2015年08月12日
筆者がメインに使用している編集ソフトはFinal Cut Pro X(以下FCP X)です。このソフトは2011年のリリース後もバージョンアップを繰り返し、中でも2013年末、円筒形筐体の新型Mac Proの発表と同時にリリースされたver10.1は、かなり大きなバージョンアップでした。
今回、紹介するマルチカム編集機能も、本格的に使えるようになったのはver10.03から。以降もバージョンアップの度に進化をしています。この連載でも以前、音声収録の記事などの折に触れてきましたが、筆者自身、最近、複雑なマルチカム編集が必要な仕事があって、改めて「こんなに便利になっているのか」と実感しました。
マルチカム編集とは「複数台のカメラを使って、同じシーンをアップやロングなどの異なるアングルで同時撮影し、編集の際、カメラを切り替えることでダイナミックな動感を作り上げる手法」です。ドラマや映画などでは「当たり前」の手法ですが、実際に編集でそれをやろうとすると、同期の面倒さ、編集の煩わしさから、なかなか「敷居の高い編集技法」であったのです。カメラの台数(アングルの数)や撮影クリップの数が増えれば増えるほど、大変さは増加します。
しかしその状況もFCP X10.03以降の「自動同期機能+マルチカム編集」で激変したのです。
4台のカメラで撮影したクリップを時間軸で並べる
あるイベントを撮影した映像だが、4台のカメラで撮影した素材を、「自動オーディオ同期」でタイムライン上に並べてみた。センターと左サイドカメラはほぼフィックス(アングル ❷、❸)、筆者ともう1人で客席、舞台アップなどをそれぞれ撮影している(アングル ❶、❹)。
細かく分けて撮影された素材(アングル ❹)でも、同じカメラなら、間にギャップを入れて、1本に繋げてくれる。しかもここからの編集処理が驚くほど柔軟。
FCP Xの自動同期には「音声による同期」「タイムコードによる同期」などがありますが、デジタル一眼レフ(場合によってはコンパクトタイプのデジカメ)を複数使う場合、タイムコード機能がない機種や、タイムコードを厳密に一致させる機能が搭載されていない場合があるため、「音声による同期=自動オーディオ同期」機能を使います。
複数のクリップもオーディオ信号の波形を自動的に分析して、時間軸に沿ってタイムラインに並べてくれます。そのため撮影に使うカメラは、すべてマイク機能をオン。同録した音声はノイズが少なく、クリアな方がうまく同期できることは言うまでもありません。
最大64アングルまでの設定が可能(通常4アングルもあれば充分なのですが)。フォーマットやフレームレートが違っていても、同期してひとつにまとめます。
同じカメラで撮影されたクリップ(動画ファイル)なら、時間を空けて細切れに撮影されたものでも、空いた部分はギャップを挿入した状態で一本のストーリーラインに繋げてくれます。ただし古いカメラはソフト上で機種を認識できないことがあるため、情報パレットにカメラ名を書き込んでおきます。カメラ名を入れることで同期の精度が上がります。
使い方は簡単で、同期したいファイルを選択し、[新規]から[マルチカムクリップ]を選択するだけ。4台のカメラで1時間にわたる撮影。そのうち2台はカメラ位置フィックスで連続撮影、別の2台はポイントポイントで撮ったアップなどのアングル違い。16の細かいクリップに分かれていましたが、それを同一タイムライン上に並べるまでに要した時間はたった20秒ほどです!
これがどれだけありがたいことか 。同期精度も問題ありません(手動で微調整もできます)。これをイチから人力でやろうとしたら、ファイルを時間軸に並べて、タイミングを合わせ、確認。さらに調整を繰り返し、最低でも3時間くらいはかかったでしょう。
スルー編集点なので、切り替えのタイミング調整、効果挿入も簡単
スイッチング編集は、アングルビューアの画像をクリックしてアングルを切り替えていくだけ。タイムライン上には「スルー編集」を示す点線が表示される。アングル切り替えの際、トランジション効果をつけることも可能。作例はディゾルブで画面を切り替えているが、重なった二つのアングルのヴァイオリンのボウの動きを完全に一致することができた。
アングルの切り替え編集(スイッチング)も、あっけないほど簡単です。アングルビューアでは同期したすべてのアングルが表示され、時間に沿って再生されていくので、使いたいアングルをクリックしていくだけ。
映像を見て「ここだ」と思っても、クリックのタイミングはズレてしまいます。「そんな大雑把なやり方でいいのか」と思われるかもしれませんが、大丈夫です。アングルの切り替えのタイミングは、タイムライン上、「スルー編集」の点線で表示されます。「スルー編集」とは、前のクリップと後のクリップが、編集点(切り替えのポイント)の前後でダブって繋がっていることを示しています。つまりこの編集点は、映像がダブっている範囲であれば、前後に移動可能。アングルビューアで大まかに切り替えポイントを作っておき、微調整は「スルー編集点」をベストなポイントに移動させるだけです。
「スルー編集点」にディゾルブ、ワイプなどのトランジション効果をつければ、前のアングルから次のアングルへ、オーバーラップしながら切り替えるなんてことも、直ぐにできます。これまで恐ろしく複雑で上下に大量に増加したタイムラインを見て途方に暮れていたのが嘘のようです。
先に書いた通り、映画やドラマで、アングルの切り替えは当たり前の技法。言い換えれば、アングル切り替えがある映像は、それだけでも「なんかプロの編集っぽく見える」のです。
幸い、筆者も含めフォトグラファーの事務所には、動画撮影ができるデジタルカメラが何台かはあるはずです。対象がほとんど動かないインタビューでも、1台は固定、1台は移動アングルで撮っておけば、かなり見栄えのいい映像に仕上げられます。撮影者が2人いれば、ライブやイベントなどでも4アングル以上が可能。アングルが増えても、ソフトの進化のおかげで、後の編集作業はかなり楽になっています。マルチカム撮影、やらない手はないと思います。
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鹿野宏 Hiroshi Shikano
デジタルカメラの黎明期からほとんどの一眼レフタイプのデジタルカメラを遍歴。電塾塾長としてデジタルフォトに関する数多くのセミナーを開催。カラーマネージメントセミナーも多い。写真撮影では2億画素の巨大な画像を扱い、2009年から動画撮影をスタート。WEB上の動画、デジタルサイネージ、社内教育用などの「ミニマル動画」を中心に活動している。
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