一眼ムービーなんて怖くない!

第33回 一眼ムービーの様々な「不可能」をこれ1台で解決!「NINJA BLADE」

解説:鹿野宏

ATOMOS「NINJA BLADE」(ニンジャブレード)という製品をご存じでしょうか。一言で言えばフルHD対応の「液晶ディスプレイ付きProResレコーダー」。

筆者も現物を見たのは2014年5月、秋葉原で行なわれたAfter NAB Showが最初。はじめはその名前と、カタログなどに描かれていたアメリカンコミック風の手裏剣を持った忍者のイラストに、ちょっと引いてしまったのですが…。しかしこの製品、35ミリ一眼タイプデジタルカメラで動画撮影をする際の様々な「不可能」を「可能」にしてくれる、夢のような製品だったのです。

1280×720ドットのディスプレイとProRes記録機能
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カメラのセンサからの映像信号をHDMI経由で取りこみ、1280×720ドット、5型液晶に表示。さらにその映像をProRes422で記録する。録画中は画面周囲を太い赤枠が取り囲む。波形モニタを半透明化して画面下部などに同時表示させることも可能(写真左)。

ATOMOS「NINJA BLADE」の価格は143,000円
取り扱い:ATOMOS株式会社 03-6661-2827
atomos.co.jp
facebook.com/AtomosJapan

まず、この「NINJA BLADE」の凄いところは、1280×720ドットという液晶表示。とにかく画面が見やすく、ピントの確認が容易。

これまでも「カメラの背面液晶ではピントが合って見えていたのに、パソコンで見るとぼけぼけ!」ということが何度もありました。ルーペを使って覗いてもドットが大きく見えるだけ。よく考えると当然です。長辺1920pixelのフルHD画像を長辺700〜800pixel程度で確認した場合、ピクセル3個分がぼけていてもわからないのです。動画は撮影中、拡大表示ができません。つまり通常の背面液晶の画面では、撮影中のピントの確認が不可能だったのです。でも1280×720ドットの画面サイズがあれば、動画を撮りながらピントを確認できます。

フォーカスアシストをしてくれるピーキング、露出をアシストしてくれるゼブラ表示、波形表示、RGBパレード表示、ベクトル表示などの多彩な情報表示も持っています。

視認性のいいIPSタッチスクリーン液晶は、光線の具合によってはフードを付ける必要がありますが、かなり明るい場所でもそこそこ見ることが可能です。

おまけにSpyderなどを使用してキャリブレーションまでとれてしまいます。屋外撮影、屋内撮影と環境光が変わる条件で見るモニタに、厳密なマッチングは必要ないかもしれませんが、「正しい発色をしている」ディスプレイを持ち歩けることは嬉しい限りです。実際にキャリブレーションをしてみましたが、6500ケルビンの照明光を確保したスタジオでは、コンピュータのディスプレイと同じ見え方をしていました。

以上のように外部モニタとしてもなかなかの実力を持つの「NINJA BLADE」ですが、その一番の「売り」は動画記録の機能です。カメラのHDMI端子から出力される映像を、そのままProRes422/Avid DNxHD 10ビットで記録します。

通常、デジタル一眼レフの記録機能の場合、データ容量を小さくするためにMPEG(4:2:0、8ビット)の記録で、センサの情報をぎりぎりまでそぎ落としながらリッピングしています。ぱっと見にはわかりませんが、編集をかけると情報の欠落が見えてくることが、ままあるのです。ProRes422のメリットは10ビット、4:2:2記録であるためMPEGに比較して情報欠落が少ないことです。後工程の色変換やコントラスト調整時に「ちょっとやそっとではへこたれない」腰の強さを提供してくれるのです。

各カメラメーカーもMPEGのリッピング精度を向上させているので、ProResとカメラ内部記録のMPEGの違いは、一眼レフタイプでも少し古いタイプや下位機種の方が顕著です。実際にニコンD5300、D3300に接続して試してみると、素晴らしい映像を記録できました。コンシューマ向けのエントリー機で、素材性の高い映像の記録が可能になってしまうのは驚きです。

しかもFinal Cut Pro Xで編集する場合、ProResならばそのまま読み込めます。カメラのMPEGデータを取り込み、バックグラウンドで延々とProResへの変換作業をする煩わしさから解放されるというメリットもあります。

ただしデータ量は大きくなり、カメラ内で生成するデータの6倍ほどになります。「NINJA BLADE」では、その大容量を記録するために、記録メディアとして2.5inchのHDDかSSDを使用します。HDDは安価ですが、予算に余裕があれば1TBのSSDが快適です(最安値で5万円程度)。

さらにカメラ側には映像を記録しないで、ライブビュー状態で「NINJA BLADE」に記録するため、デジタルカメラ動画撮影の宿命である「連続記録は30分、または4GBまで」という制限からも解放されます。何しろカメラ側はプレビュー状態なのですからバッテリーと「NINJA BLADE」の記録容量の続く限り撮影できてしまうのです。おまけにこの状態ではカメラ側のバッテリーも20%ほど持ちが良くなるし、熱の問題も緩和してくれます。

「NINJA BLADE」の価格は14万3,000円。使用できるカメラは、キヤノンEOS 5D MarkIII、EOS-1D C、EOS 7D MarkII、ニコンD3200以降、他、HDMI出力端子を持ち、文字情報などが入らないプレーンの状態のプレビュー映像を出力できる機種。ただしカメラ側の機能によって制限もあり、先に挙げたD5300、D3300などのニコンのコンシューマー向けタイプでは、プレビュー最長設定が30分ですので、「NINJA BLADE」での記録も30分に制限されます。対応機種詳細はこちらを参照して下さい。

http://atomos.co.jp/cameras/

外部モニタ機能が必要なければ、超小型「NINJA STAR」という選択肢も
img_products_dslr_nofear33_03.jpg 左が「NINJA BLADE」。右が「NINJA STAR」。「NINJA STAR」は液晶がないこと以外、機能的にほぼ「NINJA BLADE」と同等。メディアはCFast カード。
img_products_dslr_nofear33_04.jpg 「NINJA BLADE」をノートPCのHDMIに繋げば、サブモニタとして使える。Final Cut Pro Xのビュアー表示にするとちょうど使いやすい。

ATOMOSの製品には「NINJA BLADE」の他、SDI入出力対応の「SAMURAI BLADE」や、「NINJA BLADE」とほぼ同性能で液晶ディスプレイのない「NINJA STAR」などもあります。

「NINJA STAR」は長辺9.5cm、重量250g(バッテリー、記録メディアCFastカード込み)と、超小型、軽量。本体価格が4万1,500円とかなりリーズナブルですが、128MBのCFast カードが、現状では2万円以上するのがちょっと難点かも。CFastカードの価格が256MBで2万円を切ったら、すぐさま「買い」でしょう。

鹿野宏 Hiroshi Shikano

デジタルカメラの黎明期からほとんどの一眼レフタイプのデジタルカメラを遍歴。電塾塾長としてデジタルフォトに関する数多くのセミナーを開催。カラーマネージメントセミナーも多い。写真撮影では2億画素の巨大な画像を扱い、2009年から動画撮影をスタート。WEB上の動画、デジタルサイネージ、社内教育用などの「ミニマル動画」を中心に活動している。

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