一眼ムービーなんて怖くない!

第23回 話題のBlackmagic Pocket Cinema Cameraを使ってみた

解説:鹿野宏

Blackmagic Pocket Cinema Camera
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有効センサーサイズ:12.48mm×7.02mm/有効解像度:1920×1080/フレームレート:23.98p、24p、25p、29.97p、30p/記録:ProRes 422(HQ)、lossless CinemaDNG/レンズマウント:アクティブ方式MFT/記録メディア:リムーバブルSDXC、SDHC/サイズ:W128×H66×D38mm、355g/価格:103,800円(税別)
www.blackmagicdesign.com/jp

これまで「一眼レフタイプ」のデジタルカメラを使用した動画撮影に関して、あれこれ書いてきましたが、動画撮影では静止画よりもさらに広いダイナミックレンジが要求されることが段々とわかってきました。アングルを変えていく動画撮影では「撮影範囲が広すぎてライティングのやりようがない」状況や、「画面にいきなり明るい被写体が入ってしまう」ことがあるのです。広角レンズを使った撮影では、どうしても太陽や窓の照り返しなど突出した輝度を持つものが、画面に入り込むこともしばしばです。

静止画撮影では、そのようなシーンでもRAWで撮影をして後で補正することが可能ですが、動画のRAW撮影ができるシネマカメラとなるとやたらと値段が高く、おいそれと手が出ないものでした(通常のフォトグラファーにとっては100万円を超える機材はちょっと…)。

しかし、動画RAW撮影が可能で、価格も20万円強というブラックマジックデザイン社の「Blackmagic Cinema Camera」が登場しました(発売当初は40万円でしたが、プライスダウン!)。そして、その弟分とも言える「Blackmagic Pocket Cinema Camera」(以下BMPCC)が、なんと10万円強という価格で発表されたのです。マイクロフォーサーズレンズ対応のコンパクトなボディ、1080p HD撮影、10bit階調、13ストップという広いダイナミックレンジ(RAW撮影時)。ずっと気になっていたのですが、ついにテストすることができました。

これまで筆者は「動画も撮れるようになったデジタルスチルカメラ」を使ってきましたが、ついに「あらかじめ動画用に設計されたシネマカメラ」を使う時がやってきたのです。本連載タイトルの「一眼ムービー」からは逸脱してしまいますが、使い勝手はどうなのか、どんな絵が撮れるのか、検証をしてみます。

見た目はコンデジ 中身はシネマカメラ
横幅128ミリ、重さ355g。見かけはほとんど「コンパクトデジタルカメラ」。ページトップの写真はフォクトレンダーのカラースコパー20㎜F3.5をアダプターで装着。かなりいい感じだが、れっきとしたシネマカメラ。ボタン、スイッチ類がほとんどなく、設定は液晶画面のメニューで行なう。
img_products_dslr_nofear23_02.png 軍艦部には録画ボタン、再生と早送り、巻き戻しボタン。ホットシューではなくて1/4インチのねじ穴があるが、当然、三脚に逆につけるためではない。
img_products_dslr_nofear23_03.png 背面はアイリス、AF/ピーク、メニュー、電源ボタン類と液晶だけ。シンプルな分、液晶は3.5インチと大きめ。

まず見た目は「ほとんどコンパクトカメラ」です。ボディはマグネシウム合金の筐体で、シンプルなデザインは好印象。レンズマウントはマイクロフォーサーズ。現行のレンズなら絞りやフォーカスの電子制御も可能です。筆者はパナソニックのレンズをいくつか持っているので好都合。またフランジバックの短さを活用して、味のあるレンズ群を使用可能というメリットもあります(動画では解像感よりも、そのシーンにあった描写力が大事。以前紹介したフォクトレンダー4兄弟などが活躍します)。  

操作系もシンプル。シャッタースピードをコントロールするダイアルなどはどこにも見当たりません。軍艦部の通常はシャッターがある場所には、赤いマークの動画記録スタート/ストップボタン…つまり「録画スイッチ」があります。その隣には再生スタート、早送り、巻き戻しボタン。細かい撮影設定は、背面液晶に表示されるメニュー画面で行ないます。

普通の35ミリカメラに慣れてしまった筆者としては、少々、とまどいましたが、動画専用のカメラと考えれば納得がいきます。そうです、動画は撮影前に露出やシャッタースピードを決定し、その後はほとんどその設定を動かさなくてもいいのです。その意味でシャッタースピードや絞りなどのダイヤルは不要なのでしょう。ただ、ボタン類がとても小さく、何度も押し間違いを起こしてしまいました。

また、軍艦部にストロボを取り付けるためのホットシューがありません!(当然ですが) その代わり、1/4インチのねじ穴が切ってあります(ボディの下にも同じ穴があります)。これは本体の操作性を拡張するための「リグ」という装置を取り付けるためのもの。上下にあることで拡張を容易にしてくれています。

