmF1.0 R WRでポートレイト撮影
- 新時代到来を告げるM1チップ搭載MacBookの性能はいかに?
- 高速化を極めた結果、動画撮影機能が大幅アップ|ソニーα7S III
- 気軽に使えて高性能、エントリー機といって侮れないLumix G100
- MacBook Air 2018を仕事で使えるマシンにする
- ローリングシャッター歪みを計測する
- 光の色再現を評価する新基準TM-30-18を知っていますか?
- 使ってみたら絶対欲しくなるスペシャルなレンズたち
- 動画でも静止画でも「もう手放せない」Kaniフィルター
- 一眼ムービーもRAWで撮影できる時代が到来
- どう使いこなすか!? 注目のSIGMA fp
- 噂の新世代入力デバイス、Orbital2を使ってみた
- 動画撮影を本気で考えた一眼カメラ LUMIX S1H
- 高解像度静止画も動画も、という人にはお薦め、ソニーα7R IV
- 長時間勝負のタイムラプス撮影で愛用する機材
- 通話だけではもったいない。ソニー Xperia 1の凄い性能
- 4KハンディカムSONY FDR-AX700を今更ながら使ってみた
- ワンオペ撮影の強い味方となるか!? Roland V-02HD
- パナソニックのフルサイズミラーレスLUMIX S1/S1R
- ニコン Z 6で銀河のタイムラプスに挑戦
- 形はミラーレス一眼、中身はシネマカメラ、BMPCC4K(Blackmagic Pocket Cinema Camera 4K)
- フルサイズミラーレス、キヤノンEOS Rの動画性能は如何に!?
- ニコン Z 7の大口径は動画性能アップにも繋がる
- 大きく進化した動画性能、FUJIFILM X-T3
- 動画編集作業を高速に行なうための特効薬
- ジンバル初心者にも気軽に使えて高機能、DJI Ronin-S
- 動画編集用コンピュータが欲しい!
- 動画撮影でF1.2大口径単焦点という選択、オリンパスM.ZUIKO PRO
- GH5Sの「Dual Native ISO」はやはりすごい
- 動画撮影でも富士フイルムの「色」への思想を感じさせるX-H1
- スチルもムービーも高性能なα7R IIIを導入しました
- HDR映像を撮影可能にするハイブリッドログガンマとは
- ニコンD850でタイムラプスムービーを極める
- 動画機能も確実に進化させてきたニコンD850
- フォトグラファーのための簡単絵コンテソフト「StoryBoard Creator」
- ますます実用的になってきた動画AF撮影/Panasonic LUMIX GH5③
- Lumix GH5の動画撮影機能をさらに検証する/Panasonic LUMIX GH5②
- スチルフォトグラファーのためのデジタル一眼レフ動画撮影ガイド/Panasonic LUMIX GH5①
- 特別編:動画撮影ならこの機能に注目 4Kムービー時代のカメラ選びのポイント
- 第46回 伝統の色と階調再現。それだけで欲しくなる!? 富士フイルムX-T2
- 第45回 iPad Airをカメラコントローラーにする「DIGITAL DIRECTOR」
- 第44回 「ただ者ではない」カメラ、ソニーα7RII
- 第43回 フォクトレンダーF0.95 NOKTONが動画撮影でも評判な理由
- 第42回 快適な4K編集のために「G-SPEED STUDIO」導入を検討する
- 第41回 高性能タブレット「VAIO Z Canvas」を使う
- 第40回 「SHOGUN」をGH4とα7Sで使ってみた
- 第39回 4K記録ができる外部レコーダー「SHOGUN」
- 第38回 オリンパスOM-D E-M5 MarkIIの「手ぶれ補正」は、かなり使える
- 第37回 軽量な一眼カメラに最適な本格派ビデオ雲台が欲しい
- 第36回 コンデジでも4K動画が撮れる! LUMIX LX100の実力
- 第35回 ストロボもLEDも測定できる「スペクトロマスターC-700」
- 第34回 FCP Xマルチカム編集の便利さを改めて実感
- 第33回 一眼ムービーの様々な「不可能」をこれ1台で解決!「NINJA BLADE」
- 第32回 日本語化&機能強化でさらに身近になった「DaVinci Resolve 11」
- 第31回 「QBiC MS-1」と専用リグで360°パノラマ動画に挑戦
- 第30回 一眼ムービーにベストマッチのALLEXスライダー三脚システム
- 第29回 動画で様々なフィルムのトーンを簡単に再現できるソフト
- 第28回 GH4を「ミニマル動画」でいかに使いこなすか!?
- 第27回 LUMIX GH4の性能アップは期待以上だった
- 第26回 NECのPAシリーズ、マスターモニタ化計画
- 第25回 シネマカメラBMPCCのRAWデータの実力
- 第24回 「DaVinci Resolve」、ただ今勉強中
- 第23回 話題のBlackmagic Pocket Cinema Cameraを使ってみた
- 第22回 ミニマル動画のワークフロー「アフレコ編」
- 第21回 ミニマル動画のワークフロー「編集編」
- 第20回 ミニマル動画のワークフロー「撮影編」
- 第19回 ミニマル動画のワークフロー「打ち合わせ、機材選択編」
- 第18回 LUMIX GH3は、想像以上に「撮れる」カメラ
- 第17回 一眼レフの足りない部分を補完するカメラ「LUMIX FZ200」
- 第16回 フレームレートとシャッタースピードの関係
- 第15回 一眼ムービーの撮影時の画質設定は?
- 第14回 SSD搭載でMacBook Proをメインマシン化計画
- 第13回 Xicato社の屋内照明用LEDを撮影に使いたい
- 第12回 Lightroomを使ってカラコレ
- 第11回 動画のバックアップはどうしていますか?
- 第10回 ビットレートを制するものは動画出力を制する!
- 第9回 画像の書き出し設定は目的によって使い分ける
- 第8回 ニコンD4を動画撮影で使ってみた
- 第7回 アンブレラを使った動画撮影の「Light Modify」を考える
- 第6回 動画撮影に適した光源とライティングを考える
- 第5回 デジタルカメラのためのオーディオインターフェイス「DC-R302」
- 第4回 未知の世界...音声、音楽、効果音
- 第3回 ムービー撮影ならではの単焦点レンズにこだわる
- 第2回 ゼロから覚えるのなら、「Final Cut Pro X」だ!
- 第1回 難しく考えず、スチル撮影の延長からスタート