一眼ムービーなんて怖くない!

動画撮影でF1.2大口径単焦点という選択、オリンパスM.ZUIKO PRO

解説:鹿野宏

今回、検証するのは、オリンパスM.ZUIKO PROレンズ「単焦点/F1.2シリーズ」です。なぜこの明るいレンズが気になったかというと、1ピクセルあたりの開口径が小さいマイクロフォーサーズでは、筆者の望む「ISO6400 F5.6、1/60sで綺麗な動画」を撮影することが、少々難しかったのです。マイクロフォーサーズでも日中の屋外であればなんの問題もないのですが、夕暮れや夜景、室内となった時には、ISO6400はありがたい。

17mm、25mm、45mmと揃ったF1.2大口径単焦点レンズシリーズ

M.ZUIKO DIGITAL ED 45mm F1.2 PRO (左)
M.ZUIKO DIGITAL ED 25mm F1.2 PRO (中央)
M.ZUIKO DIGITAL ED 17mm F1.2 PRO (右)
img_products_dslr_nofear58_01.jpg最近はズームレンズを使用するシーンが多く、おまけに「動画は4Kで撮影してトリミングしてフルHDで使う」ことも多いため、ついついF5.6~F8で撮影するのが筆者の標準となっていたが、動画でも使いやすいボケ味ならば、明るい単焦点レンズという選択も「あり」と感じた。
サイズ感、操作性、フィルター径(62mm)が統一されていることも、使いやすさの要因の一つになっている。マニュアルフォーカスも、オートフォーカスも動作感はすばらしい。
実は今回、25mmの作例を浜辺で撮影中、突風にあおられて三脚ごと濡れた砂浜に倒してしまうというトラブルに見舞われた。すぐに真水で砂を洗い落として乾燥させ、オリンパスのサポートでチェックをしてもらったが、問題なく完動。「防塵防滴」性能が証明される結果となった。

前回紹介したパナソニックのGH5Sはこの問題をクリアするために、画素数を捨てて高感度での画質を手に入れました。これに対してオリンパスはレンズを明るくすることで、夕闇や室内での美しい映像を得ようとしていると感じたためです。

>【前回】 GH5Sの「Dual Native ISO」はやはりすごい

これまで動画撮影において、F1.2では「あまりにボケすぎてしまい、通常の使い方はできないだろう」という見方をしていました。しかし今回検証した3本のレンズの性格をまとめると、いずれのレンズも確かにF値は明るいけれど「意外と被写界深度を確保できていて、とても使いやすい性格」を持つということが判明しました。


マイクロフォーサーズというイメージセンサーとレンズ

今回の検証は「マイクロフォーサーズというイメージセンサーに限定したお話」というのがキモとなります。たとえばマイクロフォーサーズの場合「35mmフルサイズの標準レンズ50mmの対角画角」と同等の画角を得るのは25mmレンズです。

同一距離で撮影された画像の範囲と遠近感の表現は同等となるため「マイクロフォーサーズ25mmの画角」が「フルサイズ50mm相当」と言って差し支えないのですが、被写界深度や最短撮影距離は「25mmレンズの特性」そのままであることを忘れてはいけません。

焦点距離が25mmというレンズでは被写界深度がかなり深く、フルサイズの50mmF1.2レンズほどボケないのですが、それがかえって動画の撮影では「ピントが外れにくい」という使いやすさにつながります。筆者はフルサイズの50mmF1.2レンズを開放で使用してピント合わせに苦労した経験がありますが、M.ZUIKO DIGITAL ED 25mm F1.2 PROではそれほど神経質にならずにすみました。また同レンズの最短撮影距離30cm、かなり近づけるので標準マクロ的な使い方も可能です。

M.ZUIKO DIGITAL ED 25mm F1.2 PRO

img_products_dslr_nofear58_03.jpg 35ミリ換算で50mmの標準レンズ画角。2メートルの距離、F1.2で45センチ程度の被写界深度。1メートルよりも被写体に近づくと、結構なボケ感を演出できる。
作例は、夜明け直後の海岸で撮影。ピント位置を4メートルに設定。計算上の被写界深度は約2メートルだが、画面下部から波頭が立つ画面中央まで充分にピントが合ってくれた。

M.ZUIKO DIGITAL ED 17mm F1.2 PROは35ミリ換算で34mm、いわゆる広角レンズの代表選手となります。F1.2開放時、フォーカスする被写体までの距離が2メートルで、約1メートルの被写界深度を確保してるため、かなりの範囲でピントが合ってくれるし、アウトフォーカス部分がボケすぎて形が壊れてしまうこともありませんでした。