その見かけからコンパクトデジタルカメラのように、背面液晶を見ながら手持ちで撮影してしまいそうですが、それは「絶対に無理」です。もう揺れて、揺れて、見られた映像ではありません。三脚に取り付けて撮影するか、手持ちの場合はリグを装着して肩に固定するか、スタビライザーの装着が基本。決して「ポケットから取り出して、すぐ撮影する」ようなカメラではありません。筆者の場合は「せっかくこんなにコンパクトなのだから。スタビライザーなどつけず、そのままで三脚につけて使用するスタイル」になりそうです。以前紹介したフルードの一脚も、ある程度の動きをつけながら、安定性が保てるので良さそうです。

実は、シネマカメラの使い方で特に一眼デジタルと異なるのが、シャッタースピードの考え方です。まず、シャッター速度とは言わずに「シャッター開角度」と言います。このBMPCCにもシャッタースピードを選択する項目がなくて、基本的には180度、もしくは172.8度、場合によっては144度固定から選択します。180度は24fpsの場合で、シャッター速度1/48秒に相当します。172.8度が1/50秒で、関東圏の電源周波数にあっており、144度が関西圏の電源周波数に合致しているのです。8ミリや16ミリを撮影していた人ならすぐに理解できるでしょう。

フォーサーズマウントでスーパー16ミリセンサー搭載
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右の写真のカメラは、右からAPS Cサイズセンサー搭載デジタル一眼レフ「ニコンD7000」、マイクロフォーサーズセンサー搭載のレンズ交換式ミラーレス「Lumix GX7」、そしてマイクロフォーサーズマウント、スーパー16ミリセンサー搭載の「Blackmagic Pocket Cinema Camera」。かなりコンパクト。しかし三脚などを使わないとカメラ保持は困難。それとも本体の数倍のサイズのリグをつけるか…。

内蔵されたイメージセンサーは「スーパー16ミリ」サイズです。「スーパーとは、どれだけ大きなイメージセンサーなのかしら?」と思ってはいけません。映画の16ミリフィルムの音声トラックの部分まで画像を記録する方式で、通常の16ミリフィルムより2ミリほど広がってちょうど16対9の比率になったものです。

35ミリカメラのレンズを装着すると約3倍の焦点距離、超広角の17mmレンズが51mm標準レンズということになります。マイクロフォーサーズレンズで約2倍の焦点距離。マイクロフォーサーズのマウントを採用しているからと言っても、画角はかなり狭くなっているのです。

動画専用のイメージセンサーということでは、もう一つ重要なことがあります。一眼レフデジタルカメラのセンサーのほとんどは、1600万画素から3600万画素。動画撮影の場合は、そのセンサーから得られるデータを約200万画素(1080pの場合)まで縮小しつつエンコードするため、角度が浅く、かつコントラストが強い直線などにジャギーが発生することがあります。その点、BMPCCの画素数はもともと1920×1080(フルHD)。全く変倍していないリアルな画素数で撮影されるため、ほとんどジャギーの発生がなくなるということ。これは動画専用カメラならではのメリットです。

バッテリーはNikon 1用のバッテリー「EL-EN20」を流用しています。付属のものよりもニコン製のものの方が充電容量が大きく、使いやすいようです。本体でも充電可能ですが、撮影しながら充電するためにニコン製の充電器を別途購入した方が正解だと思います。2個使い切るうちに1個は充電できるので、バッテリーが3個あればかなり回すことが可能です。

DaVinci Resolveとの連携を前提にした動画入力ディバイス

撮影記録方式はRAW撮影(lossless Cinema DNG)と10bit ProRes 422(HQ)が選べます。ただしテストした現行機種ではまだRAW記録に対応しておらず、シネマカメラとしての真の実力を味わうことができませんでした。

とは言っても、BMPCCのProRes 422(HQ)は10bitという階調を持ち、撮影時のカメラ設定で「ビデオモード」と「フィルムモード」のいずれかのダイナミックレンジを選べます。そして「フィルムモード」では、Log形式の記録が可能です。

Log形式というのは、元々ハリウッドでカラーネガフィルムをスキャンしてデジタル化していた時代に、フィルムが持つレンジをできるだけ幅広く記録するために考えられた方式で、ハイライトからシャドウまでの守備範囲を広く設定しています。そのため撮ったままの映像は、のっぺりして彩度も低くなっています。必要に応じたカーブをかけて「完成形」に仕上げるわけですが、ほとんどの場合、かなり極端なカーブをかけることになります。当然、極端なカーブは連続階調を維持できない可能性がありますが、動画の場合、少々の階調破綻は気にならないようです。

