2012年06月26日
連載の第1回目に私のカメラバッグの中身を披露しましたが、単焦点レンズが多く入っていたことをご記憶されているでしょうか? 一眼ムービー用レンズとして、私が単焦点のMFレンズにこだわる理由を紹介しましょう。
動画は16:9という画角に依存しますが、人物のアップを横位置で撮ることが多くあります。人物を浮き上がらせたいのに、横長のせいで人物の周囲に色々な物が入ってしまうと、画面がうるさくてしょうがありません。そんな時に重宝するのは、被写界深度が浅いレンズ、それも古い設計のレンズです。
古い設計のレンズの中には「中心の解像力」しか考えられていなくて、MTF曲線なんてどうでもよくて、「ピントが合っている部分だけが浮かび上がるような絵作り」で設計されたレンズがあります。何でもぼかせばよいというものではありませんが、これは有効な方法論です。これまで私は解像力を重視してきました(普通、スチルフォトグラファー、特に商品撮影では高解像画素で撮影するため、隅々まで高い解像力をレンズに要求します)。立体的な空間を演出することをレンズに求めていませんでした。しかし、動画を撮るとわかるのですが、欲しいのは「高解像感」などではなくて、「立体感」や「空間感」であることが多いのです。
オートフォーカス用に設計されたレンズは、往々にして動画では使いにくいことが多い。高速でピントを合わせるために、レンズの回転角が小さく滑らかなピント送りが難しい。そして音がうるさい。特に同録の場合、オートフォーカスは禁物です。「静止画」ならばよいのですが、フォーカスアウトやフォーカスイン、現場の音声も映像の一部である動画の場合は、これらがデメリットになります。
さらに動画の16:9の画角は、35mm一眼レフ用レンズの画角よりもちょっと広いパノラマです。そうなるとパノラマらしい風景を撮影するために、超広角レンズが欲しい。動画用のレンズで超広角はほとんど存在しませんが、一眼レフで撮るなら、APS-Cサイズのセンサでも使用できる超広角レンズが山ほどあります。超広角レンズを用意しておけば、パンニングの必要に迫られるシーンが減ります。
私が感じたレンズに必要な条件をまとめると、超広角を除いて、以下のようになります。
1.ピントリングの回転角が大きく滑らかに動作すること。
2.開放F値が明るいこと。シャッタースピードに1/30秒以下が存在しない動画の世界では重要なことです。
3.ピントがピーキーなレンズ、空気感を演出してくれるレンズは、人物のアップ気味の撮影で威力を発揮します。
4.絞りが円形に近いことも重要。とにかく綺麗にぼけてくれないことには話になりません。
フォクトレンダー4兄弟
フォクトレンダー35mm一眼レフ用レンズ。左上から時計回りに「APO-LANTHAR 90mm F3.5 SLⅡ Close Focus」、 「NOKTON 58mm F1.4 SLⅡ(topcor)」、「ULTRON 40mm F2 Ⅱ Aspherical(ツアイス)」「COLOR-SKOPAR 20mm F3.5 SLⅡ Aspherical」。
現在、私が使っているレンズはコシナが提供しているフォクトレンダーのレンズです。皆、9枚羽根の絞りを採用し、あまりマニアックにならず、確実に手に入れることができる。さらに購入しやすい値段というのも魅力です。
ULTRON 40mm
ピントが合った狭い部分はシャープ、周辺は良い感じでぼけてくれる。
私が最初に出合ったのは「ULTRON 40mm F2Ⅱ Aspherical (ツアイス)」でした。このレンズでフォクトレンダーにハマりました。
見た目はパンケーキタイプなのに、かなり寄れるし、綺麗な変形[ガウス]タイプで癖がなく、柔らか。特に開放のピントのピーキーさとぼけ味は特筆物です。このレンズと出合ったおかげで、動画撮影に自信が持てたと言っても過言ではありません。カメラに付けてもほとんど目立たないスタイルは相手に威圧感を与えません。引きがない場合でも、背景をぼかせるのが魅力です。
NOKTON 58mm
開放でとても滑らかなぼけ味が魅力。
次に購入したのが 「NOKTON 58mm F1. 4 SLⅡ(topcor)」。ノクトンはF1.5よりも明るいレンズにつけられる名称だそうです。
開放時のとても滑らかなぼけ味が魅力。絞るとそこそこにシャープで、使い回しが利きます。特にAPS-Cサイズのセンサで撮影している時は、85ミリに近い画角になり、取り回しがしやすい。このレンズも大活躍しています。というか初期の仕事はほとんどこの2本で撮影していました。
COLOR-SKOPAR 20mm
動画用広角としてちょうどいい焦点距離。室内撮影には重宝する。
続けて手に入れたのが「COLOR-SKOPAR 20mm F3.5 SLⅡ Aspherical」。動画用広角としては、扱いやすい焦点距離の広角レンズです。
被写界深度が深く「F8に絞って おおざっぱに1.2メートルにピントを合わせると、ほとんどの室内が間違いなく撮影できる」「APS-Cサイズだと30ミリという画角で、室内で振り回すにはもってこい」「いざという時は F3.5まで絞りを開いても何とかなる」という素晴らしい特性も持ったレンズで、とても重宝しています。
APO-LANTHAR 90mm
ピントがピーキーでアップめのポートレイトで立体感のある絵作りができる。
最後に購入したのが 「APO-LANTHAR 90mm F3.5 SLⅡ Close Focus」。「ベッサⅡ」に搭載されたアポクロマート系のレンズ。色収差が少ないのが特徴。
これもピントがピーキーで立体感にあふれた絵を提供してくれます。特にポートレイト風の動画を撮る時に、これで参ってしまいました! ただ、APS-Cサイズで使用すると画角は135ミリになり、使用できるシーンが室内では限られる場合があります。逆に屋外では物足りないかな? 残念なことにもう生産終了になってしまいましたので、欲しい方は急いだ方がよいと思います。
以上が私の愛用する「フォクトレンダー4兄弟」。このシリーズ、どれも4万円前後で購入できます。一度使ってみると、やみつきになること、請け合いです。最近はスチルのイメージフォトでもこのレンズを使うようになってしまいました。「写真が良くなったね?」って言われる事もあります 「いえ、レンズが良いんです」とは口が裂けても言いませんが 。
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鹿野宏 Hiroshi Shikano
デジタルカメラの黎明期からほとんどの一眼レフタイプのデジタルカメラを遍歴。電塾塾長としてデジタルフォトに関する数多くのセミナーを開催。カラーマネージメントセミナーも多い。写真撮影では2億画素の巨大な画像を扱い、2009年から動画撮影をスタート。WEB上の動画、デジタルサイネージ、社内教育用などの「ミニマル動画」を中心に活動している。
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