これはまさしく17mmという短い焦点距離特有の被写界深度を持っているためです。同様に最短撮影距離も20センチ。被写体に近づけるので遠近感を強調した表現が可能です。

M.ZUIKO DIGITAL ED 17mm F1.2 PRO

img_products_dslr_nofear58_02.jpgF1.2開放時、被写体までの距離が2メートルで約1メートルの被写界深度を確保。被写体が前後しても被写界深度の中に入ってくれる。
この作例では被写体までの距離は約1.5メートル。被写界深度は0.58メートル。前ボケも後ボケもうるさくなくて、とても自然だ。

また明るいレンズと言うと、ボケた部分とフォーカスが合っている部分の差が激しいものが多く、静止画では被写体を浮き立たせる効果が強調されますが、このシリーズはやや異なる性格付けをされていて、「ボケていくグラデーションが非常に滑らかに設計」されています。ピントが合っているところと、ボケ始める部分の連続性が素晴らしく、焦点距離が短いレンズ特有の「比較的緻密に描写する」能力を持ち合わせているため、被写体が動いて少々被写界深度から外れても、いきなりボケることはなく、「動画として充分に成立する」表現をしてくれるのです。

M.ZUIKO DIGITAL ED 45mm F1.2 PRO

img_products_dslr_nofear58_04.jpgマイクロフォーサーズで45mmという焦点距離のレンズは、35ミリ換算で90mmという準望遠の画角になる。焦点距離45mmは計算上、F1.2、距離1メートルではたった3.5センチしか被写界深度がなく、まさしくシャローフォーカスの表現で、被写体がちょっと動いただけでピントが外れてしまうが、2メートル離れると14.2センチ、3メートルで32センチ、4メートルで57.1センチとなる。このM.ZUIKO DIGITAL ED 45mm F1.2 PROもほんの少し被写体から離れると、いわゆる「標準レンズの使い勝手」となるが、作例は、最短撮影距離の50センチで、高さ6センチあまりの小さな石膏像を撮影してみた。着色した石膏像周辺のボケ方も非常に滑らかで、F1.2とは思えない自然さだ。

この辺りの味付けは絶妙です。そのためあまり神経質にならずに、F1.2という大口径レンズを動画でも、もちろん4Kでも使用できるようなコンセプトで仕上げられていると感じました。開放でもしっかりした描写をして周辺光量低下、軸上色収差、球面収差、解像感落ち、パープルフリンジ、コマ収差共に非常に少なく、点が点に写り、高い解像感を維持しているので、躊躇することなく開放から使用できます。

F1.2を恒常的に使用できるということは、F2.8と比較して「2と1/3段明るい」ということ。これはISO1600に対してISO8000まで増感したのと同じ効果と言えます。F1.2、1/30s、ISO1600は現実的に暗いシーンでの動画撮影の必要十分条件をカバーし、マイクロフォーサーズ機であっても夕暮れのロケなどでも、補助光程度で撮影できるのは大きな魅力なのです。

お詫びと訂正

本記事「一眼ムービーなんて怖くない! 動画撮影でF1.2大口径単焦点という選択、オリンパスM.ZUIKO PRO」中で、レンズの画角、パース感について記事内容に誤りがございました。2019年6月21日付けで誤謬部分を修正した記事に差し替えさせて頂きました。
読者のみなさまにはご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げます。

コマーシャル・フォト編集部


この記事を書いた時点ではマイクロフォーサーズの25mレンズはフルサイズ50mmレンズに比較してパースペクティブの表現が強いと記してしまいましたが、読者のご指摘をいただき実証実験をしたところ、私の大きな間違いであったことに気づかされました。大きな勘違いを長年そのままにしてきたことをお詫びします。現在の記事はパースペクティブに関する部分を正しく加筆、修正してあります。ご指摘いただきありがとうございました。

鹿野 宏




※この記事はコマーシャル・フォト2018年7月号から転載しています。


鹿野宏 Hiroshi Shikano

デジタルカメラの黎明期からほとんどの一眼レフタイプのデジタルカメラを遍歴。電塾塾長としてデジタルフォトに関する数多くのセミナーを開催。カラーマネージメントセミナーも多い。写真撮影では2億画素の巨大な画像を扱い、2009年から動画撮影をスタート。WEB上の動画、デジタルサイネージ、社内教育用などの「ミニマル動画」を中心に活動している。

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