一眼ムービーなんて怖くない!

第10回 ビットレートを制するものは動画出力を制する!

解説:鹿野宏

前回、動画の品質を左右するのは「絵柄のきめ細かさ、質感を決定するフレームサイズ」「動きの滑らかさを決定するフレームレート」「再生品質を決定するビットレート」の3点だという話をしました。今回は「ビットレート」について、もう少し検証してみたいと思います。

img_products_dslr_nofear10_01.jpg
画面01

右の画面(画面01)は、ビットレートを8000kbpsに固定して、ある動画から異なるフレームサイズの.mp4データを作った結果。画面一番下の数値が、ProRes422の画像(106.3MB)です。

動画の内容によって異なるのかもしれませんが、私の検証では驚くべき結果です。フレームサイズは変化しているのに、1080pから360pまでファイルサイズにほとんど変化がない。つまりフレームサイズを小さくしても「ファイルサイズを減らす」という目的には合致しないのです。

img_products_dslr_nofear10_02.jpg 250kbps
img_products_dslr_nofear10_03.jpg 3000kbps
img_products_dslr_nofear10_04.jpg 30000kbps

img_products_dslr_nofear10_05.jpg 画面02

img_products_dslr_nofear10_06.jpg
画面03

画像の内容、フレームサイズによって
最適なビットレートを選ぶ

画面02はフレームサイズ720p固定で、ビットレートを変え、ファイルサイズを検証した結果。上の絵がその画質比較。風で花が激しく揺れているシーンだが、3000kbpsでも30000kbpsでもほぼ変わりない。このシーンは3000kbpsで充分と言える。画面03は、フレームサイズを変え、そのフレームサイズで綺麗に見えるギリギリのビットレートで書き出した結果。
*今回の検証はすべてFinal Cut Pro Xで行ないました。

上の画像と画面02は、フレームサイズを720pに固定して、ビットレートを細かく変化させたもの。ごちゃごちゃして動きが激しい画像でも、ビットレートは3000kbpsで充分に綺麗に見えます。ファイルサイズは7.8MBです。これが30000kbpsとなるとファイルサイズは9倍近くまで跳ね上がりますが、見かけはそれほどの差はありません。

また基本的にフレームサイズの大きい画像は、高いビットレートを設定する必要があります。小さな画像ではビットレートが低めでも、あまり気になりません。画面03はサイズを小さくするごとに最適のビットレート(画像が荒れる直前)で書き出したもの。1080pで出力する場合と720p場合、ビットレートは2倍以上の差が出るし、720×405の場合はもっと低いビットレートでカバーできる。240pの場合は500kbpsまでビットレートを落としても、充分な見え方でした。

つまりファイルサイズを抑えるためには、フレームサイズを小さくするだけでは意味がなく、小さくしたサイズに対して最適のビットレートを選択する必要があるのです。インタビュー動画などをWebサイトなどで小さく表示する場合は、240pというサイズもよく使われますが、実はこれに高いビットレートを充てても、ファイルサイズが大きくなるだけで、画像の品質にそれほど変化はありません。

また必要充分なビットレートは画像の内容によっても違い、全編激しい動きのあるダンスなどの動画を720pで出力したい場合は、10000kbps以上が要求されます。

 
1000kbps
2000kbps


動きが遅いシーン

img_products_dslr_nofear10_07.jpg
img_products_dslr_nofear10_08.jpg


動きが速いシーン

img_products_dslr_nofear10_09.jpg
img_products_dslr_nofear10_10.jpg
被写体の動きでも必要ビットレートは変わる
上の画像は同じ動画で、インタビュー撮影のようなほぼ動きのないシーンから、急にモデルに首を激しく動かしてもらった。動きのないシーン(上段)では1000kbpsでも画質はさほど変わりはないが、モデルが動くと、途端に画像にノイズは発生する。そこで2000kbpsまでビットレートを引き上げると、そこそこ綺麗な動きになった。

実際の多くの動画では、速い動きと遅い動き、空間周波数が高いシーン、低いシーンが入り混じっており、「ビットレートは4000kbpsあればOK!」なんて断言できるシーケンスは存在しません。絵柄、動きのスピード、画面サイズの要素が組み合わされてはじめて「最適」なビットレートが割り出せます。高いビットレートを割り当ててしまえば、全シーンで綺麗な仕上がりになりますが、それではとんでもないデータ量になってしまいます。

そのため動画のエンコード(圧縮)には「可変ビットレート」という方式が用意されています。たとえば動きの少ないシーンの映像には2000kbps、動きが激しく背景も細かい部分は12000bkbpsという感じで、ソフトウェアがシーンの複雑さに応じて、ビットレートを割り当てる方式です。1パス方式では急な画面転換に追従しきれず、想定した品質が得られない場合があるので、画像の内容によっては2パス、あるいはマルチパス方式でエンコードします。

これは一度、動画全体をスキャンして、シーンに応じた最適なビットレートを計算して割り当てるので、エンコードに時間はかかりますが、全体の仕上がり精度が高い割に、ファイルサイズは充分に小さくするという離れ業をやってのけるのです。

この際、「ターゲットビットレート」と「最大ビットレート」を求められる場合があります。ターゲットビットレートは使用するビットレートの平均値。Final Cut Pro XやCompressor 4は、最大ビットレートの指定しかなく、平均ビットレートはアプリケーション内部で演算しているようです。

最大ビットレートやターゲットビットレートの感覚を掴むには、今回の実験と同様なことを自分が書き出したい動画でやってみることです。実際に書き出しに必要なフレームサイズを指定して、一番動きが速いシーンと通常のシーン(その動画で最も頻繁なシーン)を、それぞれいくつかのビットレートで書き出してみるのです。尺は10秒もあれば充分。フレームサイズにも依りますが、720pの場合、普通の動きのシーンを500、1000、2000、4000kbpsで、動きが激しい部分は5000、10000、20000、30000kbpsでいいでしょう。

書き出した画像をそれぞれ確認して、充分な品質で再現されたビットレートに少し余裕を持たせて、ターゲットビットレート、最大ビットレートを設定すればよいのです。

鹿野宏 Hiroshi Shikano

デジタルカメラの黎明期からほとんどの一眼レフタイプのデジタルカメラを遍歴。電塾塾長としてデジタルフォトに関する数多くのセミナーを開催。カラーマネージメントセミナーも多い。写真撮影では2億画素の巨大な画像を扱い、2009年から動画撮影をスタート。WEB上の動画、デジタルサイネージ、社内教育用などの「ミニマル動画」を中心に活動している。

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