2014年02月18日
動画に使用される代表的なフレームレートは、日本やアメリカで標準の「60fps、30fps」、ドイツを中心としたヨーロッパ、オーストラリアなどの規格である「50fps、25fps」、映画の世界で標準化された「24fps」などがあります。いずれも「過去のTVや映画の流れを汲む」もので、特に60fpsは当時のアメリカで使用されていた電源の周波数に由来します。日本でTV用の素材を撮影するのであれば、30fps(29.97fps)が正解。しかしネット配信、デジタルサイネージをはじめとするコンピュータで再生する動画なら、どのフレームレートでも問題はありません。筆者の仕事は主にこの分野となります。
動きを滑らかに再現するためには高いフレームレートが良いのですが、高フレームレートはデータの容量が当然ながら増加します。インターネットの世界でも、いずれ50fpsや60fpsが主流になると思いますが、現状では25fps、30fpsが「配信しやすい」フレームレートであるのは事実。
そこで、動きのある被写体でも少ないフレームレートで滑らかに見せなくてはなりません。そのためのテクニックが「遅めのシャッターで撮影されたブレたコマ」です。
一眼レフでムービー撮影をする場合、撮影フレームレートを設定すると「使用できるシャッタースピードの下限」が決まります。たとえば30fpsなら1/30秒より遅いシャッターは選択できません(これはちょっと考えると当然のことですね)。
逆にシャッターを速くする分には制限がなく、カメラのスペックに応じ、いくらでも速いシャッタースピードで撮影することが可能です。しかし30fpsといった低いフレームレートでは、無闇にシャッタースピードを速くしても滑らかな映像にはなりません。確かに速いシャッターであれば、1コマ1コマはブレのない静止した状態の絵になりますが、動きが激しい被写体の場合、それを動画として連続再生すると、動きがぎこちなくなりパラパラ漫画のようになってしまうのです。
同様に、高フレームレート、高速シャッターで撮られた画像も、撮影時の高いフレームレートで見るのならいいのですが、ネット配信のためフレームレートを下げると、動きがぎこちなくなってしまいます。
なので筆者は、選択したフレームレートで設定できる下限のシャッタースピードで撮影することを基本としています。インタビューや商品解説、取説などの通常の被写体であれば「30fps、1/30秒」。この設定は、DVDであってもTVであってもインターネットであっても、そこそこに対応できます(ダンスなど特に被写体の動きが速い被写体で、ブラさずに追いたい時は「60fps、1/60秒」の選択をすることもあります)。
1/30秒というシャッタースピードでは、少しでも動いている被写体は「ややブレた画像」になりますが、この集合体で構成された動画は、1秒間に30コマという低いフレームレートでも「滑らか」に見えるのです。非常に速い動きの場合は追いつけませんが、普通に歩いていたり話をしているシーンでは、「必要十分」といえます。
筆者の経験では30fpsの場合、規定のシャッタースピードの2倍程度(1/60秒)までであれば、通常の動きは滑らかに見えるようです。それよりも動きの速い被写体だと違和感が出てきます(「動きのある被写体ほど遅いシャッター」というのは、スチルフォトグラファーには馴染みにくいかもしれません)。
ちなみに、この撮影は3台のカメラで同時撮影。Final Cut Pro X は音声による「クリップの同期」機能を持っているので、全てのカメラでオーディオ(ダンスのために流れている音楽)を記録しておくと、音声波形を元に複数の映像の時間軸を揃えてくれる(右画面)。ポイントは、記録するオーディオが音楽の場合、似た波形が出やすいので、わかりやすいきっかけの音(「シーンスタート!」等)を入れておくこと。そして一度スタートしたら、カメラは止めないこと。
後は「同期されたクリップ」をタイムライン上でオープンして、不要なシーンをカット(作例ではフェードしている)。複数カメラによるマルチアングルの編集を一気に仕上げることが可能だ。
問題は日中の明るい屋外での撮影。屋外ではどうしても背景に排除不可能な「邪魔物」が多く存在します。
そのため「背景をぼかす」のですが、結果、開放に近い絞りを選択したくなります。適正露光のためにはシャッターを速くしなくてはならず、1コマ1コマのカットが見事にブレのない静止した画像になり、ぎこちない動きの動画を撮影してしまうのです(シャッタースピードをオートで撮影してはいけない理由の一つがこれです。オートだと、フレームレートに関わらず、周囲の明るさに合わせてシャッターがどんどん速くなってしまいます)。
