2013年02月07日
私たちスチルフォトグラファーは、「平面の絵」については長く経験を積んできているため、それが動いていたとしてもそれなりに対応できます。機材や照明装置もこれまでのものをうまく流用して撮影できます。ただ音楽、音声、効果音に関しては、ほとんどの人が素人だと思います(フォトグラファーであり、オーディオマニアで、しかも過去に「デンスケ」を持って生録した経験もあり、現場録音にも精通し、古今東西のあらゆる音楽に対して造詣が深い と言うスーパーマンのような方を除いて)。
私も映像にかぶせる「音楽」に関してはとても苦労しています。音の世界も「著作権」はあり、それは遵守するべきです。そのため多くの場合「フリー素材で良いよ」とクライアントに指示されますが、フリー素材ですんなり決まった試しはあまりありません。「これ、聞いたことある」ですし、「あの映像と同じじゃん」と言われます。フリー素材ですから当然ですね。
「もうちょっとテンポの良い曲を」「ギターバッキングで軽やかな感じが」 とリクエストには「きり」がありません。そのため素材を探し回り、ストックしておく必要がありますが、リクエストがピンポイントな場合は、どれだけフリー素材を探しても納得してもらえない場合があります。しかし、動画のお仕事で「編集」まで受けてしまった場合は、それも「こちらの責任」なのです。
Final Cut Studioが持つ多様かつ品質が高い音源には、ずいぶんと助けられましたが、にっちもさっちもいかなくなった時に、私は知り合いの作曲家に無理矢理お願いをしました。仕上がりの印象とテンポを伝えただけですが、クライアントも一発で「全てOK」。音に関してだけではなく、これまでは少なからずあった映像部分の「手直し」さえなく、「もうこれで良いよ!」という勢いだったのです。おかげさまで、「音声、音楽、効果音の占める割合は動画の中ではとても大きい」のだと実感しました。効果的に音楽や効果音が入るかどうかで、その映像が「素敵な」映像に仕上がるか、「陳腐な」映像になり下がるかが決まってしまうのです。
私の揃えた音声関連機材 ❶
RODE の 「VIDEOMIC」。一体型ショックマウント構造でカメラの振動音を拾いにくく、単一指向性なので、離れたインタビューの音声も明瞭に捕らえてくれる。ただし過信は禁物。大きな周辺の音や室内に充満するノイズは確実に拾ってしまう。小さな自由雲台を追加して角度を変更できるように細工してあり、カメラから離した時はストロボ用台座などでスタンドマイクに早変わり。
ニコンの純正マイク「ME-1」。小さいけれどショックマウント構造を持ち、RODE のそれには及ばないものの、バスパワー(電池不要)で駆動できるメリットは大きい。RODE 同様、ホットシューに付けられる構造になっている。単一指向性だが、それほど指向性が強くないようだ。
さらに大変なのが現場の音声、同時録音です。これもこれまで何度も失敗しました。メインとしていた音声なのに途中でマイクのバッテリーが上がってしまい、後半の音声が録れていない。マイクのバッテリーを心配していちいちスイッチを切っていたら、いざという時にスイッチの入れ忘れ(EOS7DやNikon D7000 には音声モニタの機能がないのです)。HDMIに外部モニタを接続したらそのケーブルの干渉でノイズが盛大に入る。音声が遠くてカメラの貧弱なアンプではノイズしか増幅してくれない。長いケーブルが無線の音を拾ってしまうこともありました。
現在、私は「音声が重要な場合はICレコーダーをメイン」、「音声が重要ではない時はカメラの録音機能」を使っています。なぜならカメラに同録された音声を使った方が遙かに楽だからです。ただし、ICレコーダーを使用する場合も、バックアップのため撮影する全てのカメラで音声を記録しています。当初の目的は、カット割りを繋いでいく場合、ICレコーダーで撮った音を、カメラで録音した音声のピークと合わせて、シンクロ音声の同期を取りやすくするためだったのですが、このバックアップがあったおかげでどのシーンでも問題をクリアすることができました。
そこで学習したことは、とにかく全てのカメラのマイクは「録音」状態にしておくこと。カメラにも可能な限り外付けのマイクを取り付けておくこと(カメラ内蔵のマイクより遙かにきれいに録れて、バックアップとしての品質を向上させてくれますし、カメラに付けたマイクはバックアップだけでなく「臨場感がある音」の記録にも役立ちます)。バスパワー(電源がいらないタイプ)のマイクをひとつは用意しておくこと。バッテリーを使用するマイクは新品電池を使うこと。
イベント撮影などで、ミキサーがある場合はセンターカメラに迷わずラインから直接音声を取り込むことが正解で、その後の編集がとてもやりやすくなります。
最後に、音声に関しては予算が潤沢な場合や、より鮮明に同録する必要がある場合は、専門家に任せることが正解だと思っています。音声の専門家に任せれば、私たちは撮影に専念できるんですから 。まして音声についてこれから学び、そのための機材をそろえるには、大量のお金と時間がかかります。そしてたとえ予算が限られていたとしても、いったん引き受けてしまえば、「プロの仕事」をしなくてはなりません。この事だけは肝に銘じておくべきでしょう。
私の揃えた音声関連機材 ❷
無指向性のピンマイク、オーディオテクニカの「モノラルマイクロホンAT9903」。話す本人の近くにセットする。エアコンなどを切れない場合はとても有効(無指向性でも音源に近ければ、相対的に周囲の雑音を緩和できる)。
最近のICレコーダーはとても音が綺麗。私が購入したのはパナソニック RR XR820。最高音質(PCM-48kHz)で、最大11時間録音が可能。8GBのメモリーを搭載。オーケストラでもきちんと録音できるレベルで、インタビューなどでは充分高音質。
ラインから音を取るためのアダプタ/ケーブル。ミキサーはほとんどがキャノンコネクタ。ピンジャックやフォンジャックもあるが、カメラ側はミニジャックなので、変換アダプタ、延長ケーブルも用意。
便利なのがiPadの「カチンコ」アプリ。スタート時の音とフラッシュで音声同期の心強い味方。特に「音声だけが記録される」ICレコーダーには必須。
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鹿野宏 Hiroshi Shikano
デジタルカメラの黎明期からほとんどの一眼レフタイプのデジタルカメラを遍歴。電塾塾長としてデジタルフォトに関する数多くのセミナーを開催。カラーマネージメントセミナーも多い。写真撮影では2億画素の巨大な画像を扱い、2009年から動画撮影をスタート。WEB上の動画、デジタルサイネージ、社内教育用などの「ミニマル動画」を中心に活動している。
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