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第6回 動画撮影に適した光源とライティングを考える

解説:鹿野宏

これまで「静止した写真」を撮影してきたフォトグラファーにとって戸惑うのは光源です。

ストロボという驚くほど静止画に特化した光源は他に類を見ないでしょう。ピークだけを見るとほとんどのカメラのシャッター速度よりも短い間隔で発光し、しかも理想的な光質を持っています。どれだけ私たちフォトグラファーは、この光源の恩恵を受けてきたことでしょう。特に銀塩フィルムやデジタルカメラの感度が低かった時代には、巨大な瞬間光量を与えてくれ、なおかつ何百カットの撮影にも追いついてきてくれた素晴らしい光源でした。それが動画の世界では一切使えない。ここに来て、私たちは新しい光源を模索する必要が出てきたのです。

と言っても、世の中に全く新しい光源というのはありません。理想的な光源である太陽光を別にすれば、後は人工光であるタングステンランプ、蛍光灯、LEDライト、そしてHMI(メタルハライドランプ)などが対象となります。どれも今の時代の生活に使いやすい光源です。

ところが、「どの光源が動画撮影に適しているのだろう」という視点で考えてみると、意外と選択肢が少ないのに気がつきます。

私はハロゲンランプを動画の光源に選択しました。その理由を今回は考察したいと思います。題して「動画撮影に適した光源とライティングを考える」。このテーマは2回のスパンでお送りします。

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ハロゲンランプの種類
右奥がフロストバルブ、中央がクリアバルブ、左手前がブルーバルブ。クリアバルブは明るく、光も強いが、光質は硬くフィラメントの影がムラを作ってしまう。フロスト(梨地)加工されていれば、光の強さはやや落ちるが、点光源でありながらムラの少ない光を得ることができる。ブルーバルブは色温度が3400ケルビンと、普通のクリアバルブに比べてかなり高い。ランプの種類も75W〜500Wぐらいまであって、これだけ出力差があれば、照明比をかなり自由にコントロールできる。

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クリアバルブ。中心部がかなり明るくフィラメントの影がでている。
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フロストバルブ。クリアバルブよりも光が均一に拡散している。

ハロゲンランプを選ぶ理由は、まず光源の問題。蛍光灯でも高演色タイプのものを選ぶと、そこそこの光を得ることができますが、基本的に棒状の「線光源」です。これを並べることで面光源を構成できますが、ディフューズが必須で、筐体も大きく重くなります。

逆に点光源を作ることは難しい。また発光部が大きくて割れやすいので、取り扱いに不便な点もあります。最近はカメラの高感度化でかなり改善されましたが、「光量不足」なのは相変わらずです。

HMI(メタルハライドランプ)の光質はストロボに似て理想的ですが、「ライトを向ける方向に制約がある」「かなりの熱を発生する」「バラストの音が大きくて同録には不向き」などの問題が多くありました。しかしプロフォトから発売されたProDaylight 800 Airなど、最近では使いやすく、バラストの駆動音が静かな製品も出はじめました。最後に残った問題は、価格と大きさと重さです。

ハロゲンランプを選択した理由はいくつかあります。色温度が低い点を除けば、きれいなスペクトルを持っていること。タングステンランプよりは色温度が高いこと(タングステンが通常2760ケルビンであるのに対して、ハロゲンは約2950ケルビン)。

さらに安定器やパワーユニットなどを必要とせず、灯体単体で使用できること。比較的コンパクトで軽いこと、ワット数の異なるランプを付け替えることで、簡単にパワーコントロールができることも魅力です。

ここでハロゲンランプとタングステンランプの違いを簡単に解説しましょう。

タングステンランプは私たちが知っているいわゆる「白熱電球」に代表されます。ハロゲンランプも原理は同じです。使われているフィラメントにも基本的に差はありません。ただし管内部に封入されたハロゲンの化学反応により、一度昇華したフィラメントのタングステンを、再びフィラメントに戻すので(ハロゲンサイクルと言います)、フィラメントが長持ち。フィラメントの温度が高いため一般のタングステン電球よりも明るく、色温度も高い。しかもコンパクトという素晴らしい性質を持っています。

また取り回しが容易なので、ストロボ用のアクセサリーを活用できることも大きな魅力です。特にアンブレラを活用したい場合、その「工作」が容易です。極端な話、通常のストロボヘッドには「E-11」タイプの口金が付いているので、不要な発光管やトリガー回路を外して、充分な太さの電源ケーブルを接続すれば、それで完成。私は壊れて使えなくなってしまったストロボを改造して、使用しています。

欠点はやはり「熱いこと」でしょう。冬場は歓迎されますが、夏場は嫌がられます。そして色温度が低いため、他の光源(特に自然光)と一緒に使用しにくいのも欠点ですが、最近はブルーコーティングをしてかなり色温度を高めに設定したランプも用意されています。

「発熱」と「太陽光源や蛍光灯と併用できない」点を除けば軽くて色彩はきれいで、扱いやすい光源です。

という訳で、次回は私がやっているストロボヘッドの改造、ハロゲンランプ+ストロボ用アクセサリーを使ったライティングを具体的に紹介していきたいと思います。


作例撮影はニコンD7000を使用。共通設定はISO400、絞りF4、カメラ設定はスタンダード。
ホワイトバランスは撮影時にグレイカードを使用して設定。撮影後にさらにグレイ点を追い込んで調整。

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シャッター速度:1/40秒
色温度:2650ケルビン

ハロゲンランプの光質
ハロゲンランプの波形(背景の薄いグラフが太陽光の波形)。ブルーの成分は少ないが、なだらかに繋がる連続波長。近赤外側にも多くのエネルギーを持っているため、人物の肌色描写にも最適だ。実際の作例でも、オレンジやグリーンに濁りがない。色相のグラデーションもきれいだ。多少のカラーコレクションを行なっても問題ない強さを持っている。

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シャッター速度:1/60秒
色温度:5560ケルビン

三波調タイプの蛍光灯の光質
三波調タイプの蛍光灯の波形。実際は7波長くらいにピークを増やして演色性を高めてはいるが、所々ゼロに近い波長が存在する。色温度は5560度と高めだが、露出を合わせるとトマトや玉ネギが暗く濁り、バナナはグリーンに転んでいる。

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シャッター速度:1/15秒
色温度:3500ケルビン

LEDの光質
多くのLEDはブルーの光源にイエローをかぶせただけなので、波形を見ると、ブルーグリーンとレッド、マゼンタの要素がほとんどない。この波形では人物撮影には適さない。作例が思ったよりも健闘しているのは、D7000が優秀なのか…。しかしやはり赤やオレンジが濁っている。イエローのフィルターがあるせいか、バナナの発色はそこそこに仕上がっている。

鹿野宏 Hiroshi Shikano

デジタルカメラの黎明期からほとんどの一眼レフタイプのデジタルカメラを遍歴。電塾塾長としてデジタルフォトに関する数多くのセミナーを開催。カラーマネージメントセミナーも多い。写真撮影では2億画素の巨大な画像を扱い、2009年から動画撮影をスタート。WEB上の動画、デジタルサイネージ、社内教育用などの「ミニマル動画」を中心に活動している。

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