2014年01月27日
デジタル一眼レフカメラを使用して動画を撮影する時、気になることがあります。それは「どの程度のシャープネスが適正なのか、色調はどのような設定で撮ればベストなのか 」。静止画なら、多くのフォトグラファーはおよその見当がつきますし、後工程の画像処理も理解しているのですが、これが動画となるとあやふやで、きちんと解説したものがなかなか見当たりません。ただ、動画の場合も絵作りは、スチルのJPEG撮影と同じで「可能な限り撮影時に完了させておくこと」が望ましいのです。
デジタル一眼レフでは、動画の画質設定もスチルと同じプロファイルを使います(ニコンは「ピクチャーコントロール」、キヤノンは「ピクチャースタイル」とメーカーによって名称が異なるので、ここでは「カメラプロファイル」という言葉で統一します)。
スチル撮影用カメラプロファイルとは別に「動画:人物用カメラプロファイル」「動画:風景用カメラプロファイル」などを、メーカーが用意してくれればありがたいのですが、残念なことに今のところそのような動きはありません。
そこで私なりに感じた動画撮影時の設定について書き留めておきたいと思います。
動画の場合、撮影する画面サイズのほとんどは1080p、あるいは720pです。であれば自ずとシャープネスの量は決まってきます。また50/60fpsという高フレームレートの場合は、それほど気にする必要がありませんが、24/25/30fpsという低フレームレートの時は、可能な限り「遅い」シャッタースピードにすることが望ましいのは誰もがご存じでしょう(もちろん設定したフレームレートよりも遅いシャッタースピードは選択できません)。
動体が「ブレた」写真を連続して表示することで「動きを滑らかに見せる」ためです。つまり「きちんと静止した画像」は、動画にとってはある意味「有害」なのです。さらに強いシャープネスが効いていたら「しゃりしゃり」の動画になってしまいます。
画像解像度自体が長辺で1920pixel、あるいは1280pixelなので、通常の「静止画」に必要なシャープネスよりも遙かに弱いシャープネスで充分のようです。
彩度も、ほとんどのカメラに用意されたデフォルトのスタンダード設定では高すぎる傾向にあるようです。写真として印刷用途、プリント用途には最適なのでしょうが、動画で高彩度部分が飽和すると、これまたどぎつくて辛い見え方になってしまいます。特に「人肌」は彩度が高いと、かなりきつい見え方になってしまいます。
動画の場合も写真と同様に、「シャープネス」「彩度」「コントラスト」は後から追加できますが、これを弱めることは難しく、劣化を招き処理時間が大幅に増えてしまいます。
「ピクチャーコントロール」画面
「ピクチャースタイル」画面
次の問題は「どのような色彩の傾向にするか」です。筆者はニコンの場合、人物がメインであればほとんどの場合「ポートレート」モードを使用しています。肌色のトーンを繋ぎ、ハイライトも飽和しにくいという仕上がりの方向性が気に入っています。ただしシャープネス(輪郭強調)は、0から9段階の内、最低の「0」まで落としています(通常のスチル撮影では絶対にしないことです)。プリントには不向きですが、動画の場合に限って言えば、かなり使える設定だと思います。
商品や風景がらみの場合は「ニュートラル」モードを使い、シャープネスは2段落として「0」に。そのままではかなり地味な仕上がりになるため、彩度は逆に1段上げています。コントラストは光源によってコントロールします。太陽光の直射に近いような場合は、2段落とす場合もありますし、ライティングをコントロールできる場合は、そのまま使用することもあります。
キヤノンの場合、以前は「ニュートラル」を選択することが多かったのですが、最近は「スタンダード」がオールマイティだと感じています。もちろんシャープネスを最低まで落とし、彩度も1段落として使用しています。光源が硬い場合はコントラストも1段落とします。あくまでも「筆者の場合」ですが、多くのシーンで使用しやすく、バランスの良い設定だと思います。
このようにカメラデフォルトのカメラプロファイルを調整して、自分の求める仕上がりに最適なシャープネスと彩度、コントラストをテストしてみることをお薦めします。その結果はカスタムプリセットとして登録しておきます。
なお、どのモードでも言えることですが「色合い(色相)」はいじってはいけません。これはゼロのままにしておき、どうしても必要であれば、ホワイトバランスで調整するのが良いでしょう。
