2014年10月09日
昨年10月、久しぶりにNECのディスプレイ、PAシリーズが刷新されました。24インチから30インチまでのラインナップ。そのサイズ感の良さから27インチタイプがずっと気になっていたので、メーカーから借りて使ってみました。それも単に使ってみるだけではなく、実はある壮大な計画を持っていたのです。
以下、PAシリーズの特徴を簡単におさらい。
❶:ディスプレイ内部にカラーセンサーを内蔵しているため、わざわざ外部センサーを使ってディスプレイキャリブレーションせずとも、色域、輝度、コントラストなどを自動で長時間維持することができる(もちろんキャリブレーションすることも可能)。光源が安定していれば、ディスプレイの発色も安定する。
内部キャリブレーションは出荷時に1台ずつ調整され、よほど輝度や色味に変化がない限り、ディスプレイ自身でキャリブレーションしてくれる。
❷:マット系の液晶画面にありがちな、あの「ぎらつき感」を見事に抑えている。筆者はこれまで「気にしない」ことで解決してきたが、現物を見てみるともうダメ。従来のディスプレイとは異なり奥深く、くっきり見える。もちろん他社でも同様の機能を持つ機種が出ているが、この値段で「ぎらつき」を抑えたことが素晴らしい。おかげで「見かけの黒の締まり」も向上し、「見た目のダイナミックレンジ」も広がったように感じる。
❸:MultiProfilerを使用して、印刷物や他のディスプレイなどの色再現をエミュレーションすることが可能。MultiProfilerにはプリセットでDCI、REC-Bt709のプロファイルが入っているが、SMPTE-CやEBU規格のプロファイルを読み込むことも可能(※)。
※REC-Bt709:ITU-R( 国際電気通信連合 無線通信部門)が定めた規格。家庭用ゲーム機やHDTV放送用のプロファイルと考えて良い。色域はsRGBに酷似。
※SMPTE-C:北米の放送規格で採用されているカラープロファイル。
※EBU:ヨーロッパの放送連合の規格に準じたプロファイル。
❹:キーボードやマウスのハブ機能まで組み込まれている(しかも切り替えて共有可能)。また、LED光源に変更したこともあり、ファンレスで薄型化に成功したこと、フリッカー対策に取り組んだことなどが、新しい魅力。
ついでに言うと、接続ケーブルの抜き差しがしやすい設計になっていることもありがたい。私はちょくちょくディスプレイを移動するので、電源周りの接続がやりやすいことは結構重要。
画面の90°回転などもありがたい。デジタルサイネージの多くは縦位置なので、大きなアドバンテージ。
❺:入力はDisplayPortにminiDisplayPort、DVI-DにHDMIと、てんこ盛りで、何でもござれ!
❻:その他、14bitガンマ補正機能、均一な画面再現を約束するムラ補正機能、高彩度を再現する広い色域、斜めから画面を見ても正確に判断できるIPSパネル、他のマシンの画面を同時表示するピクチャーインピクチャー。それらの画面にそれぞれ異なるプロファイルを当てることが可能な仕様などなど 以前の機種の良いところはそのまま引き継いで、最安値では15万円を切っている。
以上、豊富な機能をざっとおさらいしてみました。ま、ここまでは「これだけの再現力を持って、このお値段はお買い得」というお話 。問題は「これで何ができるか」ということ。
前述のシャドウの締まりの改善による再現力の高まりと14Bitガンマ補正という性能を組み合わせ、そこにプロファイルを読み込んでディスプレイに反映させるMultiProfilerを活用すると、デジタルムービー用のちょっとしたマスターモニタとして使用できるのではないかと感じていました。 実はこれ、一番期待していたこと、それが筆者の「壮大な計画」なのです。
マスターモニタとしてこんな使い方ができる
デジタルシネマのDCIや放送機器用のREC-Bt709のみならず、各国の放送規格であるEBU、SMPTE-Cなどもエミュレーションできてしまいます。ついでに通常のテレビのプロファイルもあれば最高なのですが それは存在していませんでした(というよりも、現実には生産されたテレビの機種の数だけ、プロファイルが存在すると言っても過言ではないでしょう)。
そこでMultiProfilerを使って、家庭用テレビのプロファイルをちょっと試しに作ってみました。
最近のテレビの発色を見ていると、sRGBよりも色域が広く、コントラストが遙かに高い感じです。ガンマは2.4か2.6。私は間を取って2.5としました。白色点は9300ケルビン。色域はsRGB以上、Adobe未満という感じですが、結構広そうなので、「ディスプレイの色域すべて」を選択しました(赤方向に余裕があるので、使わない理由はないなと)。輝度は300cd/㎡とかなり明るめです。こうして作成したプロファイルを「TV」という名前でMultiProfilerに登録。本来、テレビのディスプレイは各社各様の色作りをしているので完璧ではありませんが「普通のテレビで見たならばこんなもん」というエミュレーションができると思います。
PA272、1台でデジタルシネマのDCI、HDTVのREC-Bt709、印刷用のAdobe RGBにコンピュータの規格sRGB、そして家庭用テレビで見ている状態を、すべてプリセットにしてシミュレーションすることが可能になり、私の期待通りのディスプレイになってくれました。
印刷用原稿はAdobe RGBで、Web系はsRGBで作業を行ないます。動画系は 私はハリウッドのデジタルシネマを制作していない そのため通常はREC-Bt709を選択して作業をします。クライアントに見せる時は「家庭用テレビで見るとこんな感じ」という、TVモードで見ていただくことができます。
本格的なマスターモニタを購入することはちょっと難しいのですが、こんな便利なディスプレイが1台あっても良いと思いませんか?
