2021年04月12日
動きのあるシーンを高フレームレートで撮影し、それを通常のフレームレートで再生する「スローモーション」(ハイスピード撮影)。それに対して低いフレームレートで撮影をして、通常のフレームレートで再生することで、時間を縮めて表現する「クイックモーション」という機能を搭載したカメラが存在します。
クイックモーションで夜景撮影
SONY α7R IVの「クイックモーション」で東京タワーの展望台から高速道路を撮影してみた。左の写真は撮影の様子。設定は撮影フレームレートが2fps、シャッター速度は1/4秒。絞りはf2.8。夜なのに低速シャッターのおかげで感度はISO320。そのため高感度ノイズがほぼ皆無の高品質な画像を撮影できた。猛スピードで走るクルマが光のラインとなる。このように動体をブラして撮る写真的表現を可能なところが、クイックモーションの醍醐味。
SONY α7R IV レンズ:FE 90mm F2.8 Macro G OSS 絞り:f2.8 感度:ISO320 Cine1モード
筆者が検証したところ、パナソニックは「バリアブルフレームレート」、ソニーは「スロー&クイック設定」で設定可能で、両社ともにスローモーションとセットになっています。富士フイルムは「All-Intra形式時にのみ設定可能」で、やや扱いが異なります。
あまり使われないこの機能、よく考えてみると実は筆者の大好物「タイムラプス」と仕組みは一緒です。記録時から動画として仕上がっているか、1枚ずつの写真として記録してから動画に仕上げるのかの違いですが、秒間2フレームから実再生フレームレート(多くは 秒間30フレーム)までを、クイックモーション動画と定義しているメーカーが多いようです。
タイムラプスは写真と動画の中間に位置する表現と理解していますが、クイックモーションはそのタイムラプスと動画の間に位置する撮影と考えていいでしょう。
α7R IVとLUMIX GH4のクイックモーション設定
α7R IV 設定画面
LUMIX GH4 設定画面
α7R IVでは「スロー&クイック」で設定する。再生時フレームレート30p(画面の「記録設定」)に対し、撮影時のフレームレートを2fpsにすれば、15倍のクイックモーションとなる。フレームレートを1秒(1fps)まで選択できるので盛大にブラすことも可能。LUMIX GH4では「クリエイティブ動画モード」にダイアルを合わせて、「バリアブルフレームレート」設定でフレームレートを選択。再生時フレームレート(画面の「記録フレームレート」)よりも、撮影時フレームレートが速ければ「スローモーション」、遅ければ「クイックモーション」となる。2〜96fpsまで選択できる。全てのカメラを確認したわけではないが、上記以外の機種でもソニーではαシリーズ、パナソニックではGH、Sシリーズ、富士フイルムでもX-T3、X-T4などが、クイックモーション撮影可能だ。
動画の場合、撮影時のフレームレートは24fps、あるいは30fpsが基準ですが、クイックモーションであれば、さらに低い撮影フレームレートを採用することが可能です。再生フレームレートを30fpsとして考えると、撮影フレームレート1fpsならば30倍、2fpsは15倍、15fpsでは2倍の高速再生になります。
動画撮影時のシャッタースピードの基本的な考え方は、フレームレートと同じか、それよりも速いシャッター速度に設定するというものです。例えば30fps(1/30秒に1フレーム)であれば、シャッター速度は1/30秒、1/60秒という設定にします。
その点、「クイックモーション」では遅いフレームレートで撮影可能なため、シャッター速度も遅くできます。たとえば4fpsなら1/4秒のシャッター速度での撮影が可能。つまり低速シャッターによって、動画では通常不可能な長時間露光を行なうことができ、暗い場所でも低感度、高画質での撮影が可能になります。
行き交う人の動きをブラした動画
Panasonic LUMIX GH4 レンズ:LUMIX G 20mm / F1.7 II ASPH. 絞り:f6.3 感度:ISO200 シネライクD プリセットホワイトバランス
カメラはパナソニックLUMIX GH4。バリアブルフレームレートで撮影フレームレートを2fps、シャッター速度を1/2秒に設定。1フレームを1/2秒の露光で撮影しているため、歩いている人は皆ブレて写る。通常では明るすぎて飛んでしまうため、ND400のフィルターをかけて8.3絞りほど減光している。右の写真では、ほぼ同じスピードで歩いている人だが、カメラとの距離が近くなることで相対速度が上がり、よりブレて写っている。この手の動画の面白さは近距離が大きくブレて、遠景がそれほどブレないことで、奇妙な遠近感を演出できることだ。
また動きのある被写体では、遅いシャッター速度によって、ブレた画像のイメージを動画のコマとして定着できるといったメリットも享受できます。
単に早送りした動画ならば、普通に撮影して編集時に早送りにする方法もありますが、クイックモーションによる低感度撮影の上質な表現と、ブレた動きを定着できるという仕掛けは別格で、編集時にできるものではありません。夜景などの撮影、ブレを活かしたイメージ映像などで使うと効果的かもしれません。
余談ですが「クイックモーション可能なカメラ」は、その機構上、撮影のフレームレートよりも遅いシャッター速度を設定できます。たとえば撮影フレームレート30fps、シャッター速度1/15秒に設定した場合、30コマの中に同じコマが2個並びます。
まとめ動画
記事で解説したLUMIX GH4とα7R IVのクイックモーション撮影の設定と実写まとめ(筆者解説音声付き)。
10年間、お付き合い頂き、ありがとうございました
一眼レフカメラが動画機能を持ち、写真家も動画を撮影する時代が見えてきた10年前にスタートした連載ですが、今やどのカメラも高い動画性能を実現し、動画を撮影するフォトグラファーも増えました。本連載も100回を迎え、一旦ここで終了とさせて頂きます。これまでお付き合い頂いた読者の皆様、またメーカーの皆様、ありがとうございました。新機種、新機能に関しては、今後も筆者が運営する「電塾」で引き続きご紹介していきたいと思います。1月を除く毎月第一土曜日に、現在はZoomで開催していますので、興味のある方はぜひお立ち寄りください。
※この記事はコマーシャル・フォト2021年4月号から転載しています。
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鹿野宏 Hiroshi Shikano
デジタルカメラの黎明期からほとんどの一眼レフタイプのデジタルカメラを遍歴。電塾塾長としてデジタルフォトに関する数多くのセミナーを開催。カラーマネージメントセミナーも多い。写真撮影では2億画素の巨大な画像を扱い、2009年から動画撮影をスタート。WEB上の動画、デジタルサイネージ、社内教育用などの「ミニマル動画」を中心に活動している。
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