ただ、筆者もこれで満足しているわけではありません。あくまで「今、可能な範囲で暫定的に」使っているだけです。個人的に期待するのは、シャープネスとコントラストを細かくコントロールできること(特に低コントラスト、低シャープネスの微調整)。
赤方向に再現域を伸ばし、可能であればブルーの彩度を上げすぎない、ハイライトがちょっと寝たカーブを持つ「派手ではない人物」および「自然な風景中心」の動画用カメラプロファイル。さらに色彩設計が商品撮影に向いている「見た目に近い」色再現の動画用カメラプロファイルが用意された時に、一眼レフで撮影する動画の品質が、さらに上がるのではないだろうか そう思っています。
ここまでのお話しで、シャープ感を極力抑えることを薦めていますが、ピントが合っていなくても良いというわけではありません。もちろんピントは「動画としての許容範囲で充分に合っている」ことが望ましいのです。ただ、「カリカリ」のレンズで撮影すると「動き」や「滑らかさ」の点でどうもしっくりこないのです。
この問題に直面したときに、筆者は初めて「隅々まで解像感があるレンズも良いけれど、描写が柔らかいレンズの良さ」を理解した気がしました。動画の場合、解像感よりも「柔らかい描写かつコントラスト感」のコントロールが重要なようで、これはカメラプロファイルだけでは、カバーできない問題ですね。
この1冊で「ジンバルのすべて」が奥の奥までわかる一眼&ジンバル スピードマスター
ビデオSALON編集部 編集
2,000円+税
あのクリエイターが使っているレンズと作例を大公開ムービーのためのレンズ選びGUIDE BOOK
ビデオSALON編集部 編集
2,200円+税
ドローン空撮に関する各種情報を完全網羅! ドローン空撮GUIDEBOOK 改訂版2019年
2,000円+税(電子書籍版1,900円+税)
鹿野宏 Hiroshi Shikano
デジタルカメラの黎明期からほとんどの一眼レフタイプのデジタルカメラを遍歴。電塾塾長としてデジタルフォトに関する数多くのセミナーを開催。カラーマネージメントセミナーも多い。写真撮影では2億画素の巨大な画像を扱い、2009年から動画撮影をスタート。WEB上の動画、デジタルサイネージ、社内教育用などの「ミニマル動画」を中心に活動している。
- クイックモーション設定で一味違う魅力的な映像を
- フジX-S10とXF50mmF1.0 R WRでポートレイト撮影
- 新時代到来を告げるM1チップ搭載MacBookの性能はいかに?
- 高速化を極めた結果、動画撮影機能が大幅アップ|ソニーα7S III
- 気軽に使えて高性能、エントリー機といって侮れないLumix G100
- MacBook Air 2018を仕事で使えるマシンにする
- ローリングシャッター歪みを計測する
- 光の色再現を評価する新基準TM-30-18を知っていますか?
- 使ってみたら絶対欲しくなるスペシャルなレンズたち
- 動画でも静止画でも「もう手放せない」Kaniフィルター
- 一眼ムービーもRAWで撮影できる時代が到来
- どう使いこなすか!? 注目のSIGMA fp
- 噂の新世代入力デバイス、Orbital2を使ってみた
- 動画撮影を本気で考えた一眼カメラ LUMIX S1H
- 高解像度静止画も動画も、という人にはお薦め、ソニーα7R IV
- 長時間勝負のタイムラプス撮影で愛用する機材
- 通話だけではもったいない。ソニー Xperia 1の凄い性能
- 4KハンディカムSONY FDR-AX700を今更ながら使ってみた
- ワンオペ撮影の強い味方となるか!? Roland V-02HD
- パナソニックのフルサイズミラーレスLUMIX S1/S1R
- ニコン Z 6で銀河のタイムラプスに挑戦
- 形はミラーレス一眼、中身はシネマカメラ、BMPCC4K(Blackmagic Pocket Cinema Camera 4K)
- フルサイズミラーレス、キヤノンEOS Rの動画性能は如何に!?
- ニコン Z 7の大口径は動画性能アップにも繋がる
- 大きく進化した動画性能、FUJIFILM X-T3
- 動画編集作業を高速に行なうための特効薬
- ジンバル初心者にも気軽に使えて高機能、DJI Ronin-S
- 動画編集用コンピュータが欲しい!
