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GH5Sの「Dual Native ISO」はやはりすごい

解説:鹿野宏

2018年1月25日に発売されたPanasonic GH5S。画素数をGH5の約半分の1028万画素まで下げた結果、得たのはS/N比約1.5段アップ、感度特性約2.4倍向上(全てGH5比)。マイクロフォーサーズ機というハンデを持ちながら、フルサイズセンサーのデジタルカメラに匹敵するほどの質感たっぷりの高感度、広いダイナミックレンジ、使えば使うほど動画カメラとしてのすごさを実感します。

全く異なる性格のカメラ、GH5とGH5S

img_products_dslr_nofear57_01.jpg手前がGH5S、後ろがGH5。兄弟機と言えるカメラで外観はほとんど同じだが、その性格は全く異なる。GH5は動画、静止画両対応の高性能カメラ、GH5Sは動画特性を「極限までチューンナップして、高画素以外のスペックを高めたカメラ」と言える。ポスターや写真作品作りでは約1000万画素という解像度は物足りないが、それ以外の写真の仕事、少ない光量のスナップカメラとしては、静止画でも充分に使える。

筆者は常々、ISO6400でそこそこ綺麗な動画を撮影できるかどうかが、カメラ購入の判断基準だと考えてきたのですが、マイクロフォーサーズ機に関しては他のメリットも鑑みて、その品質に関してかなり甘い点をつけてきました。しかしGH5Sはマイクロフォーサーズ機でありながら「悪条件でも綺麗な動画を撮影できる」カメラなのです。ISO6400は「薄暗い場所であっても普通にポートレイト風の動画を撮影できる感度」であり、ISO12800でさえも、人物撮影に使えそうだと感じました。

従来のデジタルカメラでは、高感度側に振ったセッティングの場合、低感度側の分解能が落ちやすくなり、低感度側にセッティングすれば高感度の実現が難しくなるというジレンマがありました。そのため「バランスの良い落とし所」を探る必要があったのです。そしてさらに、高感度撮影を実現するためには、AD変換後のデータをゲインアップして情報を拡張、それに伴って増幅されたノイズはノイズ処理で頑張って減らしています。

しかしパナソニックはこの考え方に「基本的な発想の転換」をしました。すでに同社製シネマカメラVARICAMで実績を持つ「Dual Native ISO」の採用です。


 

Dual Native ISO

「Dual Native ISO」とは、ISO800までの低感度ではこれまでと同様の無理のない信号処理を行ない、AD変換後のゲインアップを最小限にとどめます。そしてISO800以上の感度の場合には、イメージセンサーから出力されたアナログデータの状態でゲインアップ、その拡張された信号をAD変換、その後に信号の量を適正に戻すことでノイズに相当する部分を低レベルに押さえ込む技術です。考え方としてはノイズレス録音技術のドルビーノイズリダクションシステムとよく似た手法で、一見、アクロバティックにみえますが、ある意味ノイズ処理の正当かつ伝統的な手法だと言えます。

「Dual Native ISO」はISO800を境に、設定した感度によって自動的に回路が切り替わりますが、感度をオートで撮影する場合、感度範囲を低感度回路「ISO160~800」と高感度回路「ISO800~51200」のいずれかに設定することも可能です。


GH5SとGH5の高感度性能比較

お馴染みの30段ステップチャートをGH5とGH5Sで撮影。両者のルミナンス表示を重ねてみた。

GH5ダイナミックレンジとISO


「Dual Native ISO」の回路が切り替わる前のISO800では、GH5とGH5Sのカーブはほぼ同じ。しかし感度が上がるにつれて、GH5ではカーブが下がりノイズは増えていくが、GH5SはISO12800でもカーブの形はISO800とほぼ同じ。「Dual Native ISO」の効果がよくわかる。しかもGH5Sはこの上のISO25600までの動画撮影が可能。

 

高感度時でも画像が綺麗な理由はこれだけではありません。「高精度マルチプロセスNR」によるノイズの判定能力アップ、RAWデータから色成分を演算する際に参照するエリアを従来の9倍に拡大した「マルチピクセル輝度生成」、「インテリジェントディテール処理」などで、より質感の再現力を高めています。

GH5SはGH5と比較し、画素数が1/2、ボディ内手ブレ補正の未登載などなど、トレードオフとして失ったものもあります。そのため「オールマイティに写真を撮れる」という言い方はできなくなり、「4K動画にチューニングされたデジタルカメラ」という印象です。


GH5S高感度実写

チャートではなく実際の夜景で高感度がどこまで使えるのかをテストしてみた。雨の降る夜、カメラを固定してISO1600からISO24600まで絞りをF5.6近くに設定して撮影。24pではあるが4096×2160、ALL-I 422、10bit、400Mbps、HLG。パッと見て全ての画像で大きな差は感じれらないことがまず驚き。

高感度実写

ISO1600
img_products_dslr_nofear57_08.jpg
ISO3200
img_products_dslr_nofear57_09.jpg
ISO6400
img_products_dslr_nofear57_10.jpg
ISO12800
img_products_dslr_nofear57_11.jpg
ISO25600
img_products_dslr_nofear57_12.jpg


よくよく見るとISO25600はシャドウ部にややノイズが乗り、解像感も弱く感じる。しかしISO12800は細部の解像感がやや劣るものの充分実用範囲だ。まさにDual Native ISOの恩恵だろう。
ISO3200、6400も素晴らしく見事な、映像を記録してくれていた。


取材撮影や通常の商品撮影で要求される画素数は800万画素あれば充分なことが多いですし、ボディ内手ブレ補正は、レンズの手ブレ補正が頑張ってくれればそこそこ利きます。ただ、バッテリーの持ち時間が短くなったのは筆者としては残念なところ。DCI 4K 30p 4.2.2.のカメラ内10bit記録や、上記の高度な演算処理のためか、撮影条件、記録モードによっては、バッテリー持ち時間は体感的にこれまでの半分程度に感じてしまいます。

今後、動画カメラとして進化していくには、バッテリーまわりの改善が望まれるところです。




※この記事はコマーシャル・フォト2018年6月号から転載しています。


鹿野宏 Hiroshi Shikano

デジタルカメラの黎明期からほとんどの一眼レフタイプのデジタルカメラを遍歴。電塾塾長としてデジタルフォトに関する数多くのセミナーを開催。カラーマネージメントセミナーも多い。写真撮影では2億画素の巨大な画像を扱い、2009年から動画撮影をスタート。WEB上の動画、デジタルサイネージ、社内教育用などの「ミニマル動画」を中心に活動している。

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