一眼ムービーなんて怖くない!

動画でも静止画でも「もう手放せない」Kaniフィルター

解説:鹿野宏

動画撮影でよく困るのが、画面の中で輝度に大きな差があるシーン。1〜2カットのスチル写真であれば異なる露出で複数枚の写真を撮影して合成するとか、RAWで撮るといった手が使えますが、動画の場合、Logで撮影してグレーディングで調整というのがメインの対応策。最近になってやっとRAW動画撮影可能なカメラも登場しましたが、新しいカメラを追加するというのはそう簡単にはできませんし、いずれにせよ手間暇がかかる作業であることに変わりはありません。

よく考えられた構造のフィルターホルダー

img_products_dslr_nofear77_01.jpg ソニーのレンズFE 16-35mm F4 ZA OSSに「HTⅡ100mm Holder」と円偏光フィルターをつけた状態。円偏光フィルターはホルダーの一番レンズに近い位置に抱え込むようにセットされるので、ホルダー部分とは独立して回転させることが可能。
img_products_dslr_nofear77_02.jpg ホルダーにハーフトーンフィルター「Dual Purpose GND100×150mm」を装着した状態。フィルター角度の回転に加えて、グラデーション幅の方向にスライドできるので、必要な箇所のみ減光できる。

そこで活躍するのが光学フィルター。このKaniフィルターは発売されてから時間が経っていますが、意外とご存知ない方もいらっしゃるので紹介します。風景写真用に開発された光学フィルターとホルダーのセットで、円偏光フィルターと3枚までの四角い強化ガラス製フィルターをホルダーに装着。ステップアップリングを介して色々な口径のレンズにつけることも可能です。

可視光透過率が素晴らしく高いのですが、その理由は光学ガラスにドイツ製B270を採用し、両面超精密研磨で高い平坦精度を担保してるため。またグラデーションのコーティングも16回、重ねているということで、NDも精度もなめらかな変化を実現しており、空のグラデーション撮影などで使用してみると一目瞭然。NDフィルターにありがちな無彩色部分に青みが乗ることもなく、自然な仕上がりです。

素材がガラスということで、扱いには注意が必要と思っていましたが、指紋がついても通常の布で拭き取って傷がつかないほどコーティングが強く、油汚れなどもすぐに拭き取れてしまいます。自前で購入したものなので怖くて実験はしていませんが、強化ガラスなのでちょっとやそっとのことでは割れないということでした。

円偏光フィルター+最大3枚の角フィルター

img_products_dslr_nofear77_03.jpg 円偏光フィルター+「Dual Purpose GND 100×150mm」+「ND1000 100×100mm」を重ねている。角フィルターは最大で3枚まで装着可能。これまでフィルターを重ねて使うのは極力避けていたが、Kaniフィルターは色味の変化が小さいし、透明部分の透過率が高いので3枚程度重ねても充分に使える。
img_products_dslr_nofear77_04.jpg 「Dual Purpose GND 100×150mm」。2.5絞り程度の減光のため自然な仕上がりが期待できる。最初の1枚にオススメ。さらに「Soft GND」と組み合わせると用途は無限に広がる。

Kaniフィルターの最大の特徴は輝度比の異なる部分の露出を光学的にコントロールできるグラデーションフィルターの種類が豊富で、高品質なことにつきます。フィルター1枚でも、ほぼやりたいことを叶えてくれますし、複数のグラデーションフィルターとNDフィルターを組み合わせてさらに効果を強調することも可能です。

NDフィルターは日中絞り開放で撮影したい時の必須アイテムといってもいいでしょう。筆者もこれまではターゲットになる絞り値に応じてND8、ND16と夜の雰囲気を出すためにND400のレンズフィルターを、使用するレンズの口径分揃えていましたが、Kaniフィルターならホルダー方式。レンズ口径の違いはステップアップリングで対応できるので、機材をコンパクトにできるし、金額的にもメリットがあります。

超広角の俗に言う「出目金レンズ」が自由に使えることものメリットの一つです。特に超広角撮影こそ写る範囲が広いので、ダイナミックレンジが大きくなりやすく、フィルターワークが必要。Kaniフィルターの150mmバージョンにはフードごと包み込むように装着するアダプターが用意されていますので、「出目金レンズ」であっても自由なフィルターワークが可能です。このアダプターは各社の巨大なレンズ用に数多く取り揃えられています。

と言うわけで、筆者にとってKaniフィルターは動画撮影時も静止画撮影時も手放せない機材となってしまいました。最後にこれまで使用してきて気がついた注意点を。

まず大きい角フィルターをレンズ前につけた場合、風の影響を受けやすいのは事実。長時間露光時、動画撮影時にはそれなりの三脚に載せる必要があります。またガラスフィルターなので真横から強い光が入ると、ハレーションを起こすこともありえます。そのためシーンによっては遮光幕を取り付けます(オプションでも用意されている)。フィルターホルダーにはレンズフードのオプションがないため、フードをつけたい場合は何かしら自作する必要があります。

動画もフィルターを使ってドラマチックな表現


地面を適正露光〜やや明るめに設定して地上の埴輪の列を撮影。フィルターなしだと晴れの空が白っぽくなるが、露出はそのままで「Dual Purpose GND」のソフト側を画面中央付近に適用。空と地平線上の雲をグラデーションで落とすと急にダイナミックな仕上がりになった。画面下1/4の埴輪が並ぶ部分はフィルターの透明部分になるが、可視光透過率が高いため、ノンフィルターのデータと比較してみても、その差は全く感じられなかった。

画面下が濃くなるグラデーション。星景写真で地上の光を落とすために使われる手法。

※この記事はコマーシャル・フォト2020年6月号から転載しています。


鹿野宏 Hiroshi Shikano

デジタルカメラの黎明期からほとんどの一眼レフタイプのデジタルカメラを遍歴。電塾塾長としてデジタルフォトに関する数多くのセミナーを開催。カラーマネージメントセミナーも多い。写真撮影では2億画素の巨大な画像を扱い、2009年から動画撮影をスタート。WEB上の動画、デジタルサイネージ、社内教育用などの「ミニマル動画」を中心に活動している。

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