一眼ムービーなんて怖くない!

4KハンディカムSONY FDR-AX700を今更ながら使ってみた

解説:鹿野宏

4Kが撮れるハンディカム

デジタル一眼レフカメラで動画を撮影していながら、ずっと考えていました。「動画はビデオカメラを使った方が正解なのではないか?」と。

この思いは、スチルカメラがミラーレス一眼になった時に一旦払拭されました。ミラーがなくなり、基本構造がビデオカメラとほぼ同じになったこと、私が使っているパナソニックのミラーレス一眼はビデオカメラのように長時間記録が可能なこと、三脚に設置して撮影することが多いなどがその理由です。またマイクロフォーサーズサイズ以上の撮像素子を持つ多くのミラーレス機は高感度に強く、今更センサーサイズが小さいビデオカメラを使う気にならなかったのです。

ただ一眼カメラで動画を撮影している内に、こんな要求が出てきました。「ボケの演出だけではなく、できるだけパンフォーカスを維持したい」「手持ちで安定した動画を撮影したい」「セッティングに時間をかけずにシンプルな撮影をしたい」…。そのような場合はビデオカメラで撮った方が良さそうな感じです。ものは試しとソニーからハンディカムをお借りしてみました。

ある程度の暗い場所でも使える品質の映像を撮影できることと、パンフォーカスの両立を目指したいので、選んだのは1インチのセンサーを持つハンディカム最上位機種FDR-AX700です。

SONY FDR-AX700
img_products_dslr_nofear69_01.jpg1.0型積層型Exmor RS CMOSセンサー搭載。4K/30fps、フルHDでは120fpsの撮影が可能。搭載レンズは焦点距離9.3-111.6mm(35ミリ換算で29.0-348.0mm)の光学12倍ズーム。

実際にカメラを構えて感じたのは「ああ、この撮影スタイルは本当に安定するんだな」ということでした。内蔵の手ブレ補正「スタンダード」で、光学12倍ズームの望遠側ではさすがにブレますが、中望遠あたりならそこそこ止まり、標準から最広角側ではほとんどブレません。

カメラを持つ右手の人差し指と中指が届くところに、ズームのシーソーボタン、親指の位置に録画開始/停止のボタンがあり、添える左手でISO、絞り値コントロール、AF、MFの切り替えができる。手持ち撮影に最適化されていることを改めて実感しました。

img_products_dslr_nofear69_02.jpg右手グリップの周囲には、よく使う操作ボタンが指の届く範囲に配置されていて、手持ち撮影に最適化された形(デザイン)であることを、改めて実感した。

1インチセンサーでは、焦点距離12mm付近が、35ミリカメラ換算35mm程度の使いやすい広角になります。F2.8の撮影でも、ピント位置1mの時に計算上はほぼ64cmから170cmまで被写界深度に入り、F5.6となるとほぼ46cmから無限遠まで被写界深度に入るので、ある程度のAFが効けば、手放しでフォーカスがフォローできる計算になります。実際に撮影してみると、「AFさえいらないのではないか」と感じるほど。これが小さいセンサーの最大のメリットだと感じます。

手持ち&フォーカスお任せで撮影できる手軽さ
おばさまたちの午後 in AKI-OKA。秋葉原ー御徒町間の山手線高架下ショッピングモール(AKI-OKA)にて。シャッタースピード1/50秒、絞りとISOはオートで歩きながら撮影。AFは顔認識モード。AF被写体追随設定範囲、乗り移り感度共に3、AF駆動速度4。オートフォーカスのまま通行人に遮られたりしているが、そこそこカメラが柔軟に対応してくれた。途中で何度かホワイトバランスを変更したが、結果的にはオートホワイトバランスが最も良かった。

F値は開放2.8からF11までですが、常用する焦点距離を考えると、F4からF8ぐらいと思ってよさそうです。最も品質の良いISO感度は200。シャッタースピードは1/50か1/100(関東圏内なので)で撮影することが多いと思うので、外での撮影では明るすぎます。そのため2絞り分と4絞り分のNDフィルターが内蔵され、2枚合わせると6絞り分の減光が可能。F4程度の絞り値での撮影にも楽々対応しています(これも内蔵するセンサーサイズが1インチだから可能な芸当ですね)。

