一眼ムービーなんて怖くない!

第17回 一眼レフの足りない部分を補完するカメラ「LUMIX FZ200」

解説:鹿野宏

動画を撮影していると色々な要求が出てきます。「ミニマル動画」を標榜する筆者が撮影時にできるだけ避けて通っているのは、パンニングやズーミング、ピント移動等の技術的な要求がある撮影。そして長時間録画、スローモーション、広角から超望遠へのズーミング撮影など、従来の動画専用カメラの性能に依存する撮影です。

これらは動画の世界では普通に目にするもので、リクエストがあるのは当然なのですが、「1人ないしは2人程度の少人数スタッフで、デジタル一眼レフで撮影する場合に可能なこと、不可能なこと」があります。クライアントにはその点を説明し「代替案を用意して説得」することになるのですが…面白いカメラを手に入れました。

それはパナソニック「LUMIX FZ200」です。もともと講演会、セミナーなどのスナップ写真用に購入したもので、広角25mmから望遠600mm相当、開放F値がF2.8固定というレンズ一体型コンシューマ用のデジタルカメラです。

1/2.3インチという小さなセンサーサイズで1200万画素を実現するため、感度はISO800か1000あたりが限界のようですが、それでも望遠側でF2.8という明るさに助けられて、講演会の取材でもきちんと照明が当たっていれば、充分にメインカメラとして使えます(暗い会場用には未だにニコンD700をメインで使用しています)。

特に筆者が注目したのは動画機能です。もともとコンシューマ系デジタルカメラでは、スローモーションなどの動画機能が充実していることは知っていましたが、実際に使ってみて、そのスペックの高さに驚きました。筆者が目指す「ミニマル動画」の世界であれば、どうやらこのカメラは「一眼レフカメラの動画を補完するもの」として充分に活用できそうなのです。

とにかく凄いのが720pで120fps、VGA(640×480)なら240fpsのスローモーション撮影です。一眼レフの場合、最も高いフレームレートでも60fpsがほとんど。これは大きな「表現力」になり得ます。フレームレートを上げると、ややビットレートは落ちますが、筆者の場合は720pというフレームサイズで撮影することがほとんどなので、スペック的には「充分」な映像を得ることができるのです。

「LUMIX FZ200」で25mm〜600mmのズーム撮影
モデル:ゆき
img_products_dslr_nofear17_01.jpg 25mm
img_products_dslr_nofear17_02.jpg 600mm
黒い電源ボックスの横に立っているモデルから9メートルほど離れて、超広角一歩手前の25mmと超望遠の600mmという焦点距離で撮影。フォトグラファーならば、今更こんなレンズの焦点距離比較を見る必要もないだろうが、このボディサイズでこのズームは驚異的。改めて並べてみると、すさまじい画角の変化だ。小さなイメージセンサーでも600mmともなると、背景が良く“ぼけ”ている。

F2.8固定、35ミリ換算25mm〜600mm、電動ズーム使用可能というレンズ性能も、実は大きなポイントです。ズームしても明るさが変化しないことは、シャッタースピードを固定して撮影する動画の世界では「絶対条件」です。さらに望遠側が600mm相当となると、かなりのアップになりますが、スムースにズーミングするのにはそれなりの熟練がいるでしょう。それを電動ズームがサポートしくれます。また、普通、APS-Cでさえこのクラスのズームレンズを設計すると、長さで50センチオーバーになります。重さは…考えたくもありません。これを全長16センチ(携帯時は約11cm)、重量約588グラムで実現しているのです。凄いことですね。印象としては「超望遠ズームにちっさなイメージセンサーが付いている」、そんな感じです。

それだけでなく記録方式にAVCHDを選択すると、メディアの容量、あるいはバッテリー容量を制限とする長時間撮影が可能となります。通常、デジタルカメラは関税規定によって撮影時間30分、あるいはメモリカード記録4GBの制限があるのですが、FZ200には制限がなく連続した長時間録画が可能(*脚注)。この点はまさしくムービーカメラ。これで長時間の講演会などにも対応できます。

