2019年12月25日
α7R IVとECM-B1M
ソニー α7R IVを導入しました。ただしその動機は動画ではなく、静止画で16ショットのピクセルシフトマルチ撮影による2億4080万画素が必要だったから。これまで8ショットのピクセルシフトはありましたが、16ショットは得られるデータ量が半端ありません。
一方、動画に関しては4K 60pが実現されていないし、4.2.2.10bit記録も、長時間記録もできないので、本コーナーで紹介する必要はないかなと思っていました。しかし使ってみると「α7R IIIに比較して画素数が増えているのに、逆に拡大したダイナミックレンジと変わらぬ高感度性能」、「α9に迫るオートフォーカス性能」、さらに同時発売のショットガンマイク「ECM-B1M」との組み合せによる高音質動画収録などなど、動画撮影にもアドバンテージがあると感じ、急遽取り上げることにしました。
α7R IV+ECM-B1M
α7R IVに、別売のショットガンマイクECM-B1Mを装着した状態。
9月に発売された裏面照射型CMOSセンサー搭載、有効画素6100万のフルサイズミラーレスα7R IV。16ショットのピクセルシフトマルチ撮影では約2億4080万画素(19008×12672)の画像を出力する。動画機能としては4K撮影で最大30p、フルHDでは最大120pの撮影が可能。
ショットガンマイクECM-B1Mが優れモノで、8個のマイクユニットとデジタルシグナルプロセッサー(DSP)を内蔵。1本のマイクで鋭指向性/単一指向性/全指向性と切り替え可能。さらにマイク内部にノイズカットフィルター、ローカットフィルターを持ち、α7R IVとはデジタル接続、カメラ側からの電源供給もされる。
α7R IIIとα7R IVのダイナミックレンジ比較
まずはいつものダイナミックレンジの検証。前述の通り、α7R IIIと比較して約1860万画素も増え、本来ならダイナミックレンジは落ちても仕方のないところなのに、逆に良くなっているのには驚きました。
チューニングに余力がある低感度域は仕上がり感をブラッシュアップ。高感度域では薄暗い場所で必須のISO6400近辺を重要視し、ノイズのない良質のデータを提供しようとしているように見受けられます。Log撮影時には14ステップのダイナミックレンジを持ち、今回測定した「PP5」プロファイルでも10ステップオーバーの好結果を出しています。
紫のカーブがα7R III、黄色のカーブがα7R IV。矢印は左から順に7絞り、8絞り、9絞り、10絞りの位置を指す。α7R IVの特徴としては、ISO1600までは中間調からハイライトにかけて持ち上げながら、ハイライト側を強く粘らせている。ISO6400以上は逆にかなりおとなしい設定になり、α7RIIIに比較して全体にやや沈み気味の設定。またノイズフロアを見ると、ISO6400以上でも驚くほど低く抑えられていることがわかる(画面下の緑のラインがα7R IVのノイズフロア、白のラインがα7R IIIのノイズフロア)。
動画でも使える[顔/瞳AF]
これまで写真撮影時には見事に動作するのに、動画ではあまり使えなかった[顔/瞳AF]が、リアルタイムで動画に対応し、さらに[タッチトラッキング」を組み合わせて運用することが可能になりました。このおかげでモデルが動き回るシーンでもAF対応可能です。
AFの動作に関しては、シーンや撮影に合わせて細かい設定が可能です。筆者の場合、被写体が人物なら[顔/瞳AF]をONにして、背面モニターで[タッチトラッキング]を併用できるように設定しました。[タッチトラッキング]の解除は、コントロールホイールの中央を押すことで可能。解除後は[顔/瞳AF]に戻るので、被写体の顔がカメラを向いていれば、シャッター半押しで問題なく人物にフォーカスするという離れ業ができるのです(そのために動画撮影ではシャッターボタンを使用しない設定に変更しました)。
本シーンは人物メインの撮影だったので、[顔/瞳AF]のみで撮影。フォーカスエリアは[ワイド]、AF駆動速度は標準。ほとんどデフォルトの設定だったが、結果的に使えないカットは10%ほどだったことに驚いた。APS-CモードでFHD。レンズは動画用にいつも使用しているE PZ 18-105mm F4 G OSS F4。この機種に限らず、カメラに多くの機能が搭載されるようになり、設定がとても複雑になったのも事実です。筆者の場合も、自分が納得できる上記の設定にするまで2日間、頭を悩ませました。ただし一旦、カスタマイズができれば強力な武器になります。
ECM-B1M
強力な武器といえばショットガンマイクロホン「ECM-B1M」。1台で全指向性、単一指向性、鋭指向性の切り替えが可能。ソニーの最新ミラーレスα7R IVとα9 IIでは、音声をデジタル信号のままダイレクトにカメラに伝送可能です(それ以外の機種でもアナログ接続可能)。
しかもマイク内部にノイズカットフィルターが搭載され、撮影環境に存在するエアコンや冷蔵庫、車の走る音などのノイズをキャンセルした状態でカメラに音声を記録してくれます。ノイズカットをしても音質の変化が少なく「ノイズと判断した音を選択的にミュート」しているように思えます。カメラに搭載するマイクで、ここまでクリアな音を作り上げた技術に脱帽です。
ECM-B1Mの指向性とノイズカットフィルターの検証
朗読をする人物に対しカメラ(マイク)を水平回転させて、ECM-B1Mの指向性の検証(音声のみ。できればヘッドホンで聴いてみて下さい)。また動画後半はノイズフィルターの検証。声を発している部分がピークとなって現れるが、その間の部分に見られる赤から青紫の範囲がノイズ。ノイズカットフィルターをオンにすると低音域のノイズが減り、中高音の歪みが少なくなる。いいスピーカーで聴いているとまるで本人が話しているように感じた。インタビュー撮影などはいかにノイズのない録音をするか、あるいは後処理をするかで動画の品質の50%は決まると言ってもいい。
以上、高画素美術品複写などの使用を前提に導入したカメラですが、α7R IIIに比較して0.5段アップした5.5段階のボディ内手ぶれ補正なども含め、少人数による動画撮影の可能性を大きく前進させてくれる機能を搭載してきたカメラだと言えます。動画のプロ向けというよりも、写真家が動画を撮るなら「こんな機能が欲しいよね」とα7R IVが囁いてくれたような気がしました。
おまけのタイムラプス「千枚田の夜明け」写真撮影時は完全に14ストップの広いダイナミックレンジと膨大なデータ量を持つため、やる気になれば8Kをはるかに超えるタイムラプス動画を製作することも可能(この動画は4K)。AE追従感度のコントロールも可能なので、現時点で最強のタイムラプス撮影カメラと言っていいかもしれない。
※この記事はコマーシャル・フォト2019年12月号から転載しています。
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鹿野宏 Hiroshi Shikano
デジタルカメラの黎明期からほとんどの一眼レフタイプのデジタルカメラを遍歴。電塾塾長としてデジタルフォトに関する数多くのセミナーを開催。カラーマネージメントセミナーも多い。写真撮影では2億画素の巨大な画像を扱い、2009年から動画撮影をスタート。WEB上の動画、デジタルサイネージ、社内教育用などの「ミニマル動画」を中心に活動している。
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