ProRes 422(HQ)で記録されるデータ量はRAW記録に比較してかなり小さくなり、64GBのカードなら50分は記録できます(RAWだと10分程度)。これは充分に実用的な記録時間だと思います。カバーするレンジの範囲は、RAW記録時の13ストップに対し、10ストップは確保しているということですが、ハイライトがかなり寝ているので、それ以上のレンジがあるようにも感じられました。

フィルムモードで撮影しDaVinci Resolveで仕上げる
img_products_dslr_nofear23_06.jpg フィルムモード カラーコレクション前
img_products_dslr_nofear23_07.jpg フィルムモード カラーコレクション後
左のカットがProRes 422のフィルムモードで撮影し、補正をかけていない状態。コントラストがなく、眠い映像。このままだと色も出ていない。またこの作例では色温度も高い。右のカットが「DaVinci Resolve」で、カラーコレクション、補正を加えた映像。ハイライト側を持ち上げて、シャドウ側もやや引き締めてコントラストを強めている。中間調(ガンマ)も明るめに変更し、中間調から明るい側にかけては色相をオレンジ系にシフトさせ、彩度もやや持ち上げた。操作感は異なるが、Photoshopでの補正と同じ。

BMPCCは、RAWもしくは、ProRes 422(HQ)のフィルムモードで撮影して、後から補正して仕上げるカメラと考えた方がよいでしょう。通常のカメラが内部で行なうホワイトバランス調整、階調補正、色補正、色調整を含むプロファイル変換、ノイズ処理、シャープネスなどは全て、後工程の処理に回すことでカメラ自体の構造をシンプルにしつつ、幅広いダイナミックレンジを得ることができたと理解するべきカメラなのです。

そしてその後工程での補正やRAW現像を担当するのが、同じブラックマジックデザイン社の「DaVinci Resolve」です。「DaVinci Resolve」というソフトは映像ポストプロダクションでは定番とも言えるカラーグレーディングシステム/ソフトウェアで、ソフト単体で製品版は10万円しますが、機能制限付きライト版は無償で使用できます。制限と言っても、2.5K以上の現像ができないとか、ノイズ処理のモジュールが動作しない程度なので、BMPCCにとっては充分、使えるソフトウェアです。

このソフト、BMPCCユーザーでなくても使わない手はないと思います。かつてのFinal Cut Studioに同梱されていた「カラー」と同様のことができるのです。Final Cut Pro Xの色調整では物足りない場合、この「DaVinci Resolve」でほとんどの補正をこなせます。

現在は日本語版もなく、マニュアルも英語のままなので、使い方を覚えるのに一苦労すると思いますが(なぜってカラコレのプロたちが使用しているソフトですので…当然ですよね)、使いこなせば動画の仕上がりが驚くほど向上すること請け合いです。ただ、私のMac Miniでは動作しませんでした。これは搭載されたビデオカードの問題のようです(MacBook Pro では問題なく動作しましたが、ちょっと重いようです)。

微細な調整ができるDaVinci Resolve
img_products_dslr_nofear23_08.jpg 簡単な編集機能も備える。
img_products_dslr_nofear23_09.jpg 多彩なマスク機能による部分補正。トラッキングも可能。
最新版(原稿執筆時点)のDaVinci Resolve Lite 10 Beta 3 for Macでは、編集機能も強化され、ちょっとした編集もできてしまう。今後、他の編集ソフトを脅かす存在になるかもしれない。カラーコレクション(色の調整、補正)に関しては、さすが定番ソフト。多機能で、細かいマスクを作成したり、グラデーションで効果を与えたり、Final Cut Pro Xと比べてかなり微細な調整ができる。人物の顔などに対しての部分的な補正を、被写体が移動しても追従するトラッキング機能など、この機能だけでもお金を払っていいと思ってしまう。

「Blackmagic Pocket Cinema Camera」、「DaVinci Resolve」ソフトウェアとともに使用してみての感想ですが、ダイナミックレンジを稼ぎたい撮影、そして驚くほど精細に微調整をした動画を作るならばコストパフォーマンスで敵うカメラはないでしょう! 100万円オーバーのカメラに匹敵すると感じます。値段は安いし、コンパクトカメラに見えるし…でも見かけにだまされてはいけません。

これはれっきとしたシネマカメラなのです。それなりの取り扱い、操作方法に習熟してから使用するべきカメラだとつくづく感じました。特にサービス精神旺盛な35ミリタイプのデジタルカメラに慣れた人間には、かなり敷居が高いカメラです。でもその敷居を乗り越える価値は充分にありそうです。

鹿野宏 Hiroshi Shikano

デジタルカメラの黎明期からほとんどの一眼レフタイプのデジタルカメラを遍歴。電塾塾長としてデジタルフォトに関する数多くのセミナーを開催。カラーマネージメントセミナーも多い。写真撮影では2億画素の巨大な画像を扱い、2009年から動画撮影をスタート。WEB上の動画、デジタルサイネージ、社内教育用などの「ミニマル動画」を中心に活動している。

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