この問題の効果的な対抗策が、5〜6段のNDフィルターをレンズに装着して、シャッタースピードを1/30秒まで落とすことです。伝統的なムービーの手法ですが、感度が上がってしまったデジタルの世界でこそ、この手法は生きているようです。ただしファインダーは真っ暗になってしまうため、ライブビューが必須です。
もう一つ、フレームレートとシャッタースピードを意識しなくてはいけないシーンとして、会議室などで撮影する出張撮影があります。通常蛍光灯(高周波点灯していないもの)のフリッカー問題。専用の照明光源を大量に持ち込めないことも多いのです。
その場合は50fpsのフレームレートを選択できるカメラを使用するようにしています。電源周波数が50Hzの関東圏では、シャッターを1/50秒にすることでフリッカーを抑えられるため、50fps、1/50秒で撮影するのです。25fps設定でシャッタースピード1/25秒でも良いのですが、この場合「確実にフリッカーが出ない」とは言い切れません。インターネット用で高いフレームレートが必要ない動画の場合でも、多少滑らかさは犠牲になりますが、50fps、1/50秒で撮影して、25fpsに書き出すようにしています。
50fpsのフレームレート設定がないカメラを使う場合、30fpsで1/50秒か、60fpsで1/100秒という選択になります。(これはあくまで関東圏の話です。電源周波数が60Hzの関西圏では、60fps、1/60秒がそのまま使えます。将来的にはこちらが基本になるかもしれません。何しろ世界では50Hzの電源は少数派ですから)。
この1冊で「ジンバルのすべて」が奥の奥までわかる一眼&ジンバル スピードマスター
ビデオSALON編集部 編集
2,000円+税
あのクリエイターが使っているレンズと作例を大公開ムービーのためのレンズ選びGUIDE BOOK
ビデオSALON編集部 編集
2,200円+税
ドローン空撮に関する各種情報を完全網羅! ドローン空撮GUIDEBOOK 改訂版2019年
2,000円+税(電子書籍版1,900円+税)
鹿野宏 Hiroshi Shikano
デジタルカメラの黎明期からほとんどの一眼レフタイプのデジタルカメラを遍歴。電塾塾長としてデジタルフォトに関する数多くのセミナーを開催。カラーマネージメントセミナーも多い。写真撮影では2億画素の巨大な画像を扱い、2009年から動画撮影をスタート。WEB上の動画、デジタルサイネージ、社内教育用などの「ミニマル動画」を中心に活動している。
- クイックモーション設定で一味違う魅力的な映像を
- フジX-S10とXF50mmF1.0 R WRでポートレイト撮影
- 新時代到来を告げるM1チップ搭載MacBookの性能はいかに?
- 高速化を極めた結果、動画撮影機能が大幅アップ|ソニーα7S III
- 気軽に使えて高性能、エントリー機といって侮れないLumix G100
- MacBook Air 2018を仕事で使えるマシンにする
- ローリングシャッター歪みを計測する
- 光の色再現を評価する新基準TM-30-18を知っていますか?
- 使ってみたら絶対欲しくなるスペシャルなレンズたち
- 動画でも静止画でも「もう手放せない」Kaniフィルター
- 一眼ムービーもRAWで撮影できる時代が到来
- どう使いこなすか!? 注目のSIGMA fp
- 噂の新世代入力デバイス、Orbital2を使ってみた
- 動画撮影を本気で考えた一眼カメラ LUMIX S1H
- 高解像度静止画も動画も、という人にはお薦め、ソニーα7R IV
- 長時間勝負のタイムラプス撮影で愛用する機材
- 通話だけではもったいない。ソニー Xperia 1の凄い性能
- 4KハンディカムSONY FDR-AX700を今更ながら使ってみた
- ワンオペ撮影の強い味方となるか!? Roland V-02HD
- パナソニックのフルサイズミラーレスLUMIX S1/S1R
- ニコン Z 6で銀河のタイムラプスに挑戦
- 形はミラーレス一眼、中身はシネマカメラ、BMPCC4K(Blackmagic Pocket Cinema Camera 4K)
- フルサイズミラーレス、キヤノンEOS Rの動画性能は如何に!?
- ニコン Z 7の大口径は動画性能アップにも繋がる
- 大きく進化した動画性能、FUJIFILM X-T3
- 動画編集作業を高速に行なうための特効薬
- ジンバル初心者にも気軽に使えて高機能、DJI Ronin-S
- 動画編集用コンピュータが欲しい!
