2016年10月28日
これまでもコシナ・フォクトレンダーレンズは愛用してきました。特にSL II NシリーズのULTRON 40mm F2、NOKTON 58mm F1.4は大好きで、今でも頻繁に使用しています。ただひとつだけ欠点が それはマイクロフォーサーズ用ではないため、現在の筆者のメイン機であるパナソニック LUMIX GH4には、変換マウントを介しての使用だったことです。
マイクロフォーサーズ用F0.95 NOKTON
10.5mm:最短撮影距離17cmで、1cm刻みに刻印がついているが、超広角で1cm刻みの刻印は珍しい。F5.6に絞ると35cmから無限遠までピントの範囲に含まれる。
17.5mm:最短撮影距離15cm。F8で約1mから無限遠までの被写界深度が得られる。
25mm:最短撮影距離17cm。ピントリングの回転角が約270°もある。
42.5mm:最短撮影距離23cm。さすがに被写界深度が非常に狭くなっている。F8で4.5mから無限遠までの被写界深度が得られる。
機材詳細:www.cosina.co.jp/seihin/voigtlander
しかしこのF0.95 NOKTONシリーズはマイクロフォーサーズ専用マウント。ずっと気になっていたのですが、いかんせん「お値段が結構する」ので何となく遠巻きに見ていました。そんな折り、編集部から「動画撮影でも評判がいいので、テストしてみますか」と話があり、すぐに「試したい!」と返事をしていまいました。
F0.95 NOKTONシリーズはマニュアルフォーカスの単焦点レンズで、10.5mm、17.5mm、25mm、42.5mmの4タイプ(35ミリ換算で21mm、35mm、50mm、85mm)。「これだけ揃えたらば、もうあとは何もいらないよね」というラインアップです。しかもF0.95という明るさ(実は筆者はそんなレンズを所有したことがありません)。
触ってみて直ぐに「動画撮影にもいい」ということがわかります。驚いたことに「絞りリングをクリックなしで無段階にコントロールできる」仕様。時間軸に沿った映像表現においては、撮影中に滑らかに絞りを変更できることは、かなり重要なポイントです。ブラックアウトやホワイトアウトといった表現も、これまではクリックが邪魔で上手くできなかったのです。クリック音もなくなります。もちろん「絞りを固定」したいときには、すぐさまクリック有効に変更できます。
もうひとつ、フォーカスのストロークは非常に滑らかでやや重め。そしてストロークも長く取られています。このフォーカスを「マニュアルで自在にコントロールできる」感覚は、通常の一眼レフ用AFレンズ(のフォーカスリング)では、なかなか味わえないものです。最近はマニュアル時に等倍表示可能なカメラが増えてきたので、フォーカスのイン、アウトにかなり使えると思います(距離目盛りも細かく刻まれているので、これがよい指標になります)。
ピント合わせをF0.95の絞り開放で行ない、F2.8まで絞ると「F2.8でもこんなに被写界深度があるんだ!」と驚かされます。映像表現には直接関係ありませんが、その重さと手触りから伝わってくる満足感、信頼性とも言える感覚を、久々に堪能しました。
実際にそれぞれのレンズをスチル撮影、動画撮影に使ってみて「マイクロフォーサーズであるからこそF0.95」という理由に気がつき、ハタと膝を打ちました。
F2.8からさらに丸々3段分の明るさを稼ぐことによって、センサーの小さいマイクロフォーサーズでも、35ミリフルサイズが持つぼけ感、被写界深度と同等、あるいはそれ以上の使い勝手を得ることが可能になったと言えるのです。ここまでF値が小さいと、10.5mmの広角でも背景との距離いかんで、いくらでもぼかすことが可能です。
さらにこのレンズの明るさは、ロケの時に持っていく照明機材の減量にもなります。
また絵作りの特徴として、4本のレンズ全てに言えることですが、エッジがカリカリにならない 柔らかさとグラデーションの繋がりを重視した設計のようです。
マニュアルフォーカスであること、単焦点であること、開放F値が非常に明るいこと、重厚な作りなどの特徴は、そのままメリットにもデメリットにもなるようです。
さまざまな撮影で気軽に使えるレンズという訳ではありません。短焦点レンズの価格とすれば確かに高価にも感じます。特に動画撮影でこのレンズ群を使いこなすには、浅いピントでのフォーカスワークなどにかなりの修練と、こういう絵が撮りたいという気合いが必要ですが、このレンズでしか撮れない映像が撮れるはずです。
それぞれのレンズを撮り比べてみた *カッコ内は35ミリ換算画角
深夜の交差点。絞り開放でISO250程度で撮影しているが、よほど近くにピントを合わせない限り何とかなる。これだけレンズが明るいと、超高感度でなくても深夜のシーンを撮影できてしまうのだ。1/30秒 F0.95 ISO250 動画で35mm近辺は屋外でも室内でも状況描写によく使用する画角。作例はF1.4。広角系のレンズだがここまで背景をぼかすことができる。F5.6まで絞るとほとんどパンフォーカスにすることも可能な万能レンズ。1/125秒 F1.4 ISO200 35ミリ換算で50mm、いわゆる標準レンズ。マイクロフォーサーズでは標準レンズの画角でぼかすことが結構難しいが、このレンズなら問題なくぼかすことが可能。開放では質感描写が難しいくらいピント範囲がせまい。作例は猫の毛の質感を描写するために、開放から一段絞って撮影。1/30秒 F1.4 ISO800 動画撮影時、この画角は人物のアップでよく使用する。今回は紫陽花のアップを撮影してみたが、F0.95の絞り開放では、本当に一点にしかピントが合っていない。さらに描写が非常に柔らかいので、開放で使用するにはかなりの技量が必要か? F2.8以上に絞るとシャープな仕上がりに変化する。1/250秒 F0.95 ISO200※この記事はコマーシャル・フォト2015年9月号から転載しています。
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鹿野宏 Hiroshi Shikano
デジタルカメラの黎明期からほとんどの一眼レフタイプのデジタルカメラを遍歴。電塾塾長としてデジタルフォトに関する数多くのセミナーを開催。カラーマネージメントセミナーも多い。写真撮影では2億画素の巨大な画像を扱い、2009年から動画撮影をスタート。WEB上の動画、デジタルサイネージ、社内教育用などの「ミニマル動画」を中心に活動している。
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