一眼ムービーなんて怖くない!

第15回 一眼ムービーの撮影時の画質設定は?

解説:鹿野宏

デジタル一眼レフカメラを使用して動画を撮影する時、気になることがあります。それは「どの程度のシャープネスが適正なのか、色調はどのような設定で撮ればベストなのか…」。静止画なら、多くのフォトグラファーはおよその見当がつきますし、後工程の画像処理も理解しているのですが、これが動画となるとあやふやで、きちんと解説したものがなかなか見当たりません。ただ、動画の場合も絵作りは、スチルのJPEG撮影と同じで「可能な限り撮影時に完了させておくこと」が望ましいのです。

デジタル一眼レフでは、動画の画質設定もスチルと同じプロファイルを使います(ニコンは「ピクチャーコントロール」、キヤノンは「ピクチャースタイル」とメーカーによって名称が異なるので、ここでは「カメラプロファイル」という言葉で統一します)。

スチル撮影用カメラプロファイルとは別に「動画:人物用カメラプロファイル」「動画:風景用カメラプロファイル」などを、メーカーが用意してくれればありがたいのですが、残念なことに今のところそのような動きはありません。

そこで私なりに感じた動画撮影時の設定について書き留めておきたいと思います。

スチルでは「眠い」の設定でも、動画ではちょうどいい
彩度/コントラスト/シャープネス:高い
img_products_dslr_nofear15_03.jpg
彩度/コントラスト/シャープネス:低い
img_products_dslr_nofear15_04.jpg
印刷では左の方が綺麗に見えるが、これを動画で見るとシャープネスが強すぎて、高周波成分と低周波成分が強調されたオーディオ用語で言うところの「ドンシャリ」的な動画になってしまい、気持ちのよいものではない。右は、静止画では眠く、彩度もかなり低く見えているはずだが、これが透過光で再現されて、しかも動きを持つ動画ではこちらが正解。

動画の場合、撮影する画面サイズのほとんどは1080p、あるいは720pです。であれば自ずとシャープネスの量は決まってきます。また50/60fpsという高フレームレートの場合は、それほど気にする必要がありませんが、24/25/30fpsという低フレームレートの時は、可能な限り「遅い」シャッタースピードにすることが望ましいのは誰もがご存じでしょう(もちろん設定したフレームレートよりも遅いシャッタースピードは選択できません)。

動体が「ブレた」写真を連続して表示することで「動きを滑らかに見せる」ためです。つまり「きちんと静止した画像」は、動画にとってはある意味「有害」なのです。さらに強いシャープネスが効いていたら「しゃりしゃり」の動画になってしまいます。

画像解像度自体が長辺で1920pixel、あるいは1280pixelなので、通常の「静止画」に必要なシャープネスよりも遙かに弱いシャープネスで充分のようです。

彩度も、ほとんどのカメラに用意されたデフォルトのスタンダード設定では高すぎる傾向にあるようです。写真として印刷用途、プリント用途には最適なのでしょうが、動画で高彩度部分が飽和すると、これまたどぎつくて辛い見え方になってしまいます。特に「人肌」は彩度が高いと、かなりきつい見え方になってしまいます。

動画の場合も写真と同様に、「シャープネス」「彩度」「コントラスト」は後から追加できますが、これを弱めることは難しく、劣化を招き処理時間が大幅に増えてしまいます。

カメラプロファイルをアレンジして、動画に合った設定で撮影
ニコンD4
「ピクチャーコントロール」画面

img_products_dslr_nofear15_01.jpg
キヤノンEOS 6D
「ピクチャースタイル」画面

img_products_dslr_nofear15_02.jpg
動画の場合、人物を撮ることが結構多いので、ニコンの場合、「ポートレート」モードをよく使う。基本は輪郭強調を「0」に落とすこと。「ポートレート」モードでコントラスト、彩度を落とすのはいきなり「べたっとした再現」になってしまうので、避けた方が良さそう。ニコンには「明るさ」という項目で「+側を明るくするけれどハイライトは飽和しない」「−側を暗くするけれどシャドウはつぶさない」という、ガンマ調整に似た調整もできるので、好みで使い分ける。キヤノンは、「スタンダード」モードをベースに、シャープネスを「0」、彩度とコントラストを1段落としたものを万能に使用している。コントラストを落としすぎると「絵の力」がいきなりなくなるので、要注意。