MultiProfilerで「家庭用TV」のエミュレーションプロファイルを作る
この1冊で「ジンバルのすべて」が奥の奥までわかる一眼&ジンバル スピードマスター
ビデオSALON編集部 編集
2,000円+税
あのクリエイターが使っているレンズと作例を大公開ムービーのためのレンズ選びGUIDE BOOK
ビデオSALON編集部 編集
2,200円+税
ドローン空撮に関する各種情報を完全網羅! ドローン空撮GUIDEBOOK 改訂版2019年
2,000円+税(電子書籍版1,900円+税)
鹿野宏 Hiroshi Shikano
デジタルカメラの黎明期からほとんどの一眼レフタイプのデジタルカメラを遍歴。電塾塾長としてデジタルフォトに関する数多くのセミナーを開催。カラーマネージメントセミナーも多い。写真撮影では2億画素の巨大な画像を扱い、2009年から動画撮影をスタート。WEB上の動画、デジタルサイネージ、社内教育用などの「ミニマル動画」を中心に活動している。
- クイックモーション設定で一味違う魅力的な映像を
- フジX-S10とXF50mmF1.0 R WRでポートレイト撮影
- 新時代到来を告げるM1チップ搭載MacBookの性能はいかに?
- 高速化を極めた結果、動画撮影機能が大幅アップ|ソニーα7S III
- 気軽に使えて高性能、エントリー機といって侮れないLumix G100
- MacBook Air 2018を仕事で使えるマシンにする
- ローリングシャッター歪みを計測する
- 光の色再現を評価する新基準TM-30-18を知っていますか?
- 使ってみたら絶対欲しくなるスペシャルなレンズたち
- 動画でも静止画でも「もう手放せない」Kaniフィルター
- 一眼ムービーもRAWで撮影できる時代が到来
- どう使いこなすか!? 注目のSIGMA fp
- 噂の新世代入力デバイス、Orbital2を使ってみた
- 動画撮影を本気で考えた一眼カメラ LUMIX S1H
- 高解像度静止画も動画も、という人にはお薦め、ソニーα7R IV
- 長時間勝負のタイムラプス撮影で愛用する機材
- 通話だけではもったいない。ソニー Xperia 1の凄い性能
- 4KハンディカムSONY FDR-AX700を今更ながら使ってみた
- ワンオペ撮影の強い味方となるか!? Roland V-02HD
- パナソニックのフルサイズミラーレスLUMIX S1/S1R
- ニコン Z 6で銀河のタイムラプスに挑戦
- 形はミラーレス一眼、中身はシネマカメラ、BMPCC4K(Blackmagic Pocket Cinema Camera 4K)
- フルサイズミラーレス、キヤノンEOS Rの動画性能は如何に!?
- ニコン Z 7の大口径は動画性能アップにも繋がる
- 大きく進化した動画性能、FUJIFILM X-T3
- 動画編集作業を高速に行なうための特効薬
- ジンバル初心者にも気軽に使えて高機能、DJI Ronin-S
- 動画編集用コンピュータが欲しい!