EVF(電子ビューファインダ)のため、ファインダーを覗きながら動画を撮影できる。小さなことですが、手持ち撮影をする時には、とても大きな要素です。現時点でプロ用のデジタル一眼レフにその機能はありません。カメラを額と両手の3点支持することによる安定性は、フォトグラファーなら誰しも理解しているでしょう。しかし動画となるとファインダーは一切使用できないのです。そのため三脚に取り付けるか、移動しながらの場合はステディカムなどの機材が必要になります。でもEVFならば、「ちょっとだけ手持ちで(ファインダーを覗きながら)、別アングルを撮りたい」というようなシーンでも活躍してくれます(もちろん手ぶれ補正機能の効果も大きいのですが…)。

これだけのメリットがあり価格が48,000円程度(筆者が購入した時の値段)なのは、ちょっと驚きです。形が一眼レフデジタルカメラに見えること(クライアントは1/2.3型センサーのコンシューマカメラとは思わない)、小型軽量なので、ロケに追加して持って行っても負担が増えないこと、ホットシューがあるので、静止画の撮影用のサブにもなることなど、そのほかにもメリットがあります。FZ200を「一眼レフタイプのデジタルカメラの機能を補完するカメラ」としていくつかの機能に絞って考えれば、このカメラを持っていて損はないと感じました。 

ただ、すべてのシーンをこのカメラだけで撮影できるかというと、それは違うようです。動画で記録する色彩は「ビデオカメラ」的な色です。ニコンなどの一眼レフ動画から出力される映像と色味を合わせるのが難しいため、ひとつの動画で両方のカメラも使う場合、それなりに「異なるシーン」としての使用が前提になります。

また「おいしいF値」はF2.8からF4までで、F5.6で回析現象が始まり、画像に締まりがなくなります。ほとんど開放で使用するカメラと割り切った方が良いでしょう。

スペックが高い分、書き込みには時間がかかり、高速カードの使用が必須です。バッテリーの持ちは「いまいち」で、連続撮影は可能ですが、約2時間ちょっと程度が限界のようです。しかし、なんとこのクラスでありながら外部電源が用意されているので、電源が取れる時にはお薦めします。

パナソニック「LUMIX FZ200」と「LUMIX GH3」
img_products_dslr_nofear17_03.jpg 向かって左が「FZ200」。見た目は通常の一眼レフ。しかし内蔵しているイメージセンサーはマイクロフォーザーズよりさらに3分の1小さい1/2.3インチ型なので、センサーに対しては「かなり大きなカメラ」だと言える。ズームコントロールがシャッターボタンと一体で、電源スイッチはメインダイアル側にあるなど、キヤノン、ニコンの一眼レフ使いには操作感にとまどう部分もある。右側が「GH3」。マイクロフォーサーズ(4/3インチ)のセンサーを搭載し、こちらの方が一回り大きいのだが、それでも「通常の35ミリ一眼レフ」と比較すると小さい。そしてその動画性能はニコンやキヤノンのハイエンド機を凌駕するほど。時間があればじっくり使ってみたいカメラだ。

この FZ200に出合い、これまで気にしていなかった「LUMIX GH3」というカメラが気になり出しました。同じパナソニックのマイクロフォーサーズ一眼レフで、動画性能は FZ200を凌駕しています。 MOV書き出しの場合は50〜72bps という高いビットレートを持ち、感度3200でも「普通に」撮影できそうです。動画フォーマットも細かくサポートし、色彩の仕上がりが「写真」的なことも含めると、筆者が目指す「ミニマム動画」を完結できるカメラなのかもしれません。まだ使いこなしていないので多くを語れませんが、期待できる「カメラ」を発見しました。

EU圏に輸出する際、スチルカメラは関税がかからないが、ビデオカメラは関税対象。昨今、動画撮影可能なスチルカメラも増えているが、連続撮影30分以内(もしくは連続ムービー記録4GB以内)ならば、スチルカメラと見なされるため、機能制限を設けている機種も多い。パナソニックはEU向けとそれ以外の市場向けの製造ラインを持っているらしく、国内販売のものは連続撮影30分の制限はない。

鹿野宏 Hiroshi Shikano

デジタルカメラの黎明期からほとんどの一眼レフタイプのデジタルカメラを遍歴。電塾塾長としてデジタルフォトに関する数多くのセミナーを開催。カラーマネージメントセミナーも多い。写真撮影では2億画素の巨大な画像を扱い、2009年から動画撮影をスタート。WEB上の動画、デジタルサイネージ、社内教育用などの「ミニマル動画」を中心に活動している。

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