- 動画撮影でF1.2大口径単焦点という選択、オリンパスM.ZUIKO PRO
- GH5Sの「Dual Native ISO」はやはりすごい
- 動画撮影でも富士フイルムの「色」への思想を感じさせるX-H1
- スチルもムービーも高性能なα7R IIIを導入しました
- HDR映像を撮影可能にするハイブリッドログガンマとは
- ニコンD850でタイムラプスムービーを極める
- 動画機能も確実に進化させてきたニコンD850
- フォトグラファーのための簡単絵コンテソフト「StoryBoard Creator」
- ますます実用的になってきた動画AF撮影/Panasonic LUMIX GH5③
- Lumix GH5の動画撮影機能をさらに検証する/Panasonic LUMIX GH5②
- スチルフォトグラファーのためのデジタル一眼レフ動画撮影ガイド/Panasonic LUMIX GH5①
- 特別編:動画撮影ならこの機能に注目 4Kムービー時代のカメラ選びのポイント
- 第46回 伝統の色と階調再現。それだけで欲しくなる!? 富士フイルムX-T2
- 第45回 iPad Airをカメラコントローラーにする「DIGITAL DIRECTOR」
- 第44回 「ただ者ではない」カメラ、ソニーα7RII
- 第43回 フォクトレンダーF0.95 NOKTONが動画撮影でも評判な理由
- 第42回 快適な4K編集のために「G-SPEED STUDIO」導入を検討する
- 第41回 高性能タブレット「VAIO Z Canvas」を使う
- 第40回 「SHOGUN」をGH4とα7Sで使ってみた
- 第39回 4K記録ができる外部レコーダー「SHOGUN」
- 第38回 オリンパスOM-D E-M5 MarkIIの「手ぶれ補正」は、かなり使える
- 第37回 軽量な一眼カメラに最適な本格派ビデオ雲台が欲しい
- 第36回 コンデジでも4K動画が撮れる! LUMIX LX100の実力
- 第35回 ストロボもLEDも測定できる「スペクトロマスターC-700」
- 第34回 FCP Xマルチカム編集の便利さを改めて実感
- 第33回 一眼ムービーの様々な「不可能」をこれ1台で解決!「NINJA BLADE」
- 第32回 日本語化&機能強化でさらに身近になった「DaVinci Resolve 11」
- 第31回 「QBiC MS-1」と専用リグで360°パノラマ動画に挑戦
- 第30回 一眼ムービーにベストマッチのALLEXスライダー三脚システム
- 第29回 動画で様々なフィルムのトーンを簡単に再現できるソフト
- 第28回 GH4を「ミニマル動画」でいかに使いこなすか!?
- 第27回 LUMIX GH4の性能アップは期待以上だった
- 第26回 NECのPAシリーズ、マスターモニタ化計画
- 第25回 シネマカメラBMPCCのRAWデータの実力
- 第24回 「DaVinci Resolve」、ただ今勉強中
- 第23回 話題のBlackmagic Pocket Cinema Cameraを使ってみた
- 第22回 ミニマル動画のワークフロー「アフレコ編」
- 第21回 ミニマル動画のワークフロー「編集編」
- 第20回 ミニマル動画のワークフロー「撮影編」
- 第19回 ミニマル動画のワークフロー「打ち合わせ、機材選択編」
- 第18回 LUMIX GH3は、想像以上に「撮れる」カメラ
- 第17回 一眼レフの足りない部分を補完するカメラ「LUMIX FZ200」
- 第16回 フレームレートとシャッタースピードの関係
- 第15回 一眼ムービーの撮影時の画質設定は?
- 第14回 SSD搭載でMacBook Proをメインマシン化計画
- 第13回 Xicato社の屋内照明用LEDを撮影に使いたい
- 第12回 Lightroomを使ってカラコレ
- 第11回 動画のバックアップはどうしていますか?
- 第10回 ビットレートを制するものは動画出力を制する!
- 第9回 画像の書き出し設定は目的によって使い分ける
- 第8回 ニコンD4を動画撮影で使ってみた
- 第7回 アンブレラを使った動画撮影の「Light Modify」を考える
- 第6回 動画撮影に適した光源とライティングを考える
- 第5回 デジタルカメラのためのオーディオインターフェイス「DC-R302」
- 第4回 未知の世界...音声、音楽、効果音
- 第3回 ムービー撮影ならではの単焦点レンズにこだわる
- 第2回 ゼロから覚えるのなら、「Final Cut Pro X」だ!
- 第1回 難しく考えず、スチル撮影の延長からスタート