- 動画撮影でF1.2大口径単焦点という選択、オリンパスM.ZUIKO PRO
- GH5Sの「Dual Native ISO」はやはりすごい
- 動画撮影でも富士フイルムの「色」への思想を感じさせるX-H1
- スチルもムービーも高性能なα7R IIIを導入しました
- HDR映像を撮影可能にするハイブリッドログガンマとは
- ニコンD850でタイムラプスムービーを極める
- 動画機能も確実に進化させてきたニコンD850
- フォトグラファーのための簡単絵コンテソフト「StoryBoard Creator」
- ますます実用的になってきた動画AF撮影/Panasonic LUMIX GH5③
- Lumix GH5の動画撮影機能をさらに検証する/Panasonic LUMIX GH5②
- スチルフォトグラファーのためのデジタル一眼レフ動画撮影ガイド/Panasonic LUMIX GH5①
- 特別編:動画撮影ならこの機能に注目 4Kムービー時代のカメラ選びのポイント
- 第46回 伝統の色と階調再現。それだけで欲しくなる!? 富士フイルムX-T2
- 第45回 iPad Airをカメラコントローラーにする「DIGITAL DIRECTOR」
- 第44回 「ただ者ではない」カメラ、ソニーα7RII
- 第43回 フォクトレンダーF0.95 NOKTONが動画撮影でも評判な理由
- 第42回 快適な4K編集のために「G-SPEED STUDIO」導入を検討する
- 第41回 高性能タブレット「VAIO Z Canvas」を使う
- 第40回 「SHOGUN」をGH4とα7Sで使ってみた
- 第39回 4K記録ができる外部レコーダー「SHOGUN」
- 第38回 オリンパスOM-D E-M5 MarkIIの「手ぶれ補正」は、かなり使える
- 第37回 軽量な一眼カメラに最適な本格派ビデオ雲台が欲しい
- 第36回 コンデジでも4K動画が撮れる! LUMIX LX100の実力
- 第35回 ストロボもLEDも測定できる「スペクトロマスターC-700」
- 第34回 FCP Xマルチカム編集の便利さを改めて実感
- 第33回 一眼ムービーの様々な「不可能」をこれ1台で解決!「NINJA BLADE」
- 第32回 日本語化&機能強化でさらに身近になった「DaVinci Resolve 11」
- 第31回 「QBiC MS-1」と専用リグで360°パノラマ動画に挑戦
- 第30回 一眼ムービーにベストマッチのALLEXスライダー三脚システム
- 第29回 動画で様々なフィルムのトーンを簡単に再現できるソフト
- 第28回 GH4を「ミニマル動画」でいかに使いこなすか!?
- 第27回 LUMIX GH4の性能アップは期待以上だった
- 第26回 NECのPAシリーズ、マスターモニタ化計画
- 第25回 シネマカメラBMPCCのRAWデータの実力
- 第24回 「DaVinci Resolve」、ただ今勉強中
- 第23回 話題のBlackmagic Pocket Cinema Cameraを使ってみた
- 第22回 ミニマル動画のワークフロー「アフレコ編」
- 第21回 ミニマル動画のワークフロー「編集編」
- 第20回 ミニマル動画のワークフロー「撮影編」
- 第19回 ミニマル動画のワークフロー「打ち合わせ、機材選択編」
- 第18回 LUMIX GH3は、想像以上に「撮れる」カメラ
- 第17回 一眼レフの足りない部分を補完するカメラ「LUMIX FZ200」
- 第16回 フレームレートとシャッタースピードの関係
- 第15回 一眼ムービーの撮影時の画質設定は?
- 第14回 SSD搭載でMacBook Proをメインマシン化計画
- 第13回 Xicato社の屋内照明用LEDを撮影に使いたい
- 第12回 Lightroomを使ってカラコレ
- 第11回 動画のバックアップはどうしていますか?
- 第10回 ビットレートを制するものは動画出力を制する!
- 第9回 画像の書き出し設定は目的によって使い分ける
- 第8回 ニコンD4を動画撮影で使ってみた
- 第7回 アンブレラを使った動画撮影の「Light Modify」を考える
- 第6回 動画撮影に適した光源とライティングを考える
- 第5回 デジタルカメラのためのオーディオインターフェイス「DC-R302」
- 第4回 未知の世界...音声、音楽、効果音
- 第3回 ムービー撮影ならではの単焦点レンズにこだわる
- 第2回 ゼロから覚えるのなら、「Final Cut Pro X」だ!
- 第1回 難しく考えず、スチル撮影の延長からスタート