ISO3200で7~8絞りのダイナミックレンジ
毎度おなじみのチャートを、ITU-709(PP3)とCINE1(PP5)という対照的なモードでテストしてみた。ISO感度は200〜12800まで変化させている。水色指標ラインが7絞り。
ISO3200でもノイズは少なく充分に使える。緑の指標ラインの8絞り。ISO3200では、撮影シーンや個人の好みで判断が分かれるところ。暗部が多い被写体ではかなりの部分を潰す必要が出るかもしれないが、撮影シーンのコントラストが低ければソコソコ使える。これだけの実力を1インチセンサーが持っていたとは驚きだ。

また、本機はαシリーズに搭載されているピクチャープロファイル(PP)と同様のセッティングが使用可能なので、SONY同士でコンビを組ませると、後処理で色調整など苦労しません。

2017年9月20日の発売と、ほぼ2年前の機種ではありますが、「パンフォーカス気味で手持ち撮影時の使い勝手のよさ」「本体だけでほぼ完結するセッティングの簡易さ」は抜群です。仕事の撮影には時間的に投入できませんでしたが、全てを一眼動画で撮影することにこだわるよりも、「撮影シーンに合わせたバランスの良い機材の組み合わせ」が重要なのだと強く実感した検証でした。このような機材を1台持つことで、撮影スタイルの自由度と作品の完成度がさらに上がるだろうと思うのです。

ハイブリッドログガンマ(HLG)でパンフォーカス撮影 撮影:前原佑介
こちらは同じく一眼動画を撮影している前原佑介氏に撮影を依頼したもの。シャッタースピード1/30、絞りを開放に固定してISOのみ手動、AFは通常のオート。小さな三脚にポールとビデオ雲台をつけて半手持ちで撮影。前原氏も「確かに一眼カメラで動画を撮影するよりも手早くて楽チン」と感じたという。ピクチャープロファイルは ITU-R BT. 2020相当の特性を持つHLGで撮影したので、暗い中でもびっくりするほどダイナミックな仕上がりの映像となった。しかも手前のインストラクターから奥のインストラクターまで気持ち良くピントがあっている。

FHD、120fpsのハイスピードで撮影 撮影:前原佑介
こちらはHLGハイスピードで撮影。シャッタースピードが早いため絞りは開放となり、立体感が強調されている。カットを切り取ると水しぶきや飛んでいるイルカがほとんど止まって見える。120fpsでは撮影時間に制限がないが、480fps などのスーパースローの場合の記録時間は約4秒となる。

おまけ 内蔵マイクの性能チェック
<比較テスト機種>
・GH5S
・TASCAM DR-70D+SENHEISER E835
・TASCAM DR-70Dの内蔵マイク
・パナソニックRR-XP820(少し古い型の小型ICレコーダー)

個人的にはこれまで使用したカメラの中で最も内蔵マイクの音声が良いと感じたのは GH5Sだったが、AX700もフロアノイズがやや入るものの、かなり肉薄した音質だった。レコーダーTASCAM DR-70Dは外部マイク使用、本体内蔵マイク使用ともノイズがほとんどない。本当はこのくらいまでの性能がカメラ単体でも欲しいところだが、それでもAX700は多くの一眼デジカメよりは非常にクリアな音声で、内蔵の割には「使える」と感じる音質だった。




※この記事はコマーシャル・フォト2019年9月号から転載しています。


鹿野宏 Hiroshi Shikano

デジタルカメラの黎明期からほとんどの一眼レフタイプのデジタルカメラを遍歴。電塾塾長としてデジタルフォトに関する数多くのセミナーを開催。カラーマネージメントセミナーも多い。写真撮影では2億画素の巨大な画像を扱い、2009年から動画撮影をスタート。WEB上の動画、デジタルサイネージ、社内教育用などの「ミニマル動画」を中心に活動している。

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