- 動画撮影でF1.2大口径単焦点という選択、オリンパスM.ZUIKO PRO
- GH5Sの「Dual Native ISO」はやはりすごい
- 動画撮影でも富士フイルムの「色」への思想を感じさせるX-H1
- スチルもムービーも高性能なα7R IIIを導入しました
- HDR映像を撮影可能にするハイブリッドログガンマとは
- ニコンD850でタイムラプスムービーを極める
- 動画機能も確実に進化させてきたニコンD850
- フォトグラファーのための簡単絵コンテソフト「StoryBoard Creator」
- ますます実用的になってきた動画AF撮影/Panasonic LUMIX GH5③
- Lumix GH5の動画撮影機能をさらに検証する/Panasonic LUMIX GH5②
- スチルフォトグラファーのためのデジタル一眼レフ動画撮影ガイド/Panasonic LUMIX GH5①
- 特別編:動画撮影ならこの機能に注目 4Kムービー時代のカメラ選びのポイント
- 第46回 伝統の色と階調再現。それだけで欲しくなる!? 富士フイルムX-T2
- 第45回 iPad Airをカメラコントローラーにする「DIGITAL DIRECTOR」
- 第44回 「ただ者ではない」カメラ、ソニーα7RII
- 第43回 フォクトレンダーF0.95 NOKTONが動画撮影でも評判な理由
- 第42回 快適な4K編集のために「G-SPEED STUDIO」導入を検討する
- 第41回 高性能タブレット「VAIO Z Canvas」を使う
- 第40回 「SHOGUN」をGH4とα7Sで使ってみた
- 第39回 4K記録ができる外部レコーダー「SHOGUN」
- 第38回 オリンパスOM-D E-M5 MarkIIの「手ぶれ補正」は、かなり使える
- 第37回 軽量な一眼カメラに最適な本格派ビデオ雲台が欲しい
- 第36回 コンデジでも4K動画が撮れる! LUMIX LX100の実力
- 第35回 ストロボもLEDも測定できる「スペクトロマスターC-700」
- 第34回 FCP Xマルチカム編集の便利さを改めて実感
- 第33回 一眼ムービーの様々な「不可能」をこれ1台で解決!「NINJA BLADE」
- 第32回 日本語化&機能強化でさらに身近になった「DaVinci Resolve 11」
- 第31回 「QBiC MS-1」と専用リグで360°パノラマ動画に挑戦
- 第30回 一眼ムービーにベストマッチのALLEXスライダー三脚システム
- 第29回 動画で様々なフィルムのトーンを簡単に再現できるソフト
- 第28回 GH4を「ミニマル動画」でいかに使いこなすか!?
- 第27回 LUMIX GH4の性能アップは期待以上だった
- 第26回 NECのPAシリーズ、マスターモニタ化計画
- 第25回 シネマカメラBMPCCのRAWデータの実力
- 第24回 「DaVinci Resolve」、ただ今勉強中
- 第23回 話題のBlackmagic Pocket Cinema Cameraを使ってみた
- 第22回 ミニマル動画のワークフロー「アフレコ編」
- 第21回 ミニマル動画のワークフロー「編集編」
- 第20回 ミニマル動画のワークフロー「撮影編」
- 第19回 ミニマル動画のワークフロー「打ち合わせ、機材選択編」
- 第18回 LUMIX GH3は、想像以上に「撮れる」カメラ
- 第17回 一眼レフの足りない部分を補完するカメラ「LUMIX FZ200」
- 第16回 フレームレートとシャッタースピードの関係
- 第15回 一眼ムービーの撮影時の画質設定は?
- 第14回 SSD搭載でMacBook Proをメインマシン化計画
- 第13回 Xicato社の屋内照明用LEDを撮影に使いたい
- 第12回 Lightroomを使ってカラコレ
- 第11回 動画のバックアップはどうしていますか?
- 第10回 ビットレートを制するものは動画出力を制する!
- 第9回 画像の書き出し設定は目的によって使い分ける
- 第8回 ニコンD4を動画撮影で使ってみた
- 第7回 アンブレラを使った動画撮影の「Light Modify」を考える
- 第6回 動画撮影に適した光源とライティングを考える
- 第5回 デジタルカメラのためのオーディオインターフェイス「DC-R302」
- 第4回 未知の世界...音声、音楽、効果音
- 第3回 ムービー撮影ならではの単焦点レンズにこだわる
- 第2回 ゼロから覚えるのなら、「Final Cut Pro X」だ!
- 第1回 難しく考えず、スチル撮影の延長からスタート