次の問題は「どのような色彩の傾向にするか」です。筆者はニコンの場合、人物がメインであればほとんどの場合「ポートレート」モードを使用しています。肌色のトーンを繋ぎ、ハイライトも飽和しにくいという仕上がりの方向性が気に入っています。ただしシャープネス(輪郭強調)は、0から9段階の内、最低の「0」まで落としています(通常のスチル撮影では絶対にしないことです)。プリントには不向きですが、動画の場合に限って言えば、かなり使える設定だと思います。

商品や風景がらみの場合は「ニュートラル」モードを使い、シャープネスは2段落として「0」に。そのままではかなり地味な仕上がりになるため、彩度は逆に1段上げています。コントラストは光源によってコントロールします。太陽光の直射に近いような場合は、2段落とす場合もありますし、ライティングをコントロールできる場合は、そのまま使用することもあります。

キヤノンの場合、以前は「ニュートラル」を選択することが多かったのですが、最近は「スタンダード」がオールマイティだと感じています。もちろんシャープネスを最低まで落とし、彩度も1段落として使用しています。光源が硬い場合はコントラストも1段落とします。あくまでも「筆者の場合」ですが、多くのシーンで使用しやすく、バランスの良い設定だと思います。

このようにカメラデフォルトのカメラプロファイルを調整して、自分の求める仕上がりに最適なシャープネスと彩度、コントラストをテストしてみることをお薦めします。その結果はカスタムプリセットとして登録しておきます。

なお、どのモードでも言えることですが「色合い(色相)」はいじってはいけません。これはゼロのままにしておき、どうしても必要であれば、ホワイトバランスで調整するのが良いでしょう。

ただ、筆者もこれで満足しているわけではありません。あくまで「今、可能な範囲で暫定的に」使っているだけです。個人的に期待するのは、シャープネスとコントラストを細かくコントロールできること(特に低コントラスト、低シャープネスの微調整)。

赤方向に再現域を伸ばし、可能であればブルーの彩度を上げすぎない、ハイライトがちょっと寝たカーブを持つ「派手ではない人物」および「自然な風景中心」の動画用カメラプロファイル。さらに色彩設計が商品撮影に向いている「見た目に近い」色再現の動画用カメラプロファイルが用意された時に、一眼レフで撮影する動画の品質が、さらに上がるのではないだろうか…そう思っています。

ここまでのお話しで、シャープ感を極力抑えることを薦めていますが、ピントが合っていなくても良いというわけではありません。もちろんピントは「動画としての許容範囲で充分に合っている」ことが望ましいのです。ただ、「カリカリ」のレンズで撮影すると「動き」や「滑らかさ」の点でどうもしっくりこないのです。

この問題に直面したときに、筆者は初めて「隅々まで解像感があるレンズも良いけれど、描写が柔らかいレンズの良さ」を理解した気がしました。動画の場合、解像感よりも「柔らかい描写かつコントラスト感」のコントロールが重要なようで、これはカメラプロファイルだけでは、カバーできない問題ですね。

鹿野宏 Hiroshi Shikano

デジタルカメラの黎明期からほとんどの一眼レフタイプのデジタルカメラを遍歴。電塾塾長としてデジタルフォトに関する数多くのセミナーを開催。カラーマネージメントセミナーも多い。写真撮影では2億画素の巨大な画像を扱い、2009年から動画撮影をスタート。WEB上の動画、デジタルサイネージ、社内教育用などの「ミニマル動画」を中心に活動している。

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