2013年07月30日
前回、動画の照明で手軽に用意できる理想的な光源として、筆者がハロゲンランプを選択したこと、ランプにはクリア/フロスト/ブルーの3種類のバルブが存在していることを書きました。筆者は点光源としても、面光源に拡散させても美しいフロストバルブをメインに使用していますが、今回はその「ハロゲンランプの光をどのようにコントロールしていくか」がテーマです。
「Light Modifiers」という言葉をご存じでしょうか。NAPP(全米Photoshopプロフェッショナル協会)会長であるスコット・ケルビー氏の著書「Light It, Shoot It, Retouch It」(電塾塾長 早川廣行氏の監修で日本語版も発売予定)の中で使われている言葉で、光をコントロール(モディファイ)する装置を指しているようです。光の質を目的に応じて「修正」「変更」する。これは私たちフォトグラファーがもっとも得意とする「ライティングを行なうこと」そのものではないでしょうか? 光をあてる距離や方向も重要ですが、拡散させる、集光させる、拡散させつつ芯のある光を作る この「Light Modify」こそが、フォトグラファーの「ライティングの本質」だと思っています。
簡単に大きな面光源を得ることができるアクセサリーに、アンブレラがあります。しかしアンブレラは、これまで動画の世界でほとんど使われてきませんでした。確かにパンやチルトを多用する映画などでは、かなり遠くからの照明になるので、アンブレラくらいの大きさがあっても「ほとんど点光源と一緒」になってしまい、あまり意味がなかったのでしょう。
ストロボヘッドをハロゲン用に改造
建築写真撮影に使用するハロゲンランプの補助光として10年くらい前に制作したものだが、現在は動画用の光源として活躍。だいぶ使い込んでいるので、形がいびつ
。バルブは150ワットから500ワットまで取り付け可能。元がストロボヘッドなので、アンブレラなどのストロボアクセサリーが使える。
しかし、スチルフォトグラファーにとってアンブレラは、いかようにも光質を変化させることができる「馴染みの」万能ツールです。何より「広げて」ヘッドに「差したら」セット完了という手軽さ。コンパクトなので、かなり狭い場所にも仕込むことができます。
ところがハロゲンランプを光源とした灯体で、アンブレラを差し込める都合のよい製品が、この世の中にはほとんど存在しません。そこで筆者は古くなったストロボのヘッドからストロボ発光部とトリガー回路、ファンなどを取り払い、E11の口金を残し、充分な太さの電源コードを接続したものを自作しました(ストロボヘッドを改良せずとも、そのままモデリングランプを点灯させてもよいのですが、あのジェネレーターや太いケーブルがジャマです)。
アンブレラの扱い方はスチルフォトグラファーなら、今更解説する必要はないでしょう。でも最近面白いアンブレラを見つけ、動画撮影でもストロボ撮影でも使用しているので、ご紹介したいと思います。
通常、光源の面積を広げたければ、複数台のアンブレラを並べる、大きなトレペを張り巡らすなどで対応してきました。私はその作業を効率化するために巨大なアンブレラを探していましたが、最近やっと見つけたのが、アメリカのPaul C Buff社の製品です(中国製造。プロペットでお馴染みのプロテックス社が通販で販売しています。http://www.protex-shop.com/)。
右:ソフトシルバーM
左:ホワイトL(レフ板代わり)
モデル目線のセッティング
自作ハロゲンランプヘッドとPaul C Buffのアンブレラでライティング。ソフトシルバーMをメイン光に、ホワイトLはその大きさを活かして、レフ板として使用してみた。
特徴はとてもしなやかで強いグラスファイバーの骨を贅沢に16本も使った仕様(だから大きくできたのでしょう)。中央の心棒を短めにカットしてあるため、思い切り被写体に接近させても安心です(実はこれまでは自分で心棒をカットしていました)。
大きさは直径189cmのLを初め、M:142cm、S:112cmの3種類。反射率が高く集光効果がある「シルバー」と、柔らかめの光を作る「ソフトシルバー」、さらに「ホワイト」と呼ばれるトランスルーセントタイプの3種類の材質が用意されています(ソフトシルバーを例にとると、なんとLが11,550円、Mが8,400円、Sが6,825円と格安です)。
トランスルーセントタイプは傘の外側に、「ブラックアウターカバー」というカバーを装着することで、通常のホワイトアンブレラとして使用できる他、前面に「ブラックフロントカバー」をつけると、透過光の傘型バンクライトのようにも使用できます。また、ちょっと邪道な使い方ですが、Lサイズの巨大なアンブレラは、それだけで充分なレフ板にもなってしまいます。
ここまでのLight Modifyを提供するアンブレラはなかなかありません(昔はシルバーのアンブレラが少数存在していましたが )。特にM、Lを使用した時に「この大きな面光源を得るために、これまでどれだけ苦労したことか」「この大きな面光源を短時間で、しかも一人で構築するのはムリだった」と、つくづく思うのです。目的に応じて4種類の材質を選択することで光質を変化させ、3種類のサイズで光の周り方を自在にコントロール。動画に限らず静止画でも、このアンブレラは私たちにLight Modifyを提供してくれそうです。
もう一つの恩恵はこれだけの機材が皆、コンパクトにたためることでしょう。都内での撮影は電車で移動する筆者にとって、これも大きなメリットです。
Paul C Buffのアンブレラホワイト+アウターカバー:半透明の傘のため、通常はアウターカバーを付けて使用。拡散効果が高く、柔らかな光。最近のデジタルカメラのダイナミックレンジを考えると、場合によっては柔らかすぎると感じるかもしれない。ハロゲンランプの色温度はほぼ変化しない。Mサイズ使用(以下同)。
ホワイト逆使い+フロントカバー:拡散した中にも光の芯が存在し、効率も思ったほど悪くない。色温度が20ケルビンほど下がる。シルバーと併用した場合、40ケルビンほど色温度の差があるが、許容範囲内だろう。 灯体が隠れるため、瞳への映り込みが綺麗。 この光質は気に入ったので、今後、使うことが多くなりそう。
シルバー:強い集光効果があり堅い光。傘面よりも1メートル付近に集光し周辺は暗くなる。中央部を浮き立たせる印象的なライティング、タッチライト、エフェクトライトなどに最適。20ケルビンほど色温度が上昇する。
ソフトシルバー:反射効率が結構高い割に、光はそこそこ柔らかく充分に拡散している。メリハリを持ったメインライトとして多くのシーンで使える。このくらいコントラストがある方が、メインライトとしては使いやすいと感じた。色温度は10ケルビンほど上昇する。
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鹿野宏 Hiroshi Shikano
デジタルカメラの黎明期からほとんどの一眼レフタイプのデジタルカメラを遍歴。電塾塾長としてデジタルフォトに関する数多くのセミナーを開催。カラーマネージメントセミナーも多い。写真撮影では2億画素の巨大な画像を扱い、2009年から動画撮影をスタート。WEB上の動画、デジタルサイネージ、社内教育用などの「ミニマル動画」を中心に活動している。
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