2021年02月05日
ソニーα7S IIIをテストする
7Sシリーズの最新機α7S III。高感度性能、AF性能にさらに磨きを掛け、小型軽量のボディに驚くほどのスペックが詰まったカメラ。
2020年10月に発売されたソニーα7S IIIをテストすることができました。実写してみての印象は、高速読み出し、高速転送、新型高速ASIC、高速書き出しにより、多くの能力がパワーアップしているように感じました。
新型裏面照射型CMOSイメージセンサーの有効画素数は約1210万画素。これは7S IIと変わりません。しかし画素数を増やさない選択をしたおかげで、バッファメモリーの高容量化も可能になり、熱も少なく、処理量も抑えられ、「これまでは処理スピードの関係で実現できなかったこと」の多くを可能にしています。
高速読み出しによるローリングシャッターの軽減
左:α7S III 右:α7R IV
自作「ローリングシャッター測定器」での検証。プレード(5本の羽)の回転速度は毎分900回転。ブレード先端の速度は時速約40km。高解像度タイプのα7R IVと比較するのは気がひけるが、α7SIIIの方が圧倒的に歪みが少ない。α7R IVもそれほど歪みが出るカメラだと思っていなかったのだが、この差は大きい。
高速読み出しの恩恵は、ローリングシャッター現象の低減に現れます。早速、こちらの回で記事にした測定器で計測したところ、非常に良好な結果。「ものすごく速いものはやや歪むけれども、普通の速度のものはほぼ歪まない」というレベルに到達しています。
高感度での肌色再現
左:α7S III 右:α7R IV
4K 30fps/ISO優先オート/WB カスタム/LED光源
α7RIVの最高感度はISO3200のなのでその感度に固定し、α7S IIIは最高感度409600から徐々に落としていった。結果、ISO102400で同程度の画質。つまり約2段分、感度に余裕がある。この感度でもなんとか動く人物が撮れるのだ。高品質ではないが緊急避難というほどでもない。とても暗い場所という前提があれば通用する画質と言える。ポートレイトの高感度撮影については品質の許容範囲に個人差があるが、品質は高いと感じた。
αのラインナップの中でも、7Sシリーズは特に高感度特性を重視していますが、α7S IIIはその性能をさらにアップ。α7R IVとの比較になりますが、人肌再現ではISO 102400でα7R IVのISO32000と同等レベルとみました。約2段分の感度の余裕。実用ではISO16000ぐらいまで人物ポートレイト撮影に使えそうです。
その人肌の再現(PT:ポートレイトモード)も、α7R IVと比較して、コントラストが抑えられたしっとりした雰囲気。筆者的には大変好ましい仕上がりです。
しっとりとした人肌再現
左:α7S III 右:α7R IV
4K 30fps/ISO200/1/50s/F5.6/WB カスタム/LED光源
ISO200でのα7S IIIのPTモードとα7R IVのポートレイトモードの比較。α7R IVポートレイトモードの肌色は、全体にややマゼンタが浮いてコントラストがあるのに対して、α7S IIIのPTモード(ポートレイトモード)はコントラストを抑えた仕上がり。肌色再現のチューニングを変えたと思われるが、個人的には扱いやすいトーン。
ダイナミックレンジを見る
1/3段ステップチャートで赤い矢印がハイライトから7段目、紫の矢印が13段目。
ISO100でのチャート撮影。撮影後シャドー部の状態を見るために、カーブを若干持ちあげている。シャドー側までなめらかに変化しており、ハイライトからシャドーまで13ストップのデータを確保しているのがわかる。ここで13ストップがあるということは、元々はもっと広い階調を有しているということ。テストした結果、この特性はISO 16000くらいまで変わらなかった。撮影モードはPP5(CINE1)、4K 60fps、4.2.2 10bitの記録。
ダイナミックレンジは、通常のMPEG撮影/ISO100で13ストップを確認できました。通常のMPEG撮影でこの数値ですから、今回はテストできませんでしたが、カタログスペックにある「S-Log3動画撮影で15+ストップ」という数値も納得できます。
AF追従機能
4K 30fps/ISO100/1/500s/F4/WB 太陽光
「AF時の顔/瞳優先」「AFトランジション速度:7」「AF乗り移り感度:1」で向こうから歩いてくるモデルを撮影。途中、画面を人が横切る「意地悪」なシチュエーションだが、AFは見事にモデルの顔を追い続ける。設定をするのは少し面倒だが、フォーカスマン不要の追従能力。
AFの性能もブラッシュアップされています。たとえば被写体(人物)に7メートル手前から歩いてもらい、その前後を他の人物が横切る設定。「AF乗り移り感度」を低くしておけば、AFは迷うことなくその人物を追い続けます。これまでも色々なカメラで同シチュエーションのテストをしましたが、ここまで見事にクリアしたのはこのカメラが初めて。
その他、4:2:2 10bitの4K 120p記録、30分以上の連続動画記録(放熱性能が良く4Kでも1時間以上可能とか) 、筆者としてはローリングシャッターとダイナミックレンジのテスト結果を見た瞬間に「是非導入しなくては」と感じた、まさに「動画性能特化の一眼カメラ」でした。
ただ一つ不満だったのは、新機能として追加された「フレキシブル露出設定モード」。動画に特化したオート/マニュアルの切換設定ですが、慣れるまで時間がかかりそう。これなら「空いている軍幹部にダイヤルをつけてくれた方が嬉しい」と思うのは筆者だけでしょうか?
タイムラプス
F2.8 2s露光 SO10000 RAW撮影
最後は筆者の趣味、星系撮影。FE 12-24mm F2.8 GMで開放撮影。通常ISO6400以上の高感度は画質が「致命的に」損なわれるので行わないが、今回はISO10000で2秒露光で撮影。やや露光不足の感はあるが、充分に撮影できたと思う。実際にはその後のテストのISO25600もでもいけそうだった。
F2 4s露光 ISO8000 RAW撮影
こちらは自前のレンズLAOWA 15mm F2 ZERO-D ソニーEマウントで撮影。本来はF1.4が欲しいのだが、手持ちがないためF2のレンズを選択。現実には6秒から10秒間隔で撮影することが多いので、ISO感度8000-12800でコシの強いデータを得られるのは重要なことだ。
※この記事はコマーシャル・フォト2021年1月号から転載しています。
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鹿野宏 Hiroshi Shikano
デジタルカメラの黎明期からほとんどの一眼レフタイプのデジタルカメラを遍歴。電塾塾長としてデジタルフォトに関する数多くのセミナーを開催。カラーマネージメントセミナーも多い。写真撮影では2億画素の巨大な画像を扱い、2009年から動画撮影をスタート。WEB上の動画、デジタルサイネージ、社内教育用などの「ミニマル動画」を中心に活動している。
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