2014年09月08日
「Blackmagic Pocket Cinema Camera」(以下BMPCC)が、RAW圧縮記録に対応したので、検証してみました。
BMPCCについては、第23回でもレポートしていますが、少し復習をしておくと、ブラックマジックデザイン社が開発したコンパクトなシネマカメラ。価格は10万円台ながら、撮影モードとして通常のProRes 422「ビデオモード」、ダイナミックレンジが広いProRes 422「フィルムモード」(log記録モード)に加え、「RAW圧縮記録モード」を備えています(第23回執筆時点では、まだBMPCC本体がRAW撮影に対応していませんでした)。
シネマカメラとは、映像の一つ一つのフレーム(コマ)が、きちんと1枚の写真として成立するようなカメラのことだと思っていいでしょう。ちょうど映画の「絵」が1枚ずつ、フィルム上に存在している状態と同じことです。そのフレーム単位ごとの記録をRAWで行なうのが、シネマカメラのRAW撮影モードです。1フレーム1フレームの「絵」が、演算で作られた物ではない「記録時に取り込まれたままの情報」を持つため、少しくらいの補正では、画像が破綻しない「腰が強く」「良く粘る」データなのです。
一見するとハイライトもシャドウもなく、当然ながら彩度もきわめて低いのっぺりした画像ですが「かなりの幅のシャドウとハイライトを再現でき、彩度、色相のコントロール幅も広い」データです。もっともデジタルカメラを使用して「写真」を撮影しているフォトグラファーにとって、RAWの実力は今更のことなのでしょうが、ムービーファイルを扱っている人間にとっては、目が回るほどハイスペックなのです。
20〜21ステップ。10絞り以上のダイナミックレンジ! 改めてRAWデータの威力を感じる。
18〜19ステップ。超高コントラストの撮影条件でなければ、これで充分。
16ステップ、8絞り。通常の撮影条件であれば、問題なく撮影できる。
実際にチャートで検証してみましょう。今回、ダイナミックレンジを測定するために使用したのは「photographic Step Tablet, No.2」チャート。このチャートは素通し(透明)から黒部分まで、合わせて22段階が再現されているフィルムで、0.05から3.05の写真濃度が0.15刻みのステップで記録されています。1ステップがおよそ0.5絞りにあたるので、約11絞りを記録できるかどうかをチェックできます。このチャートを透過光で撮影。その際、素通し部分がぎりぎり255となるように露光量を調整すると、どれだけ暗い部分までの階調差を記録可能か判別できます。ビデオスコープで表示してみると、ひと目で何段分、記録されていたかを見ることができます。
専用ソフトDaVinci ResolveでRAWデータの調整。調整前が上、調整後が下。ここまで追い込んでも映像がへたらない。筆者が使用しているDaVinci Resolveはライト版のためノイズを処理できないのが残念だが、それでもここまでコントロールできる。
「BMPCC」のRAWはなんと20〜21ステップが記録されていました(21番目は数えて良いのかどうかちょっと疑問点があります)。10絞り以上を記録できていることになります。改めてRAWデータの威力を感じました。ニコンD3がぎりぎり22階調でしたので、ほとんど同様の性能と考えて良いでしょう。
このRAWモードを記録するためには、記録媒体として60Mb/s以上の転送速度を持つSDカード=サンディスク社「Extreme Pro」が必須です。(「Extreme Pro」は約90Mb/sの転送能力。ただし「EX_Fat」にフォーマットし直す必要があります)。
「フィルムモード」もかなりがんばっています。18〜19ステップは悪くない数字です。大幅な補正、色変換をしないのであれば、もしくは撮影条件がむちゃくちゃコントラストの高い場合でなければ、充分に活用できるモードだと感じました。データ容量もRAWに比較して1/4程度なので、SDカードは「Extreme」でも対応できます。フォーマットも通常の「Fat」で問題がないので、デジタルカメラとの共用も可能です。
「ビデオモード」は16ステップ、8絞りです。フラットな光の状態であったり、光を回したライティングができる場合は、撮ったまま使えて、後の補正の苦労がない分、これでいけるでしょう。ただ、明るい側の階調差が大きく9段目以上は余り差がありません。シャドウ側の期待はしない方が良いかもしれません。
BMPCCのRAWデータをLightroomで読み込めた! 補正前の画像(上)が、DaVinci Resolveでオープンした時と比べ、幾分暖かみのある色味で再現されている。コントラストもやや高め。これはLightroomデフォルトの設定値によって異なるのだろう。任意の画像を選び、スポイトツールでホワイトバランスをとり、露出を補正、ノイズ処理など行ない、その設定をすべてのカット(連番フレーム)に適応する。
さて、「BMPCC」のRAWが、広い諧調性を記録できることは理解できました。そしてlog記録の「フィルムモード」も結構な力を持っていることを再確認しました。個人的には、この「フィルムモード」で充分なんじゃないかとも思います。
しかしRAWで撮れることの「最大の魅力」は別のところにありました。「BMPCC」のRAWフォーマットはAdobe社のDNGフォーマット(圧縮タイプ)なのです。と言うことは、LightRoomでも普通に現像できるのではないか? 気になりますよね! 早速、「BMPCC」のRAW撮影データをLightroomに読み込んでみました。
読み込めます! たった1分の動画に1800枚の写真。ここから1カットを写真として取り出すもよし。連番になっているので、使い慣れたLightroomで補正して、すべてのカットを同期。JPEGで書き出して、再度、動画としてまとめることもできます。
ただし、書き出しにはそれなりの時間がかかります 1800枚のRAWデータなのですから。
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鹿野宏 Hiroshi Shikano
デジタルカメラの黎明期からほとんどの一眼レフタイプのデジタルカメラを遍歴。電塾塾長としてデジタルフォトに関する数多くのセミナーを開催。カラーマネージメントセミナーも多い。写真撮影では2億画素の巨大な画像を扱い、2009年から動画撮影をスタート。WEB上の動画、デジタルサイネージ、社内教育用などの「ミニマル動画」を中心に活動している。
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