2015年02月20日
デジタルフォトの場合、よりフィルムっぽく仕上げるのに、「仕上げの調味料」としてノイズをかけることがあります。フィルムの粒状感を再現するためですが、最近ではNIK製のフィルムシミュレーションソフトなどもあり便利です。ただ、動画に関しては同様のことが、なかなかできない(ある程度のノイズは、ほとんどのアプリケーションに用意されてはいますが )。そんな中で依頼された動画が「映画のように仕上げて欲しい」というリクエストでした。露光に関しては「ハイライトを寝かせて」「コントラストを落とし気味」で撮影したのですが、いまいち「シネマ」感を醸し出せません。そこで出合ったのが「filmconvert」というソフトウェアです。
映画用だけでなく、写真用フィルムやなぜかポラロイドまでシミュレーション
FUJI ETERNA 250D風
富士フイルムの製造終了となった映画用カラーネガETERNA風。ハイライトを寝かしてシャドーがやや持ち上がったレンジ設定。
FUJICOLOR Pro160風
フジの代表的なネガカラーフィルム、プロ160。筆者もポートレイト撮影でよく使用した。実際のフィルムもむちゃくちゃカーブが寝ていた記憶がある。
KODAK Tri X 400風
これも定番、コダックのモノクロフィルム、トライX。増感しなくても粒子が荒れるというフィルム。でも、こんなにコントラストが強かったのか?
Polaroid 600風
自動現像タイプのポラロイド。眠くて茶色っぽい発色は根強い人気がある。レトロ調の映像に向きそう。グレイン200でも粒状感は少なく滑らか。
この「filmconvert」は、デジタルで撮影された動画に対して、過去のフィルムで撮影したかのような効果を与えることに特化したアプリケーションです。
スタンドアローンでも動作しますが、Final Cut Pro X、Adobe Premiere Pro、DaVinci Resolveなどをはじめ、多くの編集ソフト用のプラグインが用意されています。
単にフィルムグレインのノイズ感を加えるだけでなく、元々の撮影データの特性を踏まえた上で、ターゲットとしたフィルムの色味への調整もしてくれます。映画用のカラーネガフィルムの場合は、ハイライトを寝かしてシャドーがやや持ち上がったレンジ設定になりますし、写真用フィルムのシミュレーションも可能で、コントラストが強めの「ベルビア風」を選択すると、シャドーが切れた強い表情を醸し出します。対応するカメラはニコン、キヤノン、ソニー、Blackmagic designをはじめ、ARRI、RED、GoProなどのメーカーを選択できます。使用したいカメラがない場合「その他」という項目が用意されています。
仕上げのターゲットとなるのは、基本的にシネマ用のネガフィルムで、コダックとフジの映画用フィルムの特性が最初に並んでいます。シネマ用フィルムは、ちゃんとロールを入れる「缶」のアイコンが表示されます。デイライトタイプの「KD 5207 Vis3」(KODAK VISION 3風)/「FUJI 8563 RL」(FUJI ETARNA風)は、まさに今回の依頼で求められたトーンでした。
他に、35ミリのフジのポジフィルムや、各社のモノクロフィルムをシミュレーションも可能です。この場合はアイコンが35ミリのパトローネに変更されます(ここに力を入れなくてもいいんだけど はまってしまう)。
おまけとして自動現像タイプのポラロイド600が用意されています。どこで使うのかな と思いながら、ついついいろんな画像を変換して遊んでしまいました 。でも、何でコダクロームやエクタクロームはないんだろう?
「filmconvert」の画面、操作は至って簡単
上が「filmconvert」画面(単体で立ち上げた状態)。「KD 5207 Vis3」(コダックの映画用デイライトフィルムVISION 3風)を選び、わかりやすいように、フィルムサイズ「Super 8」、グレイン設定200で、強めのノイズ(粒状感)をかけてみた。
左の画面がターゲットフィルム選択のプルダウン。コダック、フジの映画用フィルムを筆頭に、カラーポジ、モノクロ、カラーネガが並ぶ。
上記サイトより購入可能。スタンドアローン版が$199。
使い方は至って簡単。簡単すぎてあきれるくらいです。最初に撮影したカメラを選択し、露出、色温度を合わせます(合わせなくてもいいように思えました)。目的のフィルムターゲットを選択、必要なら色味とカーブを調整します。基本的に100が目標値で0が元の色彩。スライダを好みの位置に合わせればいいだけです。
フィルムサイズは8ミリから35ミリフルサイズまで選択可能。ここで粒子の大きさを指定します。8ミリは粒子が大きく、35ミリは小さくなります。グレインのスライダでは粒子の出方を調整できます。
さらにハイライト、中間調、シャドー側のカラーホイールと彩度スライダが用意されています。気に入った設定はプリセットとして登録しておくことも可能です。
昔のフィルムっぽさを出すだけでなく、このソフトを使うことによる大きな恩恵があります。それはバンディングを目立たなくすること。どうしてもIPB形式の動画圧縮は、滑らかかつ幅の広い階調が変化していく時などに、派手なバンディングが発生します。そこで「filmconvert」を使用してノイズをほんの少しかけると、かなりバンディングを抑制することが可能なのです。もちろんノイズを発生させることとトレードオフですが、筆者はバンディングを起こすくらいならノイズがある方を選択します。もちろん「雰囲気に合うこと」が大前提ですが 。ガンマカーブや色調はキャンセルして、ノイズだけをあてがうことも可能です。
ただし問題もあります。それはファイル容量です。ノイズを追加することは、イコール容量を増大させることになります。筆者のテストでは平均的なノイズをかけたときに容量が約2倍。200%のノイズ(グレイン200設定)をかけると、さらに8倍に跳ね上がりました。シャープネスを追加するとなんと35倍にもなります。あまりノイズをかけ過ぎると、場合によってはビットレートを落とす必要も出てくるでしょう。このあたりの「塩梅」をわきまえることが、このソフトの使い方のポイントになりそうです。
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鹿野宏 Hiroshi Shikano
デジタルカメラの黎明期からほとんどの一眼レフタイプのデジタルカメラを遍歴。電塾塾長としてデジタルフォトに関する数多くのセミナーを開催。カラーマネージメントセミナーも多い。写真撮影では2億画素の巨大な画像を扱い、2009年から動画撮影をスタート。WEB上の動画、デジタルサイネージ、社内教育用などの「ミニマル動画」を中心に活動している。
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